地デジこと、地上デジタル放送への完全移行まで、7月24日で1年になった。つまり、1年後のこの日をもって、今のアナログ放送は見られなくなる。そういえば、テレビ各局の自社媒体を使った宣伝の垂れ流しが、最近ますます激しくなってきた。
恥ずかしい話、私自身、どうやったら地デジのテレビ番組を見られるのか、いまだによくわからない。こっちは今の放送で別に困っていない(放送内容は別にして)のに、勝手に切り替えられて、しかも自腹で高価な機器を購入するのはシャクである。何なんだよ、と思っていた。
移行1年前に合わせて、「本当にアナログ停波ができるのか、強引にデジタル化に踏み切ることでいいのか」をテーマに掲げたシンポジウム(日本ジャーナリスト会議、放送を語る会主催)が開かれると知り、猛暑日に東京・渋谷まで出かけた。
講師の砂川浩慶・立教大准教授の話を聞いて、私個人の準備状況とは全くの別次元で、1年後にアナログ放送を停めるのは無理だし、停めてはいけない、という思いが強くなる。
総務省の3月時点の調査によると、地デジに対応した受信機の普及率は83.8%(世帯ベース)だ。えっ、そんなに高いのか、と驚く。でも、というか、やはりというか、調査自体がかなりいい加減だそうだ。砂川さんは「実際の普及率は6割台では」と見立てていた。
この調査でみても、年収200万円未満の世帯の普及率は67.5%と際だって低い。普及率が一番高い富山県と一番低い沖縄県の差は約23ポイントもある。加えて、地デジに必要なUHFアンテナが付いていない南関東(東京、千葉、神奈川、埼玉)の集合住宅での遅れも目立つそうだ。
民主党は政権交代前は地デジ移行の「見直し」を謳っていたのに、政権を取ってからというもの、ほとんど何もしていないという。行政も、担当の総務省以外は関心なし。受信機のメーカーにとっては、過剰投資を避けるために需要がばらけた方が都合がいい。NHKには、アナログ放送用の機器しか持っていない人から受信料が取れなくなったり、前払いした受信料の返還義務が生じたりするのでは、との懸念がある。民放にしても、受信可能なテレビの数が今より減ればCM料金を値切られかねない。
結局、1年後という期限に縛られずに、もう少しじっくり取り組んだ方が、関係者みんなにとってありがたいのだ。
何より決定的にダメなのは「きちんとしたデータに基づいた冷静な議論がないまま、なんとかなるんじゃない、という漠然とした雰囲気で、直接の担当者以外はいまだに緊張感がないこと」(砂川さん)だろう。しかし、今年度だけで870億円の国費を関連予算に計上しているというのに、そんな無責任なことでいいのかよ。真っ先に事業仕分けの対象にしろよ!
現実を直視した計画づくりが急務だと、砂川さんや、ジャーナリストの原寿雄さん、坂本衛さん、弁護士の清水英夫さんが発起人になって、7月17日に「地上デジタル放送完全移行の延期と現行アナログ放送停止の延期を求める提言」を発表した。
提言は、テレビを社会インフラととらえ、災害など生命にかかわる情報はもちろん「生活に必要不可欠な情報を低コストで広く伝えるきわめて重要なライフライン」と位置づけている。国の都合で今の放送が切られて、市民が情報にアクセスできなくなると、どんな不利益が生じるか。そこから導かれる「強引なアナログ停波は基本的人権の侵害にあたる」という視点は新鮮だった。
それにしても、地デジの現状や問題点に触れたマスコミ報道は本当に少ない。当事者のテレビ局には批判的な視点を全く期待できないから、頼るべくは新聞ということになるのだが……。砂川さんは「テレビは市民のもの、というスタンスで、市民感覚に根ざした記事を」と呼びかけていた。役所べったりで市民から遊離していくばかりの今の新聞社には、極めて荷が重い注文だろうなぁ。
<追記>
と思っていたら、7月26日付・読売新聞、27日付・朝日新聞の社説を読んで、やっぱり予想通りでした。1年後に向けて「一層の周知徹底」や「かみ砕いた情報提供」を求めるだけの内容じゃあねぇ。もうちょっと深みのある記事を書いてください。
「地デジ」だ「アナログ放送終了」だというけれど、
ほんとのところ、なんだかよくわからない!
そんな人、実はたくさんいるのでは?