先日、急な坂道を、白杖を持った少年が登っていくのが目に入ってきました。しばらくするとたちどまって白杖を鳴らし今度は降りていこうとしています。あれ、もしかして道に迷っているのかな? その坂道は、ガードレールがところどころありますが、点字ブロックはなく、車の往来もあります。一瞬躊躇しましたが、近寄り声をかけてみることにしました。背後からではなく、前方から「迷われてますか? お手伝いしましょうか?」。聞くと少年は、坂道好きで、散策をしているところだと答えます。でも、最寄り駅にもどる道がわからなくなった、というので駅まで一緒に行くことにしました。道中「ここ、すごくいい坂ですね! こういうところ大好きなんです」と少年。点字ブロックのある駅構内は、自分で歩いて行けるというので、そこで別れました。
わりとスムーズに「声かけ」ができたのも、つい先日、日本盲人会連合の理事である藤井貢さんにお話を聞いていたからでした。
以前、次のような経験をしたことがあります。雨が降り濡れている陸橋の階段を、一生懸命通行しようとしている、白杖をお持ちのお年寄りの方がいらっしゃったので、危ないと思いとっさに彼の手を持ってしまいました。その瞬間、ばしっと振り払われてしまいました。軽く傷つきもし、素人にお手伝いは難しいものだな、と思ってしまっていました。しかし今回お話をお聞きし、私が急に触れたものだから、相手の方にこわい思いをさせてしまった、ということが改めてわかったのです。
それにしても相次ぐ、視覚障害者のホームからの転落事故。どれほどの恐怖だったのかと、本当に辛くなります。なぜホームドアの設置が進まないのか。どなたかが目を離した瞬間の出来事だったのかもしれませんが、声かけがあったのか、なかったのか…。
視覚障害というのは、誰もがなりうる障害です。いつのまにか、弱者は切り捨てても良いという恐ろしい社会になっているのではないかと、暗澹たる気持ちにもなります。事故が防げなかったさまざまな要因について、議論をさらに深め、二度とこのようなことが起きないように努めていかなければなりません。
(水島さつき)