雨宮処凛がゆく!

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9日の「怒りのドラムデモ」に登場した「WE ARE THE 99%」!!

 「OCCUPY WALL STREET(ウォール街を占拠せよ!)」

 こんな言葉を合い言葉にしたデモが4週間目を迎えている。

 きっかけはご存知の通り、「アドバスターズ」という雑誌が9月17日(アメリカの憲法記念日らしい)に「ウォール街を占拠せよ!」と呼びかけたこと。最初のうちは1000人規模だったらしいものの、参加者はすぐに1万人規模に拡大。現在では全米147カ所だけでなく、海外でも28都市に広がっているという。

 彼らの訴えはシンプルだ。「我々は99%だ」「1%の大金持ちのせいで私たちは苦しんでいる」「富める者に税金を。貧しい者に食べものを」。

 いずれも格差社会への痛烈な批判だ。というか、この連載で散々書いてきた「税金は金持ちから取れ」とか「メシ食わせろ」とか「住むとこよこせ」とか「食うものよこせ」とか訴えるプレカリアート運動とあまりにも同じ要求をしていて、今すぐニューヨークに旅立ちたい気持ちを今、必死で抑えている。いや、いろいろスケジュールの問題でさ・・・。

 さて、そんな「占拠」が起きたアメリカの貧困率は15.1%(昨年)。全体の失業率は9%を超え、25歳以下に限ると18%。また、非正規雇用の増加も問題になっているという。

 そんなアメリカの若者たちが不満を爆発させ、ウォール街に乗り込んだわけだが、「貧困大国」アメリカの「15.1%」という貧困率を見て、ふと気付いた。日本の方が貧困率、高いじゃん!

 最新の数値では、09年の時点で日本の貧困率は16.0%。実に国民の6〜7人が貧困なのである。ちなみに貧困ラインは、09年の年間の可処分所得が112万円以下。これ以下で暮らす人の割合を示すのが貧困率である。ちなみに驚くべきは、一人親家庭の貧困率が50.8%と半分以上であること。日本って先進国でもっとも一人親家庭に冷たいことがよくわかる数字である・・・。

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初開催のこのデモには、なんと1000人近くが参加。

 さて、次に失業率だが、こちらは全体で4.3%。25歳以下だと8%。アメリカより低い数字だが、日本では求職活動をしていないと失業者にカウントされないなど諸外国より算出方法が厳しいので、実際の失業率はもっと高いという見方も多い。また、現在の非正規雇用率は38.7%と過去最悪。24歳以下では実に半数近くが非正規雇用だ。若年層が皺寄せを食らうのは、日本もアメリカも変わらない。

 そんなウォール街デモが盛り上がりつつある頃、あるひとつの裁判の判決が確定した。この連載でも何度か取り上げ、私も行ける限り傍聴に足を運んでいた派遣社員の過労自殺裁判だ。亡くなったのは上段勇士さん。請負会社からニコンに派遣されていた彼は97年、23歳の若さで自ら命を絶ってしまう。その背景には、メチャクチャな長時間労働や休日出勤があった。裁判では、自殺の原因が仕事かどうかが争われ、最高裁まで行ったのだが、今回、こうして「過労死」と認定され、ニコン、派遣元会社が敗訴したのである。

 この報道に接し、「会社の責任が認められてよかった・・・」と胸を撫で下ろしたものの、すぐにそんな気分は吹き飛んだ。どんなに裁判で過労死と認められようとも、亡くなった彼は決して帰ってこないのだ。

 23歳で亡くなった上段さんは私と同世代で、ちょうどこの国で「労働破壊」がすごい勢いで始まった頃の悲劇が、私はどうしても他人事とは思えない。彼が亡くなってから14年。それから少しはマトモな社会になっているかと言えば、残念ながら答えはNOで、状況はどんどん悪くなっている。

