- 特別企画 -

 「安保法制違憲訴訟の会」の共同代表を務め、マガ9でもおなじみの塾長こと伊藤真弁護士によると、「訴訟のゴールは、立憲主義と国民主権の回復。そのために違憲の安保法制を廃止させることが必要。また憲法を守ることが、国会議員の最大のコンプライアンス(法令遵守)だ。その当たり前のことを、この国に根付かせなければならない」と、この訴訟の意義を語っています。
 裁判の原告としては、戦争被害者や体験者、基地や原発の周辺住民などをはじめ、広く国民に参加してもらうことを想定し、申し立て費用や弁護士費用の負担を無償として、気軽に参加できるようにする予定とのこと。
 この裁判の意義や原告への呼びかけなど、広く市民に知ってもらいたいと考え、マガジン9でも随時、安保違憲訴訟の動きについて、紹介していきます。
 共同代表のお一人、マガ9でもおなじみの塾長こと伊藤真弁護士より、寄稿をいただきました。

509人の市民が提訴しました!
伊藤真
(安保法制違憲訴訟の会共同代表)

 2016年4月26日午後2時、509人の原告が東京地方裁判所に2つの裁判を提訴しました。代理人は裁判官、検察官出身者を含む全国の有志弁護士630人です。昨年9月19日に採決の強行によって「成立」したとされる安保法制の違憲性を争う裁判で、今回は安保法制に基づく集団的自衛権行使などのための自衛隊の出動を差し止める行政訴訟と国家賠償を求める民事訴訟の2つの裁判を提訴しました。

 この安保法制は様々な問題点を含みます。歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊の武力行使との一体化に当たるとして禁じてきた範囲にまで後方支援を拡大してしまいました。また、国連平和維持活動(PKO)に従事している自衛隊に駆け付け警護等の新たな任務と任務遂行のための武器使用権限を付与し、米軍等の武器等防護のための武器使用をも認めてしまっています。どれも憲法上許されないことです。

 今回はその中でも特に、集団的自衛権の行使と、戦争をしている他国軍隊の武力行使と一体化する弾薬補給や武器輸送などの違憲性を争うことにしました。今後も、PKOでの自衛隊の新たな任務などを問題にした裁判が提起されることでしょう。
 全国から原告希望の意思表示をされている方は、私たちへの連絡をいただいた方だけでも2000人を遥かに超えています。時間の関係で委任状の作成準備が間に合わなかった方も多数いますので、東京では、第2次、さらには第3次の提訴の準備にとりかかっています。

 また、全国各地で、訴訟が提起され、また準備されています。福島県では4月26日に福島地裁いわき支部に200人近い人が、高知では5月6日に32名が高知地裁に、それぞれ国家賠償訴訟を提訴しています。2016年5月16日現在で、埼玉県では約200人が、大阪では約500人が、岡山では約300人が、長崎でも約100人が、いずれも国家賠償の6月提訴を目指していますし、神奈川でも8月提訴を目指して準備しています。他にも札幌、仙台、長野、名古屋、京都、愛媛、広島、福岡など全国各地で準備が進んでいます。今後もそれぞれの地域の原告方の声を地元の弁護士が受け止めて、各地で工夫を凝らした裁判が展開されていくことでしょう。
 地元の裁判であれば、傍聴もし易いですし、各地域の新聞にも取り上げてもらえることでしょう。裁判の勉強会などを通じて多くの人が、安保法制の問題を理解する機会が増えていくことと思います。訴訟を軸に各地の安保法制廃止を求める運動の内容も豊かになるに違いありません。

