雨宮処凛がゆく!

 なんだか怒濤の日々だった。
 この1、2週間ほどだ。

 貧困問題から生きづらさ、働きづらさ、そして福島の現状まで、多くの人と会い、話をした。今もまだそのすべてを整理しきれないでいる。

 まず書いておきたいのは、10月12日に開催された「反貧困全国集会2014」について。おなじみ反貧困ネットワークの秋の集会である。
 この日は北海道から九州まで、全国の「反貧困ネットワーク」のメンバーが集結。各地の報告をしてくれたのだが、私も把握していない地域で反貧困ネットワークがいくつも立ち上がっていて、それぞれの場所で重要な役割を果たしていることには勇気づけられた。一時期と比べ、「貧困」問題のメディアでの注目度は大分、下がった。しかも、状況は悪化し続けている。そんな中、困窮者からのニーズは増え続けていることを改めて実感したのだった。

 さて、この日のメインイベントはシンポジウム。
 出演者は、「首都圏学生ユニオン」の岩井佑樹さん、「東京東部労組メトロコマース支部」の後呂良子さん、この連載でも紹介した『女子高生の裏社会』著者であり、「女子高生サポートセンターColabo」代表・仁藤夢乃さん、そしておなじみ、「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛さん。
 司会は私だ。
 このシンポジウム、立ち見が出るほどの大盛況だったのだが、とにかく刺激的だった。

 なんといってもこの日弾けていたのは後呂さん。最近60歳になったという彼女は、東京メトロの売店で働く「売店のおばちゃん」だ。もともと労働運動などにはまったく関心がなかったどころか「嫌いだった」と断言する彼女だが、正社員との圧倒的な格差がある日、彼女を立ち上がらせた。時給は1000円、月給にして12万円程度。単身の彼女はそれで生活を支えているのだ。そんな彼女は「私たちを、差別しないでください!」と訴えて、昨年3月に同じ「メトロレディー」たちとなんとストライキを決行!
 そんな彼女を、「首都圏学生ユニオン」の岩井さんは「カッコいい!」と大絶賛。

 また、同じく弾けていたのは仁藤夢乃さん。彼女は自身が「難民高校生」だったというギャル時代の写真を映し出しながら、女子高生の行き場のなさと、それを利用する「JK(女子高生)産業」の実態について語ってくれた。甘い言葉で未成年に性的サービスをさせようとスカウトする大人たち。自己肯定感の低さや、貧困、家庭での居場所のなさといった様々な問題が絡まり、少女はJK産業に吸い込まれていく。しかし、そこには当然危険がつきまとう。
 そんな仁藤さんの話を受け、稲葉さんは「女子高生をスカウトする人と、路上生活者に声をかける貧困ビジネスなどの手配師の手口は似ている」と指摘。
 そうなのだ。支援者にはおそらく心を開かない女子高生や、支援者を拒絶する路上生活者も、手配師やスカウトしてくる人々にはひっかかっているという現実があるのである。この辺り、彼らの「ノウハウ」を学べないだろうかと本気で考えたのであった。「空き巣に学ぶ防犯対策」みたいな感じだ。

 ちなみに、この日はスペシャルゲストも客席から発言。元赤軍派議長で、現在はシルバー人材センターから駐車場監視員として派遣されて働く塩見孝也氏だ。客席からシルバー人材センターの労働の実態を語ってくれたのだが、最終的には「全共闘運動」などと言い出し、会場は笑いに包まれる。私としてはおそらく「世界同時革命」まで行くと思っていたのだが、おそらく最近「遠慮する」いうことを覚えたのだろう。ちなみにそんな塩見さんは11月、『革命バカ一代 駐車場日記』という本を出版するという。そのことを伝えるメールには、「過渡期世界論〜世界同時革命」という文章が添付されていた。何やら「ブント第七回大会」で確認されたものとのことだが、私には難しすぎるというかなんというか・・・。

