衆院選と東京都知事選が終わったばかりで実感が湧かないのは当然だけれど、参院選の投票日まで半年を切った。
今月28日に召集される通常国会の会期は、6月26日までの150日間。参院選を控えて大幅延長は困難なので、投票日を日曜にするなら、国会閉会日から24日以後30日以内という公職選挙法の規定に基づき「7月4日公示、21日投開票」という日程が導き出されるそうだ(読売、朝日新聞)。
脱原発や憲法擁護の立場からすれば、とても大事な選挙になるという危機感は、衆院選の結果を受けて多くの人が抱いていることだろう。じゃあ、どう対応したら良いのか。残念ながら、具体的な妙案を持つ人には、まだお目にかかれていない。
そこで、参考になることはないかと、まずは衆院選や都知事選に深く関わった方の話を聞きに出かけてみた。
1人目は、都知事選に立候補した前日本弁護士連合会長の宇都宮健児さん。脱原発、憲法擁護、反貧困、教育民主化を4本柱に訴えたが、獲得したのは約97万票で、当選した猪瀬直樹氏の約434万票に大きく水を開けられた。
宇都宮さんは自ら「大敗」と総括し、①突然の選挙で準備期間が短かったうえ衆院選に埋没したため、知名度が上がらず、政策・主張も浸透しなかった、②民主党や連合の支持を得られなかった(連合東京は猪瀬氏を支援)、③社会全体が右傾化している、などを敗因に挙げていた。
もちろん、成果も多かったと振り返る。50を超える勝手連が結成されて、選挙初体験者や若い世代を含むたくさんのボランティアが運動を支え、街頭演説などの「人数」では他候補を圧倒していた。支持を受けた共産党や社民党が退潮ムードのうえに衆院選優先となる中、市民グループや労組、政党がつながる方法を示した点でも意義があったという。
ただ、やはり一番の課題は、熱心に選挙運動に参加していた人たちと一般の市民との「温度差」だったそうだ。街頭演説で盛り上がっている支持者の背後に、無関心の市民の存在を感じた。結果的に、投票にあたって有権者が重視したのは、原発や憲法よりも景気や雇用だった。宇都宮さんは「この温度差を埋めるために、『自分の問題』にひきつけてもらう運動をどう広げていくか」と投げかけていた。真剣に考えるべき論点だと思う。
宇都宮さんは、都知事選で掲げた4つの主要政策に引き続き取り組んでいく必要性を強調し、「今回のつながりを残して、私も個人として参加したい」と語っていた。知事選と参院選とでは運動のやり方が違ってくるとはいえ、評価すべきは評価し、反省すべきは反省して、知事選の教訓をしっかり生かしてほしいと願う。
もう1人、「脱原発弁護士」として知られる河合弘之さんの話から学ぶところも大きかった。選挙結果を踏まえ、主に脱原発運動の今後の戦略について講演した。
河合さんは、衆院選での脱原発勢力の敗因を「民主党がドジを踏んだから。何をやってもあの結果になっていただろう」と分析していた。菅直人・元首相の3・11での対応を評価しつつ、「前回の参院選で菅さんが不用意に消費増税を言い出したために民主党が敗れ、衆参両院の勢力がねじれたこと」をそもそもの端緒に指摘した。
河合さんたちのグループは国会議員に働きかけて「脱原発基本法案」を昨年9月に衆議院に提出し、衆院選では法案への賛否を脱原発の本気度を測るリトマス試験紙にするつもりだった。しかし、解散時期が予想より繰り上がり、しかも都知事選と重なったことで、浸透させる時間が足りなくなり、候補者の調整にも手が回らなくなったそうだ。
原発再稼働をめぐって河合さんは、大飯原発で用いた「停電の危機」で脅しをかけるやり方はもう使えないので、原子力規制委員会が新しい安全基準をまとめる7月までは政府は原発再稼働をしない、と見立てていた。しかし、新基準ができれば都市部から離れた原発を中心に、補強工事などを経て再稼働に動く。その際、一部の原発の廃炉と引き換えにする可能性を予測していた。「危険な原発は廃炉にするから、安全な原発は動かさせてくれ」とアピールする作戦なのだろう。
今後の戦略・戦術としては、①原発の運転差し止め訴訟のような地域・個別の取り組み、②官邸前行動などの継続・強化、③首長への働きかけ、を挙げていた。要は、事実上の「原発ゼロ」状態を長期化させ、「原発がなくてもやっていける」と国民に体感してもらうことが肝要だと強調した。安全論争だけではなく、「原発がなくなれば経済的にかえって良くなる」といった経済論争に注力して、経済人らを突き崩していくことも提案していた。