 私たちは、この訴訟提起に先立って4月20日に東京の参議院議員会館で訴訟に向けての大きな市民集会を開きました。500人以上の方が来場してくださいましたが会場の都合で入れずまた立ち見となってしまった方も大勢いて大変申し訳なく思っています。安保法制違憲訴訟の会の共同代表による挨拶、訴訟の意義、裁判内容の説明の後、原告の方々の思いを語っていただきました。今後、このマガジン9でも紹介させていただきますが、憲法学者、在日ピアニスト、戦争被害者(宗教家)、障がい者、若者、子を持つ母、そして基地近隣住民として、それぞれの立場での思いがこもったすばらしいお話を聞くことができました。その後の国会議員の話も原告の生の声を聞いた後だったこともあり、とても熱のこもった話で大いに盛り上がりました。最後にこの訴訟を支援するための「安保訴訟を支える会」から鎌田慧さんのお話があり、大盛況のうちに締めくくることができました。市民の声を受けとめて法律家が訴訟提起をし、それをこれからも市民と法律家が一体となって推進していく新しい憲法訴訟の形ができた思いでした。

 この安保法制は、多くの憲法学者、元最高裁長官、元内閣法制局長官、全国すべての弁護士会が指摘するように違憲です。ですが、安倍内閣も国会もこれを合憲と判断して「成立」させました。つまり未だ公的機関においては合憲という判断しかなされていないのです。たとえ地方裁判所であっても、実質的に違憲と国家機関が判断することには大きな意味があります。憲法上、裁判所には違憲審査権が与えられています。それを行使して国家の憲法秩序を維持し、立憲主義、法の支配を擁護することは裁判所の重要な責務です。

 今回の安保法制のように、内閣と国会が憲法の規範を破り、民主主義の基本ルールをも無視して、法秩序を蹂躙する強権を行使したとき、それを是正するために予定されている国家機関は裁判所だけです。だからこそ今、国民・市民の間に、安保法制違憲訴訟への熱い期待が広がっているのだと思います。
 市民の各界各層に広がった戦争法反対の運動は、安保法制が「成立」「施行」されてからも、途絶えることなく継続し、むしろ発展してきています。違憲訴訟の提訴がまた、その運動のさらなる結集軸にもなると考えています。
 安保法制について、裁判所は必ずや実質的な違憲判断を下して憲法正義を実現し、司法の正統性と権威を遺憾なく発揮するはずであると確信しています。

伊藤真(いとう・まこと)弁護士・伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走。夢は世界の幸せの総量を増やすこと。日本を人権先進国、優しさ先進国、平和先進国にすること。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)など多数。「伊藤真の試験対策講座」シリーズ(弘文堂)は、大学法学部のテキストにも使用され、司法試験・法科大学院入試など法律の資格試験対策のみならず、現役の法科大学院生や学部生など法律を勉強する多くの方に広く浸透している。

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※コメントは承認制です。
注目!「安保法制違憲訴訟」509人の市民が提訴しました!」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    かねてより伊藤先生らが準備を進めてきた「安保法制違憲訴訟」裁判ですが、ついに4月26日、509人の原告、630人による大弁護団は、2つの裁判を提訴しました。「市民と法律家が一体となって推進していく新しい憲法訴訟の形ができた思いだ」と塾長。この訴訟にかける、ひとり一人の熱い想いや憤りについて、マガ9でも現在進行形で伝えていきます!

  2. 鳴井 勝敏 より:

     私は戦前生まれだが、戦争に行く年齢ではなかった。しかし、立憲主義、法の支配が戦後最大の危機に晒されるとは考えたこともなかった。 現在進行形での掲載よろしくお願いします。                        >憲法上、裁判所には違憲審査権が与えられています。それを行使して国家の憲法秩序を維持し、立憲主義、法の支配を擁護することは裁判所の重要な責務です。
    今日まで、司法の役割が発揮するこれ以上の舞台があっただろうか。立ち会う裁判官は職業冥利に尽きるのではないだろうか。 「すべて裁判官は、その良心に従ひえ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律に拘束される。」(憲法76条3項)。この条文をフルに発揮し、是非歴史の検証に耐えられ、しかも地球単位で評価される裁判を期待したい。司法の威信にかけても逃げてはならない。
    私は、心は熱く、頭はクールに闘う位置を占めたいと思う。そして、子、孫達にしっかり形として残したいと思っている。

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