今年5月の日米共同声明で、
再び普天間基地の「移転先」とされた沖縄・名護市辺野古。
今も座り込みの反対運動が続くこの浜で、10月、
音楽を通じて「基地はいらない」のメッセージを発信しようという、
一大野外イベントが開催されます。
「ピース・ミュージック・フェスタ! 辺野古2010」の実行委員、
ミュージシャンの知花竜海さんにお話を聞きました。
知花竜海
(ちばな たつみ) 沖縄を拠点に、「ジャンル・文化・言語・国境線を音楽で越える」活動を続けるアーティスト。2001年にバンド「DUTY FREE SHOPP.」として発表した、沖縄をテーマにしたアルバム「カーミヌクー」が県内で話題に。また2004年には、ラッパーのカクマクシャカと共に沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落事故をテーマにした「民のドミノ」を発表し、全国的に注目を集める。2010年4月に開催された「普天間飛行場の早期返還を求める沖縄県民大会」のオープニングライブも務めた。「Peace Music Festa!辺野古2010」の実行委員代表。ホームページ http://www.akagawara.com
◆「継続する」ことの大事さを伝えたい
──さて、いよいよ来月に迫った「ピース・ミュージック・フェスタ! 辺野古2010」ですが、実は一時は「今年はやれないかも」という話もあったとか?
ええ。去年のフェスのときが決定的な大赤字だったので、「今回はもう、さすがにちょっと無理じゃないか」という話もしていました。
──それでもやろう、ということになったのは?
この半年くらいの普天間問題の動きを見ていると、やっぱり今年が節目の年になるだろうし、「今やらないでいつやるんだ」という話になって。半分無理矢理、ほとんど気合いで(笑)やろうということになったんです。
──というと?
去年の衆院選のとき、沖縄の人たちはみんな「最低でも県外」という言葉を信じて民主党を勝たせたわけじゃないですか。ところが、結局「県外移設」を掲げていた鳩山さんは辞任して、また「辺野古へ移設」という話になってしまった。それによって、期待が高まっていた反動で多くの人が政治離れしてしまったというか、みんなの気持ちが引いてしまったのを強く感じたんですね。
──たしかに、今年夏の参院選では、沖縄の投票率は全国でも最低。かつては「辺野古への移設容認」を掲げていた自民党候補が当選という結果になりました。
多分、ずっと基地移設に抵抗して頑張っている人たちの固定票は、今回もその前も変わらないんです。ただ、政権交代の前後から「基地がなくなるかも」ってにわかに期待を抱いて動いた人たち、いわゆる浮動票といわれる層が、「やっぱりダメか」って失望して、あきらめてしまった。そういう結果だったと思います。
だけど、それじゃ基地をつくりたい人たちの思うツボでしょう。今こそ「ふざけんな、まだ終わってない」っていうことを、ちゃんと沖縄から言わないといけない。そして同時に、「継続することが大事なんだ」ってことを、「あきらめちゃった」人にも見せたい、と思ったんです。僕らは今回初めて何か淡い期待を抱いて動き出したわけではないし、一貫して着実に続けていくことが大事だ、というスタンスなので。
◆焦って結果を求めるより、長いスパンで考えよう
──今回ダメだったからもうダメ、じゃなくて、一貫して声を挙げ続けていくことが重要だ、と。
そもそも、自民党政権がずーっと解決できなかったものを、民主党政権に代わったからって1年とかで劇的に状況が変わるなんてこと、あるわけないじゃないですか。多分、僕らが生きてる間はずっと付き合っていかなくちゃいけない問題なわけで。
──メディアの報道の多くも、鳩山政権成立後は「早く結果を出せ」の大合唱でしたね。
これは沖縄の人に限らず、日本人みんながそうなのかもしれないけど、ちょっと結果を求めるのが早すぎるところはありますよね。早く結果を出せ、答えを出せ、と迫って、それでダメならすぐに幻滅して支持率が下がっちゃう、みたいな。「もうちょっと頑張らせよう」って長い目で見て、段階的にやっていかないと何事も進まないのに、すぐに目に見える成果を求めてしまう。
一番よくなかったのはあの「5月末決着」という話ですよね。
──たしかに!
どう考えてもそんな短い時間で決着できるわけはないのに、「やりますやります」と言っちゃって。それに間に合わせようとして、あっさり「やっぱりダメでした」という結論を出しちゃった。
基地問題って、社会の構造、システム全体の問題だし、さらに言えば人間の生き方そのものの選択の問題でもあると思うんです。そういうことって、一気にガバッと変えることは不可能でしょう。段階を踏みながら、少しずついい方向へ進めていくことが必要なんじゃないか、と思うんですよね。
8月に東京で開催された、「ピース・ミュージック・フェスタ!」プレイベントにて(写真提供:高田沙織/2点とも)
◆基地問題は「沖縄の問題」じゃない
──ピース・ミュージック・フェスタ! 開催も、その「段階」の一つ?
