この人に聞きたい

「観察映画」の最新作『演劇1』『演劇2』が全国で公開中の想田和弘監督は、ツイッターなどを通じて、原発問題や政治など、日本の社会状況についても積極的な発言を続けています。日本を覆っているといわれる「閉塞感」の後ろにあるものとは? そしてその中で「芸術」が果たせる役割とは?

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そうだ・かずひろ1970年栃木県生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアルアーツ卒。93年からニューヨーク在住。台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。その第1弾『選挙』(07年)は世界200カ国近くでTV放映され、米国でピーボディ賞を受賞。ベルリン国際映画祭へ正式招待されたほか、ベオグラード国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞した。第2弾『精神』(08年)、番外編の『Peace』(2010年)も世界各地の映画祭で上映され、受賞多数。最新作『演劇1』『演劇2』が全国で順次公開中。著書に『精神病とモザイ ク』(中央法規出版)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)。岩波書店から『演劇 vs. 映画―ドキュメンタリーは「虚構」を映せるか』が10月19日に発売された。
国民投票という直接民主制で、
間接民主制を補完する

編集部 前回、原発のお話が出ましたが、福島第一原発の事故後、日本でもたくさんの人たちが「脱原発」の声をあげはじめました。想田監督は夏にアメリカから帰国された後、官邸前の抗議行動にも行かれたそうですね。ツイッターなどで「警備の締め付けの厳しさに驚いた」ということを書かれていましたが。

想田 多分警察は、人間が集まることがパワーを持つということをよく知ってるんだと思います。だからこそ、柵のようなもので仕切ったりして、人が1カ所に集まれないように分断する。参加してる人たちが「たくさんの人の中にいる」ことを実感できないようにすることを狙ってますよね。安全のためとか言うけれど、あんなに広い道路をわざわざ狭めて人が通りにくいようにして、どう考えてもかえって危ないでしょう。
 でも、それは逆に考えれば、実は「人が集まる」ことには効果があるということなんです。

編集部 効果があるからこそ「いやがられている」わけですから。

想田 だから、なんとかこれは続けていく必要があると思います。「ファッションだ」みたいに言う人もいるけれど、それだけじゃこれだけ毎週末みんな集まらないですよ。やっぱり根っこには、「原発がこのままじゃ本当にやばい」という思いがあると思う。
 それに、日本人って実は「集まる」ことにすごく長けてる民族だと思うんですよ(笑)。リーダーがいなくても、互いが互いの動きを見て、自分でそれに合わせていくことができる。群れるという言葉はあまりいい意味では使われないし、一歩間違うと非常に危ないことでもあるけど、民主主義の世の中では、自分たちの主張を通すためには「群れる」しかない。この状況下で、僕たちはもっと「群れる」べきだと思うんです。
 あと、官邸前行動の、あそこまで平和主義を徹底したあり方も僕は支持したい。抗議というと、人はどうしても力を使いたくなっちゃうけど、それじゃ力で人々に犠牲を押しつけてきた原発と同じ。戦争をやめるために戦争するみたいなもので、完全な背理です。力には「力とは別の方法」で対抗しなくちゃいけない。

編集部 原発にかかわる動きとしてもう一つ、その是非を国民自身が直接選択する「原発国民投票」をやろうという運動にも賛同されていますね。

想田 国民投票実現へのハードルはすごく高いので、正直なところ本当に可能かどうかはわかりません。でも、国民投票をしようと声をあげることは、一つの問題提起としてすごく意味があるんじゃないかと捉えています。

編集部 どういうことでしょう?

想田 議会制民主主義、間接民主主義を世の中の基本に据えるのはいいけれど、それだけでは一般の人たちの意見が政治に反映されにくい場合が絶対にあります。
 原発の問題はまさにその典型です。例えば、選挙で脱原発を実現しようという人もいるけれど、自分の選挙区に脱原発を掲げる候補がいないなんてことはよくある。あるいは、この候補の原発の政策には共感できるけれど福祉政策には賛同できない、とかね。それに、市井の人たちの感覚では多分7~8割以上が「原発はもうやめよう」という感じだと思うけど、議員の間ではその割合が反転しているでしょう。議員は経済界とも結びついているから、その意向が強く反映されてしまうわけです。
 だから、こうした問題で市民の意思をきちんと政策に反映させていくためには、国民投票のような直接民主制的な制度を活用することがどうしても必要になってくる。直接民主制的なアプローチを取り入れることで、間接民主制だけではうまくいかない部分を補完していくことができると思うんですね。

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