今週の「マガジン9」

 というトム・クランシ―のスパイ小説があります。このタイトル、いまの日本にこそふさわしいのではないでしょうか。
 日本の総人口1億2753万人のうち、65歳以上の高齢者人口は3074万人と初めて3000万人を突破し、4人に1人が高齢者になったと総務省が発表したのは昨年(2012年)9月でした。2007年からは死亡者数が出生者数を上回っており、こうした傾向が続けば、2040年には人口がいまより2000万人減少するといわれています。
 高齢者が増え、若年層は減れば、社会保障(医療、年金・福祉等)の支出は膨らみます。2010年の社会保障支出は103兆4879万円で、初めて100兆円台を超えました。
 2012年末の国と地方自治体の長期債務残高は約940兆円(見込み)です。ヨーロッパではギリシャをはじめ、ポルトガル、イタリア、スペインが深刻な危機に陥りましたが、国際通貨基金(IMF)によると、ギリシャの国家債務は対GDP(国民総生産)比で171%、イタリアは126%、ポルトガルは119%、スペインは91%。一方、日本のそれは237%と、先進国のなかで突出しています。
 日本企業の海外流出の流れは止まりません。2012年12月時点の製造業の就業者数は998万人。ピークだった1992年10月の1603万人と比べ、約4割減少し、製造業が日本のGDPに占める割合は、1980年の27.1%から、2011年には18.6%まで低下しました。
 製造業の比重の低下による影響が最も表れるのは非正規雇用です。景気が悪化すれば、真っ先に雇用の調整弁とされます。15~24才の年齢層における非正規労働者の割合は、2010年時点で43%。翌年の同世代の失業率は8.2%と、全世代の4.6%を大きく上回っています。
 以上、悲観的な数字を並べました。これに、いまだ収束からは程遠い東京電力福島第一原発の事故処理を加えた諸問題にどう対処していくか。自民党政権から具体的なビジョンを聞いたことがありません。人口が減り、モノづくりをしなくなる日本で、アベノミクスはどうやって経済成長を実現するのか。誇りとか、毅然とか、断固たる、といった抽象的なことを語っているのは楽でしょうが、本気で仕事に向き合う人間は、解決の難しい問題から着手するものです。
 先日、毎日新聞が行った世論調査では、集団的自衛権について、行使できるようにした方がいいと「思わない」とした人が51%に達しました。安倍晋三首相に一番に取り組んでほしい国内の課題は「景気回復」が35%と最多で、首相がこだわる「憲法改正」は3%にとどまったそうです。
 私は、この国の為政者よりも、国民の方が日本の直面している危機を正しく認識していると思います。

(芳地隆之)

 

  

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