2012年4月14日(土)14:00~17:00
@カタログハウス本社地下2階セミナーホール
福島第一原発の事故から1年あまり。多くの人の声に耳を傾け、被曝の問題を中心に綿密な取材と調査を続けてきたおしどりマコさんとケンさんは、「放射能汚染や被曝はもう決して『福島の問題』じゃない」と言い切ります。その一つの現状として、おしどりのお二人と交流のある、宮城県・仙台で市民放射能測定室を立ち上げた元有機農家の石森秀彦さんから、長年「農」に携わってきた視点から見た汚染と被曝の現状についてのお話をお聞きしました。おしどりマコさんからお2人の活動の中で見聞きしてきた「最新報告」についてもお話があった後、参加者同士によるグループトーク。最後に講師の3人への質疑応答にもたっぷり答えていただき、それぞれの意見や不安を語り合う場となりました。
おしどり● マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。 ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパ(オーストリア、イタリア、ハンガリー、ドイツ、スイス)の劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。
石森秀彦さん● 宮城県仙台市で28年間有機農業を営むが、福島第一原発事故による放射能汚染の現実に直面して休業を決意。「何がどれくらい危険なのかを知らないと前には進めない」と、昨年11月、「小さき花 市民放射能測定室仙台」を開設。代表を務める。「小さき花」ツイッター→@chiisakihana39 ブログ→ http://ameblo.jp/foreston39/
まずは、おしどりさんが、「小さき花 市民放射能測定室仙台」代表の石森秀彦さんをなぜ、今回の「マガ9学校」にゲストとしてお呼びしたか、というお話から始まりました。28年間有機農業を続けてきた石森さんは、土壌や作物などを測定しながら得た数値を公開しつつ、なぜこのような値が出たか? を考え推理し対策を考えています。「農家にとって数値の公開は、すごく苦しいし怖い。まわりの同業者からもいろいろ言われるし、行政の支援もないどころか、『勝手に測るな』とまで言われる。でも、自分は測らないことには、次の対策は考えられない。測ると次の年からどうするか、ということが考えられる。だから自分はデータをくまなくとっていくことでしか、農業の再開もありえないと考えている。しかし、国も県も農家もそれをやらない。農家が測りたくない気持ちもわかるよ。知り合いのおじいちゃんから『測りたくないよ、どうせ出るんだから』という本音も聞いた。辛いし知りたくないという気持ちもあるでしょう。でもこれから30年、ずっと隠し続けていけるわけがないし、測らないから風評がおきる。ずっと消費者の不信感が続く。それでは農家の復興にはならないでしょ」と、農家であるご自身が、なぜ測り続けているのか、その意義について語ってくださいました。
そして実際に計測した様々なデータを紹介しつつ、同じように汚染された土壌でも、栽培の方法によって、作物への移行係数が変わってくる、ということを説明してくれました。例えばお米。石森さんが計測した宮城県内の田んぼでは、同じ土壌で気候条件もほぼ同じなのに、検出されたセシウムのベクレル数には大きな違いがありました。なぜか? を考えた時に、「はせがけ」という天日干し作業をしたお米からは、高めの数値が出たことがわかったのです。「はせがけは、本来はお米のうまみ成分を高めるためにやるひと手間だったわけですが、稲わらに付着していたセシウムも一緒にお米に入っていってしまったのかなあ」と石森さん。
「自然農法や有機栽培など、これまで安全で美味しいものを作ろうと手間ひまかけていた農家の作物や、牛乳にしても牛にやるえさを輸入の飼料ではなくて、自分のところの牧草を刈って与えていたような酪農家のものの方が高い値が出ていたりするんです。そういった自然の生態系にそった農業をやってきた人ほど、今回影響を受けている」と石森さんは悔しさをにじませます。「でも自然農法だったら、これまで与えていなかったカリウムの肥料を入れるなどすれば、セシウムの吸着は押さえられるはず。そういった対策方法はあるんです」。これらも測ったからできる対策なのでしょう。
石森さんは、ご自分の田んぼや畑を測るだけでなく、市民測定室を立ち上げているので、遠くの知り合いから頼まれて計測することもあり、それらも全てデータとして公開しています。「岐阜県の自家製ベーコンから、かなり高い値が出た。なんでそんな場所から……と思って灰を測ったところ400ベクレル。薫製に山形県産の薪を使っていたせいでした。そこであちこちの薪を測りはじめたら、汚染がどこまで広がっているのかがわかるほど、数字がはっきりと出てきました。薪を燃やすとさらにセシウムは濃縮されるので、灰には気をつけた方がいいぞ、と思いつつ我が家の薪ストーブの灰を測ったら、14000ベクレル出てびっくり」。そしてこれは、石森さんが長年続けていた生活そのものへの打撃にもなりました。ライフスタイルも自然循環型の中で考えてきたので、冬場の暖房は薪ストーブ。それが使えなくなると、石油を買ったりしなくてはならず、これまでかからなかった燃料費もかさむことになったのです。
経費という話で言えば、石森さんが購入した測定機は、純国産応用光研工業FNF-401。長女の大学資金だった450万円をはたき購入したそうです。持ち込まれてくる検体の検査料は一検体3000円。それでも赤字ではないかと思うのですが石森さんは「本当に困っている人、一番小さき人の役に立つようにとこの測定室を作った。だから名前も『小さき花』。将来はワンコインで誰でも気軽に測れるようにしたい」。
