マスコミ各社は、菅首相との距離を測っている最中らしい。政治部記者によると、番記者ともほとんど口をきかない小沢・前民主党幹事長が退き、政権の情報が把握しやすくなることへの期待感が強いそうだ。簡単に言えば、ゴマをすってネタを取りたい、ということか。「だから記事が甘くなるんだな…」と妙に納得。
前回のコラムでもちょっと触れたが、消費増税をめぐる報道に、それを強く感じている。すでに決まったことのように新聞紙上では歓迎ムードが先行しているけれど、これっておかしくない?
特に気になったのが、朝日新聞の社説(6月18日付)だ。「『消費税タブー』を超えて」と銘打ち、「消費増税は、ほころんだ社会保障を立て直して安心と成長につなげていく道であり、国の基本設計にかかわる課題だ。選挙後ただちに超党派の検討の場を設け、早急に方向を定めるべきだ」と、菅首相の姿勢をベタほめである。
さらに、この社説、「2大政党の政策が互いに近づいていくことは、グローバル化時代の必然でもある」とのたまい、「そのことは競い合いを通じ政策を進化させることにもつながる。この変化を前向きにとらえたい」と書く。それゆえ、「7月の参院選は、日本の政治をもう一歩前進させる可能性がある」のだそうだ。
おいおい、ちょっと待ってほしい。有権者にしてみれば、今度の参院選で民主、自民のどちらを勝たせても、結局、消費税が上げられるという結果は同じこと。あとあと、「消費増税は信認された」と都合良く利用されるだけだろう。確かに、その他の政党の中には「消費増税反対」を掲げているところはあるけれど、はっきり言って大勢に影響はない。普天間問題を見ればわかる。
これって「消費増税ファッショ」じゃないの? マスコミが、それを無批判に後押ししていいの? 大げさかもしれないけれど、こぞって戦争を賛美した時代への回帰が頭をよぎり、背筋が寒くなる思いだ。
朝日だけではない。毎日新聞の「論調観測」(6月27日付朝刊)によると、東京新聞が「行政の無駄を徹底的に削ることが先決」と主張しているほかは、在京各紙は「必要とあれば正面から国民に負担増も求める」という今度の消費税論議を前向きに評価する社説を掲げているという。
いくら首相と仲良くしたいからといって、権力側の意向を丸呑みする前に、新聞には、やるべきことがあるだろう。本当に消費増税が必要なのか、その前にするべきことはないのか、ムダはどれだけ省かれたのか、予算の使い道は今のままでいいのか、厳しく検証する記事を載せろよ。権力のチェックこそが、マスコミの何よりの役目なんでしょ。そうした点を掘り下げずに、「消費増税が参院選の争点」なんて民主党の言い分を垂れ流さないでほしい。
しかも、民主党はこれまで、当面の消費増税を否定してきた。小沢・前幹事長は参院選公示の日、「3年前の参院選でも去年の衆院選でも、すぐ消費税を増税することはしない、行政の無駄を徹底的に省くというのが主張だった」と語っている(朝日新聞・6月25日付朝刊)。「公約違反」への切り込みも、悲しいほど足りない。
ここへ来て菅首相は「10%を参考に税率引き上げを検討するという自らの発言は、公約ではないとの認識を示した」そうである(朝日新聞・6月28日付朝刊)。公約したのは、超党派で議論しようと提案した部分だけ、なんだと。目先の参院選への損得だけで主張をコロコロ変える首相に対して、マスコミ各社がどう向き合うのか、注視していきたい。
怒ったついでに書くけれど、サッカーのワールドカップ・デンマーク戦を報じた6月25日の夕刊各紙を見て、唖然。1面も社会面も、横並びでサッカー一色。毎日新聞に至っては、1面にサッカー以外のニュースが何も載っていない。「読者をバカにするのも、いい加減にしろ」と叫びたい。一方的な増税の根拠にされるかもしれない、参院選の真っ最中なんだぞ!
民主党も自民党も、消費税増税の一方で、
法人税は大幅引き下げの方針を打ち出しています。
それって本当に必要なこと?
私たちの生活には、どんな影響があるの?
そんな当然の疑問とまずは向き合うのが、
メディアのそもそもの役割なのでは?