(2009年WOWOW/麻生学・鈴木浩介監督)
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運送会社のトラックのタイヤが突然はずれ、近くの歩道でベビーカーを押して歩いていた女性を直撃し、死亡させた。原因は車両のハブの破損。タイヤがホイール、ブレーキドラムごと脱落したのである。製造元である三菱自動車工業が、ハブの厚みを薄くしたことからカーブや旋回時に掛かる荷重によって金属疲労が生じ、ハブが破断しやすくなっていたためであるが、同社は事実を隠蔽。事故の責任は運送会社の整備不良とされた――2002年に起きた事件をベースにした池井戸潤原作のドラマを今年の正月に見た。もちろん過去の話として、だ。ところが、先日、三菱自動車による軽自動車の燃費データ不正問題が発覚。この会社の体質がいまも変わっていないのだろうか。
本作は業界最大手のホープ自動車製トラックが起こした事故の責任を押し付けられた運送会社の社長が主人公。事故当初は自社の責任の重さを噛みしめる彼だったが、警察は彼の逮捕に踏み切らず、事故現場には腑に落ちないことが多々ある。そこから小さな運送会社が、商社やメガバンクとともの巨大な企業グループを形成する大企業に闘いを挑む。
それは苦難の連続だ。取引先は手を引くし、メインバンクから貸しはがしにあう。何度も絶望の淵を見る。でも、決してあきらめない。その姿を見て手を差し伸べる人もいる。
まちの運送屋をなめんなよ――と啖呵を切る仲村トオル演じる2代目社長、大杉漣扮する創業社長の時代から仕えている専務、柄本佑の一見ぶっきらぼうだが、仕事は正確な整備士ら、地に足をつけて汗を流して働く人々の姿が実にいい。社内派閥に明け暮れ、情報隠蔽体質に染まった大企業とは対照的であり、だからこそ結末に溜飲を下げるのだが、そこにたどり着けたのは、同業者の勇気ある情報提供など、数多くの偶然のおかげだった。世の中には泣き寝入りせざるをえなかった多くの中小企業の経営者がいると思うと、ハッピーエンドの気持ちよさも半減してしまう。とはいえ、6時間を超える長丁場を最後まで飽きさせない監督の手腕は手放しで称賛しよう。
ディーゼル車の排ガス試験不正が発覚したフォルクスワーゲンしかり。伝統的なモノづくり大国で何かがおかしくなっているのではないだろうか。
(芳地隆之)