最近、海外、特にアジア圏をやたらとウロウロしてる。どこに行っても楽しいんだけど、香港がまたちょっと格別なものがあってすごい面白い。今月香港に行ってきたので、今回はひとつ香港の話を。
まず、香港は東京23区のひとまわり大きい程度のすごい狭いところに700万人という大量の人が住んでおり、みんな忙しく慌ただしい生活を送っている。しかも、大商業都市のすごい競争社会に加えて、中国返還後は北京政府からのいろんな管理も厳しくなって来ている。おまけに物価がすごい高いし、交通渋滞で空気も汚いし、ビルが高くて日も当たらないし、通勤時間の電車は超満員。大自然が好きなエコ系の人が行ったら即死は免れない街だ。
それだけ聞くとこの世の地獄のような印象を受けるかもしれないけど、そうでもないのが一番面白いところ。端から見たらすごい窮屈で大変そうなところで、現地の人はみんな「香港は最悪だよ!」と言いつつも、なんだかんだ言って自分たちのスペースを切り開いてたり、面白いイベントや計画を目論んでたりする。そんなのを見てると、「おお、人間どんな環境になってもなんとかやりくりできるじゃん!」と、人の力ってすげーな〜、っていう希望が湧いてくる。しかも! 彼らが眉間にしわを寄せてストイックに頑張っているかというと、全くその正反対。ニッチもサッチも行かない世の中にはインチキとイカサマで乗り越えろ、とばかりに、わずかな隙を見つけては、いろんな楽しいことを切り拓いてる。しかも、香港のやつらの都会人っぷりがまた最高で、やたら慌ただしくあれこれ動き回って、でも先走りすぎて失敗しまくっててんやわんやになったり、常に大パニックになってる。都会でスマートな印象なのに、実はすごいマヌケっぷりを発揮してるところにすごい活力を感じる!
そんな香港にも、自力で切り開いた各種のいい店やスペースがあるんだけど、それは今までにも紹介してきたと思うので、今回は割愛。たまには個人に焦点を当てて、今回香港で色々お世話になったマイケルという香港人を紹介してみよう。やつの生活を見てみると香港アンダーグラウンドの雰囲気が少しわかるかもしれない。
香港に屋台出現
まずそのマイケル。何者かというと、香港人なんだけどイギリスで生まれ育ったデザイナーで、社会問題にも関わりつつ様々な活動を展開している。舞い込んでくるいろんな仕事もテキパキと進めてるし、家に行っても、たまに映画の撮影の依頼がくるほどのいい雰囲気の部屋に住んでいる。実は相当イケてるやつだったと思われるが、7〜8年前に香港に帰ってきたのがマヌケの始まり。香港の家賃がすごい高く、自力で運営しているスペースがみんな苦労しているのを見て、自分は屋台を突如オープン。香港は屋台文化があり、それだと権利金のような費用が月に約3万円ほどで済むので、借りたという。
屋台といっても、香港の屋台は路上の決まった場所に置きっぱなしにしておけるので、簡易的な店舗みたいなもの。営業形態は完全に謎。一応、物販の屋台で、いろんな雑貨を売ってるんだけど、商売っていうよりも休憩所のような感じで、机と椅子を並べてお茶飲んだりご飯食べてたりする。日々そんなことをしてるから、街中の人と友達になっていて、肉体労働のオッサンやらその辺の食堂のおばちゃん、毎日通る学生やチビッコたち、近所の職人の老人など、いろんな人が寄ってきて、なんだかんだといつも賑わっている。商売(?)の方は、香港のなんでも商業主義まみれっていう社会に対抗したものでもあるので、基本的に「自由定価」というカンパ制のような値段設定。で、商品はというと、これがまたどこからともなくやってくる。街中の人と知り合いだから、家で要らなくなったものを持ってきてくれたり、近所の物販店の人が売れ残りの商品なんかをゴソっと持ってきてくれたり、あるいは怪しげな奴らがどこからともなく物を仕入れてきて鼠小僧のごとく置いて行ったり…。
マイケル屋台。完全に謎の店だ。
こんな感じだから、商品に脈絡もないし、机と椅子をたくさん並べて飲み食いしてるけど飲食店じゃないし、時々仲間が料理を作って売ってたり、似顔絵書く人が自由定価制で絵を描いてたり、完全に意味不明だけどなんだか楽しそうな場所! いくらマイケルがしっかりしていても、マヌケたちが続々と集まってくる。もうこの時点で、界隈ではちょっと有名な面白い場所になっている。
ウンコ事件勃発
今回の滞在中もよくこの屋台には遊びに行ってたんだけど、店を閉めて翌日開ける間にも勝手に商品が増えてたりして、マイケル本人が毎日「なんだこれ!」と、驚いてる。で、ある時、夜遅くにマイケルとその屋台の前を通りかかったら、見慣れない巨大ポリバケツが屋台の前に置いてある。「おや? なんだこれは?」と、マイケル。すると、すかさず屋台の目の前にある雑貨店のおばちゃんが烈火のごとく怒って文句を言ってくる。広東語なので何を行ってるかわからなかったけど、後でよくよく聞くと「くさくて寝られない! なんなんだこれは。どうにかしろ」とのこと。
