今週の「マガジン9」

 先の参議院選挙の投票率は52.61%。戦後3番目の低さだったそうです。
 選挙権の行使は民主主義の根幹であり、この数字は残念ですが、反面、頷けるところもあります。選挙が面白くないからです。
 民主党が政権を獲得した4年前の夏以降に行われた国政選挙は、どれも懲罰的な様相を呈していました。戦う前から「与党は惨敗」とか「野党の圧勝」という予測がマスメディアから早々に報じられる、まるでデキレースのような選挙に、有権者の半分近くが投票に出かける意欲を失ったとしても不思議ではありません。政権交代の緊張感を生み、与野党が切磋琢磨するような政治を目指した二大政党制が、与党から緊張感を失わせかねない、皮肉な結果を生んでしまったといえます。
 選挙の面白みのなさのもう一つの理由には、自らの旗印を明確にして戦う政党が少ないことがあると思います。
 たとえば経済政策、税制、憲法、TPP、原発などについて民意は様々です。ところが数で勝負せざるをえない政党は、これら日本の未来を決める事柄に対して違う意見をもった候補者を抱えざるをえません。そのため選挙後の政権運営で、国民が「そんな話、聞いてないよ」と思うようなことが起こる。そして、その反動が次の選挙で極端なかたちとして出る。その繰り返し。与党に白紙委任をするような選挙はあえて棄権するという人の気持ちもわかるのです。
 そういう意味で、今回東京選挙区・無所属で立候補した山本太郎さんと全国比例区・緑の党グリーンズから立候補した三宅洋平さんの存在は新鮮でした。ネットと路上で有権者とつながり、脱原発、脱被ばくを中心に、TPP反対と過酷な労働環境の改善に争点を絞った選挙戦は、力強い経済成長とか、子供たちが誇りのもてる教育とか、やさしい社会といった他党の抽象的なスローガンとは一線を画していました。
 山本さんは666,684票を得て当選。テレビの選挙特番のインタビューで、選挙後の自分を有権者はしっかりウォッチしてほしい、(自分ではない候補者に入れた)有権者は支持した政治家の尻を叩いてほしいと語っています。いわば民主主義の基本。こうしたことを語る政治家がいままでいたでしょうか。
 三宅さんは176,970票を得たものの落選。しかし「選挙フェス」という新しい手法で、今まで政治に無関心だった若者たちを確実に惹き付けました。
単なる「アンチ」に留まらない彼らの姿勢やストレートに訴えかける言葉は、ネットでまたたくまに広がっていきました。言うまでもなくそこには、大手代理店の専門チームなど存在しません。
 こうした一個人の決意と行動が世の中を変えていくかもしれない。そんな思いも抱いた選挙でした。

(芳地隆之)

 

  

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