雨宮処凛がゆく!

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大阪の街で。

 北九州で、またしても餓死者が出た。生活保護を「辞退」させられた果ての餓死だ。最後の言葉は「おにぎり食べたい」。「景気回復」などと言われ、大企業が「至上最高の利益」を連発するこの国で、本当に飢え死にしてしまう人がいるという事実に愕然とする。やっぱりこの国の政治は「貧乏人は一刻も早く死ね」というスローガンのもとに成り立っているのだ。しかし、いまだ生活保護受給者への「だらしない」などというバッシングは絶えない。が、餓死した人は病気で働けなかったのだ。生活保護バッシングを突き詰めると「何かのきっかけでつまづいたり働けなくなった奴はホームレスになって飢えて死ね」ということになる。目の前に飢えて死にそうな人がいたら、誰だって助けるだろう。本気で突き放す人なんていないはずだと信じたい。生活保護バッシングを突き詰めれば餓死を容認することになるという、その回路が完全に途切れている人が多いように思うのだ。「経済」8月号によると、04年の餓死者は68人(厚生労働省の調査)。どうしてこういう数字はあまり報道されないのだろう。

 北九州の餓死事件にショックを受けながら、12日、大阪市立大学で「生きさせろ!プレカリアートの新たな運動は可能か?」というシンポジウムで喋ってきた。150人以上の人に参加して頂き、来場者の中には学生だけでなく、大阪でホームレスの支援活動や組合運動をしている人達も多かったらしい。東京で起こっている反撃の数々を伝え、シンポジウムというよりもデモ前の集会みたいな空気でとても楽しかった。

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大阪の「ビッグイシュー」編集部で。

 その翌日には東京に戻り、「オールニートニッポン」。今回のテーマは「フリーターの反撃が始まった! 若者による新しい労働運動の夜明け」。ゲストに斎藤貴男さん、グッドウィルユニオン委員長の梶屋大輔さん、そしてたまたま会場に来てくれたために私につかまって出るハメになったフリーター全般労働組合の山口さんをお迎えして、ものすごく有意義な公開生放送となったのだった。斎藤貴男さんと言えば、「機会不平等」などで、現在の非正規雇用の状況についていち早く警鐘を鳴らしていた人であり、数少ない「フリーターの味方」というべき人である。私はまず、ワーキングプアを生んだのは政治である、ということを知ってもらうため、斎藤さんになぜ「非正規雇用が33%」という今の状況が作られたのかを話してもらった。話は経済のグローバル化やバブル崩壊、その後の不況、そうして95年に日経連が出した報告書「新時代の日本的経営」に及んだ。この報告書で日経連は働く人を「長期蓄積能力活用型」と「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」に分け、結果、若者の多くが使い捨ての激安労働力にさせられた。平井玄氏は、「ミッキーマウスのプロレタリア宣言」で、この層を日経連への皮肉を込めて「生死柔軟型」と呼んでいる。生きるも死ぬも柔軟な使い捨て労働力。なんのことはない、今の状況は12年前から準備されていたのだ。個人の努力とか能力とかはまったく関係なしに。

 そうして労働法制がガンガン規制緩和され、派遣がほぼ全職種で解禁された結果、まさに不安定で低賃金の「生死柔軟型」が大量に作られた(この辺は「生きさせろ!」を参照してほしい)。雇用政策が根本から変わり、結果、皺寄せを食らったのは若者だ。若者の多くがワーキングプアなのって明らかに政治のせいなのに、生まれながらの特権階級で一度も「チャレンジ」なんかしたことのない安倍は「再チャレンジ」とか言っている。つか、安倍とか財界の金持ちに、一ヵ月でいいから最低賃金で暮らしてみろと言いたい。それで充分に家賃、光熱費も払えて栄養失調にもならずに家族まで養っていけると言うんだったら私は今すぐ引き下がるつもりだ。つか、総理大臣の給料を時給制にして、全国最低額と決めたらどうだろう。安倍の時給は610円だ。

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「ふぇみん」の「泊まってシンポ」。講演の後に交流会、
そして翌日の分科会と楽しませて頂きました。

 さて、その翌日はまたしても大阪へ。午前中、社民党の福島みずほさんと辻元清美さんと、そして参院選候補の服部良一さんという「おっさんフリーター」と京橋の街頭で上記のようなことを喋った後(辻元さんは「大阪から自民党を追い出したい」と絶叫。どうせなら日本から追い出したい)、「ふぇみん」の「泊まってシンポ」で「働けど、働けど、ワーキングプア・・・なんでやねん!!」という大阪らしいタイトルの講演。こちらにも200人ほどが参加して下さり、様々な意見交換の場となり、とても充実した時間を過ごせたのだった。

 そんな楽しい大阪滞在中、釜が崎を訪れた。道端でオッチャンたちが着のみ着のまま寝転がっている町の壁に貼られた自民党のポスターに「格差の是正」と大きく書かれていたのを見て、心の底から脱力した。・・・よりによってお前らが言うことじゃないのでは?  だけど、脱力してばかりはいられない。ということで、グッドウィルユニオンが、ピンはねと不安定雇用に抗議する緊急行動を起こす。名付けて「折口ちょっとこい!」。スローガンは「グッドウィルは『データ装備費』を全額返せ」「生活できる仕事をよこせ」「ワーキングプアをなくそう」。7月22日、午後4時に六本木通り沿いのメトロハット集合だ。もちろん私も行くので、ぜひ来てほしい。詳細はこちらで。
 ということで、どうか参院選で自民党が惨敗しますように(あくまで私の心の呟きです)。

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せっかく大阪に行ったので思わず甲子園にも行きました。
野球とか、全然わかんないんですが・・・。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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