 そうして06年頃から若者たちは自分たちで労働組合を作り始め、「ワーキングプアの反撃」を続けてきた。しかし、08年にはリーマンショックが起こり、怒濤の派遣切りが不安定層の生活を根こそぎ破壊する。08年末から09年年明けにかけては日比谷公園で「年越し派遣村」が開催され、この国で長いこと忘れられていた貧困が可視化される。そんな状況が政権交代へのひとつの原動力となったかに見えたが、政権交代以降は一服感からか格差や貧困といった問題はブームとして過ぎ去り、一時期は私のもとに殺到していた取材も随分少なくなった。そこにあったのは「貧困問題の消費」で、しかし、生活保護受給者が200万人を超えたことでも明らかなように、それは今も深刻化している。そしてその現象は、この国一国だけのことではなく、あらゆる国で起きているのだ。

 大分前にも書いたが、イタリアでは高学歴でも派遣などしか仕事がない20代が「1000ユーロ世代」と呼ばれ、ギリシャでは「600ユーロ世代」と呼ばれている。日本より非正規雇用率が高い韓国では「88万ウォン世代」。いずれも月収7〜10万円だ。翻ってこの国では、ロストジェネレーションと名付けられた世代は貧しく不安定なまま既にほとんどが30代に達し、その下の世代は就職難で苦しんでいる。どちらにも解決の兆しはない。

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解散地点で盛り上がるデモ隊

 ウォール街占拠のきっかけとなったのは、エジプトやチュニジアで若者たちが独裁政権を倒した「アラブの春」だという。そして原発が爆発する2ヶ月前、私たちも革命の瞬間を見た。そして4月以来、この国ではそれまで動いたことのない層(多くが若者)が街頭に繰り出し、「原発いらない」と声を上げている。集まるのは既に数万単位で、「原発やめろデモ」だけでも今までの5回のデモで参加者は7万人に及ぶ。そんな「原発やめろデモ」のサイトには、イメージ映像としてエジプトのタハリール広場が360度人で埋め尽くされた光景がアップされている。そして6月と9月、私たちは新宿アルタ前にそんな光景を出現させた。時間としてはたった2時間かもしれない。だけど、私たちはこの国の光景を変えた。そんな「アラブの春」と「ウォール街占拠」、そしてこの国で今さかんに起きているデモに共通するのはツイッターなどの活用で、決まった組織やリーダーが存在せず、個人個人が自らの意志で動いているということだ。

 大衆が動き出す時代。それが今、世界規模で始まっている。世界的に連鎖している。これは私にとって「人間への信頼」と「世界への信頼」を取り戻すものだ。なぜなら、私たちはもう長いこと、他人は「繋がる」ものではなく「蹴落とす」ものだと叩き込まれてきた。それが今、様々な国で「変える」ために人々が動き、繋がっている。世界は絶対に変えられないものから、時に変えられるかもしれないものになりつつある。しかも、変える主体は自分たちなのだ。

 もう政治に諦めてる場合じゃない。政治は国会の中にあるものでなく、街頭から変えられるものになりつつある。そんな実例を、私たちは多く知っている。

 そして今、世界はまったく新しい次元に到達しようとしている。そんなふうに私には見える。この流れに思い切り参加しつつ、しっかりとその瞬間を目撃しようと思っている。

 ということで、日本でもやります! その名も「OCCUPY TOKYO!!」!!!!!

 ウォール街デモの国際アクションデーである10月15日、都内某所! 詳しくは常時こちらのサイトをチェック!
 また、この日は午後3時からデモも! 詳細はこちら。
 3・11以降、きっと私たちは今まで考えたことがないくらい、いろいろなことを考えた。あの日以前の自分には戻れないのだから、もう少しでもマシな未来のために、動くしかないのだと思う。で、そっちの方が、黙ってるよりもよっぽど楽しい。

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デモ中の私。

 

  

※コメントは承認制です。
第206回 OCCUPY TOKYO!! の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    中東の春、ウォール街デモ、そして日本を含む各地での「脱原発」デモ…
    世界がたしかに、大きく動こうとしているのを感じます。
    そんな中で、ただ「傍観者」でいるのはもったいない。
    雨宮さんの言うように、黙ってるより動いたほうが絶対楽しい、はずです。
    まずは今週末。OCCUPY TOKYO!

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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