で、仁王立ちになって不機嫌に様子を伺う雑貨屋のおばちゃんの前で、おそるおそる棒のようなものでバケツのフタを開けるマイケル! すると、みんなの想像する嫌な予感が的中!「ギャー! ウンコの山だ!!!!」と、逃げ散るマイケルやその仲間、そしておばちゃん! そして、遠巻きに巨大ウンコバケツを取り囲み、いま目の前で何が起きているのかを確認しようと固唾を飲んで見守ることしかできない面々。おばちゃんも怒りが頂点に達して、「どうなってんの、これは! あんたの屋台があるからうちの前にウンコが出現するんでしょ! 早くなんとかしなさい!!」と、逃げすぎて遥か遠くの方から怒鳴ってくる。これはやばい! 近隣付き合いは商売で最も重要だから、おばちゃんの怒りを沈めないと! ドブに流すか、いや、それじゃ逆にニオイは広がる、フタをしたほうがいいんじゃないか、じゃ、フタをしてその後はどうする、いつまでここにある…、などと激しい議論が続く。まさに街中大パニックだ。日頃は温厚なその雑貨屋のおじちゃんまで出てきて「寝れねえよ」と怒り出す始末。
おばちゃんにこっぴどく叱られるマイケル氏
最終的には「ドブに流す作戦」が決行され、事なきを得たかに思われたが、しばらくして「まだニオイがする!」と、おばちゃんがまだ怒鳴って雑貨屋から飛び出てくる。道路の側溝の排水口から捨てたんだけど、迂闊にもそれがおばちゃんの店の近く。今度は、この奥からニオイがする、いやもう手遅れだ、なんでよりによってここに捨てた…、と、また大パニックに。何も悪くなのにとりあえず平謝りのマイケル。大至急洗剤を買いに行ってきて、道路に洗剤をぶちまけ、側溝付近の道路を掃除(全く意味はない)し、おばちゃんが洗剤のニオイにごまかされたのか「うん、だんだんニオイが消えてきたねえ」と機嫌が良くなった隙を見て、「じゃ、すいませんでした。おやすみなさい〜」と、ドサクサに紛れて逃げ帰る。「いや〜、ひどい目に遭った」と、マイケル。
決死のおばちゃん機嫌取り作戦
翌日の夜、またマイケルたちと屋台前を通ると、そのおばちゃんはケロッと機嫌が良くなっており(この辺が香港のいいところ)、「ちょっとちょっと、手伝って!」と、何やら脚立を引っ張り出そうとしている。大きな脚立をみんなで雑貨屋の隣の店の前に立てると、おばちゃん意外と身が軽く、さっと2階ほどの高さまで登ってしまう。で、片手に持った刃物で、その店のテント看板の張り替えでもするのか、看板のシートを切って穴を開け始める。おばちゃんの機嫌をとることが至上命題のマイケルは、もう完全に子分のようになって脚立を支えて、なんだかんだと広東語でおばちゃんと世間話をして盛り上がり、ウンコ事件のことを忘れさせようとしている。マイケルえらい! どうやら全部看板を取るわけでもなく、きれいに一部分だけ穴を開けるらしく、おばちゃんも道路の方を指差したり、その穴を指差したりしながら、完全に太鼓持ちの顔のマイケルと楽しそうに会話してる。まあ、ご機嫌で何より。そして、「いやー、ありがとうね。助かったよ!」と、ゴキゲンに降りてきて、缶ビールの一本もくれない。
隣の店の看板に穴を開けにかかるおばちゃん
マイケルに聞くと、店の前で深夜にしょっちゅうヤクザのケンカがあるという。おばちゃんは自分の店の二階に住んでおり、その隣の店のテント看板が邪魔でケンカがよく見えないから見やすくしたという。なんと、自分の物件でもなんでもないらしい! 挙げ句の果てに、切り裂かれた看板を見上げながら「お隣さん、これ見たら怒るだろうねぇ」と、おばちゃん。「そうですねえ」と、太鼓持ちマイケル。
ジェットフェリー脱出作戦
そんなマイケル、怒られたり機嫌とったりしてるだけではない。興味のあることには躊躇なく踏み込むすごい行動派。例えば、街を歩いていても、空き家とか面白そうな誰も使ってない物件とか見つけたら、すぐに中には入れないか入口を探したり、近所中に聞き込みを始めて、なんとかタダで使える手はないか探り始めたりするぐらいだ。
香港滞在中、一緒にマカオに遊びに行こうとなった時、ジェットフェリーに乗ってマカオに向かった。ジェットフェリーってのがまたちょっと窮屈で、普通の船のように甲板に出たりできない。すごい高速で進むので飛行機のように座席でシートベルトを締めて座る。船員さんもすごい厳格で、「ほら、おまえ、ちゃんとベルト締めて!」と言ってまわってたりして厳しい。ただ、船員さんたちは普通に非常口から外に出たり入ったりしてたのを見たから、マイケルと「なんだ、あそこから出られるじゃん。窮屈だから外に出てみよう」ってことに。
