「このままいけば(*)、日本は(ドイツに先んじて)脱原発を世界に向けて宣言できるのに、そうした機運が盛り上がらないのは、運転を停止している原発を何とかして再稼働させたいという思惑が政府や電力会社にあるからでしょう。残念ですね」
(*:9月15日に、大飯原発が定期検査に入るため、再び国内の稼働中の原発はゼロに)
東京電力福島第一原発の重大事故後、ドイツ政府に脱原発へと舵を切らせた「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」のメンバーの一人で、現在来日中のミランダ・シュラーズさんはこう語ります。
アンゲラ・メルケル首相とクラウス・テプファー元環境相が一本釣りのようなかたちで募ったこの委員会のメンバーは学者、企業家、宗教家など様々。日本の研究者でもあるミランダさんは、福島原発事故を巡る日本社会の状況についても意見を求められました。
2005年に社会民主党との大連立を組んでドイツ初の女性首相に就任したメルケルは、当初、短命と予測されていました。各政党の海千山千の政治家ぞろいのなかで、リーダーシップを発揮するのは難しいと思われていたのです。
しかし、彼女は実にしなやかな政権運営を行います。自分の思想や信念を前面に押し出すことなく、世論や政財界の動きを冷静に観察したうえで、現状で最も良い選択をする。考えてみれば、東ドイツの民主化運動を担っていた一物理学者から、わずか15年で総理大臣にまでのぼりつめた身。政治家としての能力や嗅覚は並大抵のものではないのでしょう。
こぶしを振るって集団を率いるというよりも、国民の要望をくみ取り後ろからついていくフォロワーのような、しかし、決断は早く力強い――そんな形容をしたくなる政治家です。
「メルケルさんは原発の仕組みについて実に豊富な知識をもっていました」
ミランダさんは当時の首相の印象をこう振り返ります。元物理学者で、原子力に関する知識も豊富な首相は福島原発事故から4日後の記者会見でこう述べました。
「日本で起こった出来事は、これまで絶対ないと考えられてきたリスクが絶対ないとは言えないという事実を教えてくれている。たんにこれまで通り、(稼働年数延長の計画を)このまま進めることはできない」
そして先日、福島第一原発の放射能汚染水漏れに触れてこう述べています。
「最近の福島についての議論を見て、(ドイツの)脱原発の決定は正しかったと改めて確信している」
ミランダさんのインタビューは近々マガ9でアップされる予定です。ご期待ください。
(芳地隆之)