 さて、反貧困集会はこの日はワールドカフェで参加者が大いに初対面の人たちと語り合い、懇親会となって終わったのであるが、その週の終わり、新潟と福島を訪れた。
 新潟大学の学生たちが企画してくれた「社畜にならずに楽しく生きたいんだけど? 〜労働の意味を考える無気力と怒りの宴〜」と題されたシンポジウムは4時間半にわたり、学生たちから「生きづらさ」の実態が次々と語られた。リストカットや摂食障害の問題。また、お金の問題で父親が自ら命を絶ったこと。現時点で抱えている奨学金の返済額が500万円に上ること。それが就職の選択肢を狭めていること。学生以外からも、経済的な事情から進路を変えた話や、自らが勤める高校で、お金がなくて学校をやめた子どもが数人いるなどという実態が語られた。

 その翌日は、福島・喜多方へ。
 講演で「戦争と平和」というタイトルで語ったのだが、出会う人々から聞く福島の現状に、何度か言葉を失った。
 原発事故から3年半が経ち、何か「口にしてはいけない言葉」が、日常に地雷のように埋め込まれているような、そんな感覚。
 ショックだったのは、最近、「甲状腺ガンの手術なんて簡単」というような言説が出てきているということだ。どう考えても、「簡単」ではないと思うのだが、こういった噂みたいなものが何かを象徴している気がしてならない。
 また、原発立地の地域に住んでいた人の賠償金を目当てにした詐欺のような行為もあるそうで、事故から時間が経つにつれ、被害の内容が変質してきていることに、なんだか気が遠くなるような思いだった。
 一方、食品の安全に話が及ぶと、場の空気はなんとなくぎくしゃくするのだった。一人ひとり、立場がまったく違うのだ。

 あの事故から、3年半以上。「食べる」「食べない」「逃げる」「逃げない」など、それぞれが折り合いをつけ、或いはまったく折り合いなどつかないまま、生活を続けている。その中で、少しずつ「禁句」が増えていて、時間が経つにつれそれがより強固なものになっているような、そんな印象を受け、どうしていいのかわからなくなった。今もまだ、混乱している。

 そんな福島では、今週末、知事選が行なわれる。

 

  

※コメントは承認制です。
第313回 JK産業から世界同時革命まで。そして福島。の巻」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    めまぐるしい日々を過ごした様子の雨宮さん。貧困、労働問題、福島のこと、それぞれが抱える「生きづらさ」は違っていても、問題の根っこは同じではないかという気がします。
    争点がわかりにくく、投票率の低さが心配される福島知事選の投開票は、いよいよ10月26日。福島の人たちは、どんな選択をするのでしょうか。
    また、反貧困集会に出演したColaboの仁藤さんのインタビューを、今週更新の「ぼくらのリアル☆ピース」にアップしているので、こちらもぜひご覧ください。

  2. 多賀恭一 より:

    雨宮さんもすでに気づいていて、
    それでいて、口にしづらいことだろうが、
    「大衆は、どうしてテレビや新聞なんかを信じるのだろうか?」
    結局、この一言に尽きるだろう。

    無知であることが、どれほど有害であるのか。
    テレビを見、新聞を読んでも無知は治らないこと。
    おそらく、大多数の人は、
    自身が無知であることを認めたくないために、
    テレビや新聞から役に立たない情報を得て、
    「私は無知じゃないんだ」と自身をだましているのだ。

  3. 島 憲治 より:

    多賀さんのコメント、私もそう思っています。人はなにか支えがないとなかなか辛いものがあります。その「支え」にその人の生き様が表れているような気がします。見栄を張るのか、自分に素直に生きるのか。             「何も知らない」って公言するには少しの勇気がいるのかも知れません。でも、繰り返しているうちにその勇気も不要となります。 そして、さらに大事なのは、「問題提起」できる力、そして「解決する」力」だと考えています。                           

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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