雨宮処凛がゆく!

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開場前の紀伊国屋ホールで。ドキドキです。

 みんな、ありがとうーーーー!!
 そう声を大にして言いたい、叫びたい。
それは9月21日、新宿紀伊国屋ホールで開催された「生きさせろ! 集会」が大成功したから。400人キャパの会場はほぼ満席となり、「歴史の大きな転換点を見た」「歴史的瞬間に立ち会った」という感想が多く私のもとに寄せられた。
 それにしてもさー、あり得ないよね。「労働問題」の集会で紀伊国屋ホールを満員にするなんて。ちょっと前だったら考えられなかったことだ。しかも出演しているのは主に労働運動の若きリーダーたち。フリーター労組と首都圏青年ユニオンと派遣ユニオンとガテン系連帯とPOSSEともやいと素人の乱が勢揃いしただけでも凄いのに、ヴィジュアル系社会学者(勝手に命名)の小熊英二さんも「プレカリアート運動」の社会的意義について熱く語ってくれた。

 集会が大成功に終わった今だから言えるけど、本当は、メチャクチャ不安だった。いや、その不安は「生きさせろ! 難民化する若者たち」を出した時が一番大きかった。だって、前書きがいきなり「我々は反撃を開始する」なんて物騒な文章で始まっているのだ。「我々」って誰だよ? 「反撃」ってどこにだよ? という突っ込みが入る以前に、この本があっさり「無視」されたらどうしよう、という不安。誰も私の怒りを共有してくれず、一人で空回りした上に「企業なんかにやたら喧嘩売ってる危険人物」扱いされたら、下手したら物書き生命自体を失いかねない。「生きさせろ! 」を書き、出版するということは、私にとってはとてつもなく大きな「賭け」だったのだ。

 だけど、蓋を開けてみたらその不安は吹っ飛んだ。取材中からフリーター労組やプレカリアート運動の人達との連帯は始まっていたが(取材が連帯の場になっていた)、その輪はどんどん広がり、半年後には紀伊国屋ホールで全員集合で集会を開催できるほどになった。自分たちだけじゃなくて、たくさんの若者から高齢の方までもが参加してくれた。舞台の上から、客席にいる人達が熱気に満ちた目で「新しい労働/生存運動」のリーダーたちの言葉を一言も聞き漏らさないように身を乗り出している姿を見て、なんだか胸が熱くなった。本当に変わっていくような気がした。

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全員集合! 左から、グッドウィルユニオンの梶屋さん、
フリーター労組の大平さん、首都圏青年ユニオンの
河添さん、社会学者の小熊英二さん、素人の乱の松本さん、
私、私の後ろがガテン系連帯の池田さん、POSSEの今野さん、
派遣ユニオンの関根さん、もやいの冨樫さん。

 だってこの日集った人達はみんな「歴史を変える男たち」なのだ。「派遣法を変える」と凄いことを断言したガテン系連帯は、派遣会社との団体交渉の末、みんなの時給を100円アップさせ、「連休手当て」3万円も既に勝ち取った。グッドウィルユニオンを立ち上げて集団訴訟中の派遣ユニオンの関根さんは、日雇い雇用保険の適用を厚生労働省に認めさせた人と言っていいと思う。素人の乱の松本さんは、高円寺で「革命後の世界」を日々作っている。どんどん政策を提言し、そしてそれをひとつずつ、着実に実現させている人達。彼らは今後もどんどん法律を変えさせ、そして新しい法律を作っていくだろう。なんかみんなスケールがデカくて、フツーに世の中を動かしている。「絶対に変わらない」と思っていたこの社会が、少しずつ変わっている。その手応えは、一度掴んでしまうとやめられない。だって、面白いんだもん! この問題にかかわるようになって、「国会」とか「厚生労働省」とかが私にとって「壮大なレジャーランド」になった。どうせ暴れるなら、舞台は大きい方がいい。

 そしてこの日面白かったのは、「もやい」の冨樫さん。「もやい」に救われた20代の彼は、フリーターをしていたものの生活が困窮し、所持金ゼロ円で大洗から飯田橋の「もやい」まで十日かけて歩いたという経歴の持ち主だ。その十日間、リュックに詰めた「ミックスナッツ」で過ごしたという。ミックスナッツっていうのがすごいリアリティだ・・・。真夏だったので、塩分補給を考えてのことだったらしい。そんな彼は今や「もやい」の「生活相談スタッフ」として活躍している。
 この日の最後に登場した小熊英二さんは、戦後の日本の歴史を辿りながら、現在のプレカリアート運動について語ってくれた。このまま行けば、10年後にはスラム化しているかもしれない東京。予想されるのは治安の悪化と麻薬などの蔓延。「10年後の若者が麻薬の売人になっているか、首都圏青年ユニオンの活動家になっているか、どっちがいいか」と政治に問う発言にハッとした。10年後なんてすぐだ。そしてちょうどその頃、親世代の資産もなくなった現代の不安定層は、放っておけば止まらない勢いでホームレス化しているだろう。
 時間がない。私たちに限られている時間はほんの少しだ。だけどこの日、思った。状況は最悪だけど、ここまでのメンツが揃えば、たぶん大丈夫だ、と。

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最後に全員登壇。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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