「あなたの家の上を、ジェット機がスカイツリーよりも低い高度で飛ぶかもしれない」
そう聞くと、多くの人は驚くのではないでしょうか。でもそんなことが、かなり現実味のある話として現在進行中です。この計画は、国土交通省のサイトでも紹介されており、予定されているルートを見ると、住宅密集地だけでなく、新宿や渋谷など繁華街の上も飛ぶことになっています。
都心上空を飛行機が低空飛行する際、まず心配なのは日常的に起きる「騒音」や「落下物」ですが、最も懸念されるのは「墜落などの過酷事故」ではないでしょうか。航空評論家の秀島一生さんは、今週掲載のインタビューで 「飛行機には平均300万点以上の部品が使われており、どこかしらのトラブルは日常的にあるが、いちばん重大事故が起きるリスクが高いのが、『クリティカル11ミニッツ(魔の11分)』です。離陸後3分、着陸前8分に、エンジントラブルや火災、墜落など重大事故が集中しています。新ルートでは、この『魔の11分』の時間帯に、まさに都心上空を飛んでいることになっています」と述べています。
都心に、もしジャンボジェット機が墜落したら…。まるでパニック映画のシーンを思い浮かべてしまいます。絶対に起きてはならないトラブル。しかし絶対に起きないとは誰にも断言できないトラブルです。
現在公開中のハリウッド映画「ハドソン川の奇跡」は、ニューヨークのラガーディア空港を飛び立った飛行機が、離陸直後、鳥の群れに遭遇しバードストライクによるエンジントラブルにみまわれ、ハドソン川に不時着水するという実話を元に作られている作品ですが、東京(羽田発)で同じようなことが起きた場合、どこの河川に着陸する予定なのでしょうか。多摩川? 荒川? そんなことも想定しての計画なのかどうか、という疑問もわいてきて、住民としては不安が募ります。
それにしても、なぜこのようなリスクの高い計画を立てているのか、飛行機増便の理由の一つとして、ここでも2020年の東京五輪開催が出てきます。
この計画は、そもそもは第一次安倍内閣のときに持ち上がり、民主党政権のときにも問題視されることなく継続的に進められ、第2次安倍内閣で形になったと聞きますから、東京五輪決定前にあった「計画・要望」が、決定と同時に「東京五輪」に乗じていっきに押し進められたように見えます。それは、例の築地から豊洲への市場移転の話ととても似ているように感じました。五輪開催と市場の移転問題は、その理由も必然性も関係がないのに、築地を移転しないと、五輪のための道路の建設が進められないとか、築地市場の移転跡は大会関係者の駐車場に使うことが決まっているのだから他の場所は探せない、などと言い出す森喜朗2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長。なんとも腑に落ちません。
羽田増便問題と都心低空飛行問題、いずれにしてもまだまだ周知が足りていないように感じます。普通の感覚を持つ人ならば、東京という超密集地の上を、飛行機が低空飛行すると聞くと、「それ危ないよね」「うるさいよね」「事故起きたらどうするの?」と疑問を持つことでしょう。そういった普通の感覚で、問題意識を持つことの大事さを改めて感じています。
そして、騒音やトラブルといった危機と隣りあわせに日常を送っている、基地の近くに住む人たち、島の人たちのこともまた、想像せざるをえない問題ではないでしょうか。
(水島さつき)