ネットニュースの見出しを見た瞬間、思わず「ええっ」と声が出ました。〈保育所 3歳以上に国旗や国歌の文言〉。2018年度から施行が予定されている「保育所保育指針」改定案に、「保育所内外の行事において国旗に親しむ」「正月や節句など日本の伝統的な行事、国歌、唱歌、わらべうたや日本の伝統的な遊びに親しむ」との文言が盛り込まれている、というニュースでした。
「保育所保育指針」は厚生労働省が、保育所での保育における内容・運営の基本原則を定めたもの。国の認可を受けた「認可保育所」は公立・私立を問わずその遵守が求められますし、認可外保育所を対象とした「認可外保育施設指導監督基準」においても、保育従事者が保育所保育指針の内容を理解していることが「不可欠」とされています。つまり、基本的にすべての保育所の保育は、この「保育所保育指針」をガイドラインとして進められるのです。
そこに、「国旗や国歌に親しむ」ことが定められる──。季節行事やわらべうたと並べて記載されてはいるけれど、「国」が定め、かつて国威発揚と軍国主義のシンボルともなった国旗、国歌を、わらべうたと同等に位置づけられるはずがありません。厚労省は「強制するものではない」とコメントしていますが、「強制ではない」はずだった国歌国旗法が、式典で「君が代を歌わなかった」「起立しなかった」などの理由で教員が処分を受けるという異常な事態を各地で生み出したことは、よく知られているところです。
自分が住む国に対してどんな思いを抱き、それをどんな形で表現するのか。何を「守るべき伝統」と考えるのか。そうした意見や姿勢は、当たり前ですが個人の自由であって、それぞれが成長とともにさまざまな経験をし、多様な意見と触れる中で形づくられていくべきものです。そこをすっ飛ばし、子どもたちに「国旗や国歌に親し」ませることで、いったい何がしたいのか。国有地払い下げに伴う疑惑が報道されている「森友学園」(問題となっている小学校の「名誉校長」は安倍昭恵・首相夫人、当初は「安倍晋三記念小学校」の名称になるはずだったとも)経営の幼稚園では、日の丸を掲げて「教育勅語」を暗唱させるなどの「戦前教育」が行われていることも伝えられていますが、すべての保育園や幼稚園をそれと同じようにしたい、というのが政府の本音なのでは──とも思えてきます。
「国を愛そう」「日本ってすばらしい」と刷り込むのではなく、住む人が「愛したくなる」ような国にしていくことこそ、政府の仕事のはず。今年もあちこちで「保育園落ちた」という悲鳴のような声が飛び交う2月、やることはもっと他にあるだろうと、憤りがわいてきます。
厚労省のホームページで、この保育所保育指針改正に関するパブリックコメントが募集されています(3月15日まで)。ちょっとでもおかしいと感じられた方、ぜひいっしょに声をあげてください。
(西村リユ)