で、船員さんがいない一瞬の隙に「よし、今だ!」と、何事もないかのように普通に非常口を開けて外へ!!! これがやばい! 時速100キロ近くで進んでるから、すごい風と速度。当然危険。大波が来たら海に落ちて死ぬ。5分ぐらいすると、すかさず乗組員のおばちゃんが走ってきて、非常口のところから「コラー! 危ないから中入って!」と叫ぶ。そこで、怒られた時用に事前に相談した通り、マイケルの「外人は何やっても大丈夫」というイギリス仕込みなのか香港式なのか、なんだかよくわからないが謎の法則に従い、作戦決行。そう、マカオ行きは観光客が大半なので、外人がたくさん乗っている。とりあえず広東語さえしゃべらなければ大丈夫だということに。ま、なに人でもよかったんだけど、マイケルは日本語は喋れないので、ここは中国語(北京語)で行こうということに。二人とも中国語は上手じゃないから話したらすぐバレるけど、まあ面白いからやってみることにした。広東語で色々言われても「すいません、聞き取れません!」とごまかす。非常扉から手を招いて怒ってるんだから「こっちに来い」ってことに決まってるんだけど、そこは外人作戦。目をつぶってもらうしかない。…と、ごまかそうと思ってたら、なんとジェットフェリーがエンジンを止めて緊急停船。「やべー、これはさすがに怒られそうだ!」と、さすがに観念して、船内へ。乗組員のおばちゃんもカンカンで、「出たらダメだって書いてあるのが読めないの!? 早く席について!!」と大怒り。些細なことですぐ大ごとになる日本だったら大変だけど、ここはウンコのたらいが突然路上に出現する街、香港だ。これぐらいは別に大した事件ではない。
坊主頭なのでスピード感はわからないけど、超高速ですごい風!
ただ、運が悪いことに、その非常口の場所が座席の最前方。全員が前方を向いて、しかもシートベルトを締めて大人しく座ってるので、この一連の騒ぎは完全に見せ物みたいな感じ。まんまとすごい注目を浴びる。「バカだなー、怒られてやんの」っていう表情で見ている人から、「マカオ到着遅れるじゃん」と、不機嫌そうな人、パンダでも見るように微動だにせずに見つめてくる子どもまでいろいろ。いずれにせよ、そんなに大事件ではないけど、面白いことやったわけでもなく、「余計なことすんなよ、まったく」程度の非常に中途半端な感じ。さらに運が悪く、我々の席は中央の後ろの方。つまり席に着くまでの間がすごいマヌケ。突如、全くつまらない芸をして観客を白けさせた芸人の退場シーンみたい。注目を一手に集める中、怒りも笑いも拍手もない。しまった! ここは二人で低姿勢に笑顔で「どうもどうも」「すいませんねぇ」と、全開の愛嬌でみんなに挨拶しながら席へ戻る。マイケルなんか、目が合った人に挨拶するだけじゃなくて、わざわざいろんな人に話しかけて、マヌケな顔全開で「どうもね!」「ごめんね!」などと言ったりしてる。いや〜、危ないところだった。あ、結局やっぱり怒られたり機嫌とったりしてただけか! ま、いいや。
余談だけど、マカオに行ってカジノを見に行った時、中は写真撮っちゃいけないんだけど面白いからこっそり撮ってみた。でも、警備が結構厳しく、すぐ警備員が飛んで来て「すいません、今の写真消してください」と言いにくる。そんな時、マイケルがすかさず教えてくれたのが「そういう時は携帯のメッセージアプリを使って写真撮って、誰でもいいから撮った瞬間に送信するようにしたらいいんだよ。そしたら消されても相手の方に残ってる」だって。う〜ん、こいつは緊急時にもうまくチョロまかす技を心得てるな!
大目玉を食った後、広東語の教科書を持って外人のフリをするマイケル。こういう時の演技が上手い
まとめ
今回の話、よく考えたらまとめもクソもない。ただ、観光地に行くだけだったり、ビジネスで訪れるだけだったら、東京と変わらない大都市で無機質に見える街かもしれないけど、ちょっとでも街の中に入ったら、ゴチャゴチャしてメチャクチャなものが大量に出てくる。そして、そこには人口密度の高さもあるのか、人と人が大混乱になってるけど、最終的にはなんだかツジツマが合っちゃうところが、香港のなんとも言えない面白いところに違いない! とりあえず、香港には人間が都市で生きていくためのスキルや試練が渦巻いてるので、レベルを上げに行ってみよう!
いろんな場所に行ったり、いろんな人に会ったりすることの一番の面白さって、自分が「大変だ」と思ってることが実は大したことじゃなかったり、自分が見えてる以外にも抜け道がたくさんあったりすることに気づけることじゃないかと思います。どんどん息苦しくなってるようにも思える世の中ですが、だからこそ隙を見て楽しく、しぶとく生き抜くスキルは身につけておきたい。こんな「インチキとイカサマ」なら悪くない、と思うのです。
ウンコのバケツは水肥じゃないでしょうか?ようは肥料としてためておいた排泄物だと思いますね。