雨宮処凛がゆく!

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この間の「アキバ解放デモ」で。本格的な人と。

 7月6日、北海道に行ってきた。北大で講演会というか、「中村屋のボース」著者の中島岳志さんと対談をするためだ。

 タイトルは「生きさせろ! 若者の声から格差社会の法と政治を考える」。呼んで下さった中島さんは私と同じ32歳。話はロストジェネレーションから、お互いが20歳の時に起こった3大事件(阪神大震災、オウム事件、戦後50年)、そして「生きさせろ!」にまつわる現在の「働くこと」「生きること」の崩壊などについて、多岐にわたった。後半は「自由と生存のメーデー」や「高円寺一揆」の映像を紹介しながら、始まっている「反撃」の数々を伝えた。

 北海道と言えば、何を隠そう、私が高校卒業までを過ごした場所だ。そして北大のある札幌は、私が高校時代にしょっちゅう家出していた場所である。なぜ家出をしていたのか。それは当時の私が「バンギャ」だったからだ。バンギャとは、ヴィジュアル系バンドを好む女子の総称。10代なかばを、私はバリバリのバンギャとして過ごしていた。札幌に東京からヴィジュアル系バンドが来れば電車で1時間ほどの田舎町から駆け付け、ライヴ、打ち上げに参加し、追っかけして野宿、そのまま数日の家出というパターンを繰り返していたのだ。当時の私は学校にも家にも居場所がなかった。ライヴハウスだけが心の休まる場所だった。家に帰りたくなくて、真冬の札幌でマイナス13度の中、野宿したこともある。バンギャ友達と「寝たら死ぬよ」と越冬隊のように励まし合った夜が懐かしい。

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私のバンギャ時代をテーマに書いた長編小説、
『バンギャル ア ゴーゴー!』しかも上下巻
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 それから15年。札幌で講演を終えた夜、当時、私がほぼ住んでいたと言ってもいい狸小路のロッテリア近くで飲んだ後、ホテルに泊まった。札幌のホテルには追っかけ時代、何度も泊まった。好きなバンドのメンバーと同じホテルを取る、というのが当時のバンギャの流儀だったからだ。しかし、当時の私は高校生。ホテル代など到底出せない。そして追っかけ仲間もみんな金がない。そこでやったのが、「シングルルームに複数で泊まる」という荒技だった。もちろんホントはダメなんだけど、結構緩いホテルもあった。私の最大記録はシングルに8人。中にはシングルに13人で泊まったというツワモノもいる。

 漫画喫茶もネットカフェも24時間営業のマックもなかったあの時代、ホテルに泊まれなければホテルのロビーで夜を明かしたり(追い出される)、野宿したり、寒さに耐え切れず一晩中歩きまわったり、大きなホテルのトイレで寝たりした。そう思って、気づいた。あの頃の私はかなりの「ホームレス」だったのだ。いや、帰る家はあった。だけどどうしても帰りたくなかった。札幌には、現在150人ほどのホームレスがいるという。北国のホームレスのキツさを私は知っている。最近、書店などで、長時間トイレの個室にこもる人がいるという話を聞く。ホームレスの人達が寝ているらしい。もしかして、私がホームレスの問題などをスルーできないのは、10代のあの頃、かなりホームレスな生活をしていたからではないかと思った。金のなさとか、行くあてのなさとか、寒さとか空腹とか、今もリアルに覚えてる。だけど私にはいつもバンギャ仲間がいた。そして最終的には帰れる家もあった。

 だけど、ホームレスの人は多くが孤独だ。そして彼らに話を聞くと、帰る家があるのにどうしても帰りたくない、帰れない、という意見があることも事実だ。ホームレスの人を見ると、いつもあの頃の、途方に暮れた気持ちを思い出す。所持金は数百円、空腹で、眠くて、疲れてて、だけど誰も私が困っていることにすら気づかずに通り過ぎていく雑踏の中で、自分が透明人間になったかのような感じ。そんな家出少女だった私が、やたらと「ホームレス」や「フリーターのホームレス化」、「ネットカフェ難民」なんかにこだわってしまうのは当然なのかもしれないと、札幌で思ったのだった。彼らは、心底途方に暮れていたあの時の私と同じ顔をしている。

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北大で、中島岳志さんと。

 さて、そうして東京に帰ってきてみると、またもや状況が動いていた。前々回に書いた「グッドウィルユニオン」が、データ装備費の全額返還を求めて、なんと集団訴訟をすることになったのだ!! まさに、フリーターの反撃! 逆襲!! また、フルキャストで働く日雇いの人達で作られた組合「フルキャストユニオン」も凄い。今年の2月まで、「フルキャスト」では一回働くごとに「業務管理費」とか言って250円が毟り取られていたのだが、団交を重ね、遂にフルキャストに「創業時から返却する」と発表させたのだ!! 怒濤の快進撃である。ワーキングプアの温床と言われる場で結成された労組は、一体何十億、いや何百億動かしてしまうのだ? ちなみにグッドウィルの06年の売上高は1000億円以上。フルキャストは400億円以上。現場で働く人は日給6〜7000円。満遍なくワーキングプア。家すらない人もいる。
 さぁ、とうとう金持ちから奪い返す時が来た!!

 そんな怒濤の快進撃を続ける「新しい労働運動」の第一線を熱く伝えるトークライヴが7月13日、渋谷で開催される。タイトルは「フリーターの反撃が始まった! 〜若者による新しい労働運動の夜明け」。グッドウィルユニオンの委員長・梶屋大輔さんとジャーナリストの斉藤貴男さんをお呼びして、私とがっつり語る予定だ。トークはネットラジオでも放送される。詳しくはこちらで。

 そして「ワーキングプア」の実態、ここにあり!
キヤノンで働く派遣労働者がドキュメンタリーを作っちまった。
タイトルは「遭難フリーター」。私はアドバイザー。大傑作! 7月20日、完成試写会を開催する(私もトークで出ます)。詳細はこちらで!
 この一連の祭りに参加すると、たぶん人生が面白くなるはずだ。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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