地元・谷根千での活動の一方、 ここ数年は、「畑仕事」に通っている宮城県にも、新しいネットワークが生まれつつあるという森さん。日本の「農」と「食」について、そして現在の政治状況についてもお話を伺いました。
作家・編集者。1954年生まれ。早稲田大学政経学部卒業、東大新聞研究所修了。出版社勤務の後の1984年、友人らと東京で地域雑誌『谷中・根津・千駄木』(谷根千工房)を創刊、2009年の最終号まで編集人を務める。主な著書に『円朝ざんまい』(平凡社)、『東京遺産』(岩波新書)、『起業は山間から』(バジリコ)、『女三人のシベリア鉄道』 (集英社)、『海に沿うて歩く』(朝日新聞出版)など。歴史的建造物の保存活動や戦争証言の映像化にも取り組む。
一極集中でない「町」のあり方を
編集部
さて前回は、地元・谷根千を中心とした活動についてお話を伺いましたが、最近はそのほかに、宮城県の伊具郡丸森町に家を借りて、そちらへも定期的に通っておられるそうですね。
森
もともとは、父方の祖父母が生まれ育ったところなんです。近くにクラインガルテン(市民農園)という、畑と家をセットで貸してくれる施設があるので、そこを借りて、毎月1週間か10日くらいは畑仕事に通っています。
編集部
何かきっかけはあったんですか?
森
一つは、生活が食べ物の生産と切り離されているのはヤバいな、と思ったこと。それは『自主独立農民という仕事』(バジリコ)という本を書いて、佐藤忠吉さんという百姓哲学者と会ったのがきっかけですが。
それと、海外を旅すると、日本ってすごく一極集中型ですよね。自治体を2000にして、過疎地を「限界集落」として切り捨ててしまった。でも実は日本の国土の条件はすごく恵まれている。70%以上は山地にしても、水はあるし、森はあるし、気候は温暖だし、そこにも上手に住んでいろんな産業を興していける可能性は十分あるのに、なぜか北海道なら札幌、九州なら博多というふうに、大都市にばかり人が集中して、小さな村々や里山は捨てられている。
編集部
たしかに、地方の小さな町や村では、どこも高齢化や過疎化が問題になっています。
森
大都市の次の「中都市」があって、さらに小さな町や村があって、それが互いにつながっていくような形、日本の隅々まで血が通っているようにしないと。その意味で、丸森のような里山の町にすごく興味があったんですね。
谷根千はまだ町工場もたくさんあるし、食べ物にしても何にしても、出来合いではなくて「自分たちで作って売る」人がたくさんいる「健全」な町だとは思うんですけど、でもやっぱり農業とか漁業のような第一次産業とのつながりは薄い。この先、大地震などの災害があるかもしれないし、いざというとき餓死するのはいやだと思ったんです。
年齢的にも、林住期といいますか、自然の中で暮らすことを欲していたんだと思います。最初は飽きたらやめればいいや、くらいの感じだったんですけど、もう4年目に突入してますね。とにかく野菜がうまい。
「自分に身近な問題」に、粘り強く、
丁寧に取り組んできた森さんならではの視点。
直接にはつながらないように思えても、
まずは身近なところを変えていこうとする力が、
結果的には「大きな問題」をも動かしていくのでしょう。
森さん、ありがとうございました!