おしどりさんの最新報告もありました。「先日、ずっと子どもの屋外活動の制限をしていた福島県郡山市で、市内の各学校を測ったところ、平均して下がっていたので制限は解除ということになりました。でも、もちろん基準以下になったところもあるけれど、まだ高いところもある。なのになぜ一律に解除? という疑問を持ちました。同じような話は東京都内でもあって、知り合いのお医者さんにお聞きした話ですが、そのお医者さんがご自分の地域をくまなく測ったら最も高い場所が雨どいの下で、3.86msv/h。すぐ近くには幼稚園もあってそこで遊んでいる子どももいる、心配だとおっしゃっていたんですね」。
今言えることとしては、どの地域が高いとか、低いとか、いやそうじゃない、などと言い合っても無駄なことで、結局はくまなく測ってちゃんと公表して、それを避けたり気をつけたりする生活をするしかないのではないでしょうか? がれきの問題についても、がれきは山になっているけれど、本当を言えば一つ一つ調べてみないとわからないのではないのか? わからないから受け入れについても不安なのであって、そこはせっせと測ることをしたらいい、という話となりました。
おしどりさん、石森さんのお話を聞いた後は、おしどりさんの提案で参加者同士がグループを作って話し合う「グループトーク」の時間へ。自己紹介をしながら、なぜこの会に参加したか、今不安に思っている事などを語り合います。10分の予定が話が止まらず20分ほど語り合ったところで、最後は質疑応答。
「どうしたらいいのかと途方にくれてたけれど、『そうか測って選べばいいんだ』ということがわかって少し気が楽になりました」という意見も出てきたところで、会は終了となりました。
☆仙台といえば、原発事故だけでなく地震や津波の被害も相当に大きかった場所。なぜ最も被害を受けている被災者自身が、自らの私財をなげうって立ち上がらなくてはならないのか、という疑問と怒りも湧いてくるのですが、目の前の石森さんは優しい語り口でときどき笑顔を交えながら、現状をありのまま語ってくれました。石森さんのブログにも掲載されていますが、ここに測定室の連絡先を記しておきます。測定希望の方は是非、ご連絡を。
「小さき花 市民放射能測定室仙台」:
農産物、食品、飲料、土壌等各種測定できます。
住所:仙台市太白区坪沼原前15 電話&FAX 022-302-3853
ホームページ: http://chiisakihana.net/
ブログ: http://ameblo.jp/foreston39/
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●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)
石森さんのお話、すごく参考になりました。たくさん測ることが、いかに安心を与えてくれるか。生産者の方や小売り・卸売りの方にも伝えたいです。ありがとうございました。(山本理恵)
石森さんのお話、非常にためになりました。お米へのセシウムの移行率の話、薪の汚染についてなど。マコさんケンさんの福島以外のホットスポットでの幼児の健康被害の心配の件など、いつも精力的に活動していただいて、ありがとうございます! 石森さん、おしどりさんのように、単に心配するだけではなく、自分たちでできることをやっていきます。(露木智子)
良心というものは、本当に小さな点であり、多数にはなりえない。けれどその輝きはかけがえのない光を暗闇に指してくれるのだと強く感じ入りました。(大澤啓徳)
おしどりさんのお2人は、いつもすてきな雰囲気で原発・放射能についてのお話をされている姿、尊敬しています。石森さん、とてもカッコいい日本版チェ・ゲバラ! 石森さんのつくるお野菜食べてみたかったな、と残念でなりません。
灰・薪のお話が印象的でした。これからも石森さんらしさを大事にされて、活動がんばってください。応援しています。(匿名希望)
石森さんの生活の中からの力強いお話は、楽しかったですし勇気をいただきました。(ツボイ)
初めて参加しました。毎日不安でしたが、少し楽になりました。(匿名希望)
3回目の参加ですが、今までで一番身近な情報提供だったと思います。グループトークで同じ問題意識を持った方達と話せたのも参加して良かったと思いました。地道に検査してくださる方は貴重だと改めて感じました。(佐藤和子)
濃くてためになるお話、それ以上にグループトークはいろいろ開眼しました。周りの人に話す術を学べたかな。(平塚洋子)
あいまいだったり、精神論で語られることの多い放射能に関するお話ですが、石森さんのは具体的で分かりやすく、拝聴できて良かったと思いました。時間をかけてでも、一つ一つのものの線量データをとっていくことが、実は山積みになっている問題や解決の近道になるのでは、と思いました。要所要所でマコ・ケンさんが、素朴な質問を投げてくれたのも良かったです。(海老原優)
測ること、明らかにすること、知ること、選ぶことの大切さを学びました。(匿名希望)
「測る」ということから、いろいろな考えが広がり深まっていくことが、石森さんのお話から具体的に知る事ができました。「測ってみないとわからない」という言葉は、シンプルだけど本当に深い言葉だと思います。参加者のグループトークもとても良かった。こういう機会はあまりないので貴重です。(匿名希望)