参院選については「手をこまねいていたら衆院選と同じ結果になる」と語る一方で、「でも、原子力ムラは強大だから、1回や2回負けても次のことをやる図太さを持ってほしい」。さすが、原発訴訟で何度も敗訴しながらへこたれずに粘り強く続けているだけあって、説得力があった。
そこで、参院選である。ここまで書いてきたように、衆院選や都知事選を受けて、運動の方向や戦術については道が浮かび上がってきたのだから、その途上にうまく選挙をリンクさせられないものか。
個人的に、いま一番迷っているのは、参院選で優先度ナンバー1に据えるべきテーマが「原発」なのか「憲法」なのか、ということだ。もちろん、両方かなう候補者・政党ならベストなのだけれど、衆院選の時も、「卒原発」を掲げた日本未来の党の候補者の半数以上が「改憲賛成派」だった(朝日新聞・昨年12月5日付朝刊)。参院選でも現実として、どちらを優先させるかという悩ましい問題にぶち当たる。
たとえば、今度の参院選で改選期を迎える川田龍平氏(みんなの党・東京選挙区)。6年前の前回選挙では「護憲」を高らかに掲げていたのに、いつの間にか憲法改正手続きの簡略化など改憲を公約するみんなの党に入ってしまった。選挙で一生懸命に応援した人ほど「背信行為」と怒りを持つのは当然だろう。半面、川田氏が「脱原発」で熱心に活動しているのも事実だ。ここをどう評価するか。
これも私見だけれど、今回の参院選では「憲法」をより優先させるべきではないか、と考えている。まず「護憲」を掲げている候補者・政党を推す。そのうえで「脱原発」かどうかを見る。「護憲」の候補者・政党の多くは「脱原発」だろうけれど。
理由は、切迫の度合いだ。
たしかに、政府が原発再稼働に動くおそれは極めて強い。でも、これまでの脱原発運動の成果もあって、国民の多くは濃度の違いこそあれ「将来的な原発ゼロ」を望んでいる。朝日新聞の世論調査によると、75%が「原発を段階的に減らし、将来はやめること」に賛成し、反対は16%。大飯原発以外の原発の再稼働には、賛成35%、反対49%だった(1月22日付朝刊)。こうした状況で、権力側だってそうそう無茶はできないはずだ。運動の頑張りで再稼働を阻止できる可能性がある。
一方、衆議院で改憲勢力が3分の2以上を占めてしまったから、参議院で3分の2以上を取れば、憲法改正の発議をすることができる。もちろん、国民投票で過半数の賛成が必要なのだけれど、まずは改正手続きを定めた96条から始めるらしいから、あっさり通ってしまう可能性が高い。参院選の結果次第では、年内にも発議されるのではないか。
そうなると、次は戦争放棄や戦力・交戦権の否認を謳う9条がターゲットだ。96条が変わっているから、おそらく今度は各議院の過半数の賛成で発議できる。ハードルが下がるわけだ。政権党がいつでも、9条改正を国民投票にかけられることになる。
朝日新聞の昨年末の世論調査によると、9条を改正して自衛隊を国防軍にすることに、賛成は32%、反対は53%だった(12月28日付朝刊)。しかし、衆院選最中の約1カ月前の調査に比べて、賛成が6ポイントも増えていることに注意が必要だ。毎日新聞の年末の世論調査では、9条改正に賛成が36%、反対が52%(12月28日付朝刊)。国民投票になれば権力側はあの手この手で来るから、決して楽観できない数字だ。
最終的に国民投票で決める権利が国民にあるにせよ、国会に改憲を発議させないため、護憲派の議員が3分の1以上を占めるように参院選で取り組む必要性・緊急性はとても高い。
と書いてはみたものの、簡単に結論が出るわけでもない。少なくとも参院選3カ月前の4月ごろまでに推すべき候補者・政党を固めておかなければ時間が足りなくなることは、衆院選・都知事選の教訓だ。「マガジン9」を含めていろいろな場で議論しながら、取り組みの方法を具体的に固めていけたらいいと思う。ご意見をお寄せください。
「自民圧勝」の衆院選からはや1ヵ月。
新しい年を迎え、次の参院選が何より重要な節目になる--。
その思いは、多くの人が共有しているものでしょう。
では具体的にどうすればいいのか。
あなたのご意見、アイデアも、ぜひ。