そうですね。細かい部分を突き詰めていったらみんなそれぞれ意見は違うだろうけど、辺野古の海を見たときに、「この海を埋めていいわけはないだろう」というのは、ほとんどの人が納得できるラインなんじゃないかと思うんです。そのラインに立って、派閥とかタブーをどんどん打ち破って、まずはみんなで考えよう、話し合おうという空気をつくりたい。出演者同士、お客さん同士、出演者とお客さん、みんなが互いに「どう思ってるの」っていう話をするきっかけになれればと思っています。
──ただ、地元の辺野古住民は、少なくとも表面上は普天間基地代替施設の受け入れに賛成、ということになっていますよね。そこで「基地をつくらせない」というイベントをやるというのは、どういった受け止められ方をしているんだろう、とも思うんですが…。
沖縄では基地問題について発言するのが難しい、という話をしましたけど、その中でも辺野古の人たちは、多分一番意見を言えない立場にあるんですよね。賛成にしろ反対にしろ、表立って声をあげることはほとんど不可能です。お金を使った分断工作で人間関係も相当壊れてしまってるし、多くの人にとっては「波風立てずにそっとしておいてほしい」のが本音じゃないかと思います。
だから、もしかしたら今回の開催については、不本意に感じている方もいるかもしれません。だけど、そこで僕らがひるまずに言わないといけないのは、「これは辺野古だけの問題じゃないし、沖縄だけの問題でもないんです」ということだと思うんですよね。
──「地元の人たち」だけの問題ではない?
沖縄に住んでる僕らでさえも、やっぱり辺野古の住民ではないから、この問題に関しては「よそ者なのに口を出していいのか」という遠慮があります。でも、それって沖縄の人と県外の人の関係についても言えることじゃないですか。「沖縄の基地問題は大変だと思うけど、沖縄の人間でもない自分たちがどこまで言っていいの?」みたいな。
──たしかに、私たちにもそういう遠慮というかためらいはどこかにありますね。
だけど、それって結局、基地をつくりたい側の思うツボじゃないですか。ずっとそういうふうに、辺野古だけの、沖縄だけの問題だ、というふうに思わされてきて、それによって結局いいように事態が進められてきてしまったわけで。辺野古にしろ沖縄全体にしろ、「当事者」だけじゃ数が少なすぎて、決定を覆せないですから。
でも、新しく基地がつくられることで、被害を受けるのは何も辺野古だけじゃない。そこに離発着する飛行機が墜落する可能性は島のどこにでもあるし、基地の固定化につながるという意味では沖縄全体が等しく被害を受ける問題でもある。さらに言えば、周辺諸国が警戒して軍拡を進める可能性だってありますよね。
しかも、基地を建設したり移転したりするのに使われるのは、日本人全体の税金です。その意味でも、全然「沖縄の人の問題」じゃなくて、当然日本人全体が考えないといけない問題、国民全体に突きつけられてる問題なわけです。辺野古という象徴的な場所でイベントをやることが、そのことを意識する一つのきっかけになったらいいなと思っています。
──ありがとうございます。では最後に、知花さんの考える「平和な社会」とは? を聞かせていただけますか?
多様な文化や価値観が、お互いを尊重し合い、狭い地球の上で調和して共存していける社会だと思います。そのためには、今の社会のシステムと、僕らの「生き方」を変えていかないといけない。
沖縄のことで言えば、これまでは戦後強制的に基地の島にされてどうしようもなくここまで来た。だからと言ってこれからあとの未来もそれでいいのか。おそらく基地依存経済はあと10年持たないですよ。それまでに沖縄の海や豊かな自然やコミュニティや人の心は破壊し尽くされてしまう。「豊かさ」に対する考え方、戦争に対する考え方、エネルギーに対する考え方、国家に対する考え方…未来を見据えてぐいっと違う方向へ舵を切れるかどうか、今の僕たちはその岐路に立たされていると思います。
辺野古でのピース・ミュージック・フェスタ! に先駆け、
10月3日(日)には、それを東京から応援しよう! というイベント、
『沖縄〜東京 ピースカーニバル2010』が東京・青山で開催されます(知花さんも出演予定!)。
こうしたイベントに行くもよし、カンパで応援するもよし、もちろん沖縄に駆けつけるもよし。
「沖縄だけの問題」にしないために、やれることはいくつもあります!
知花さん、ありがとうございました。