マガ9学校やりました。

2016年2月14日(日)15時〜18時
@新宿NPO協働推進センター

 混迷化するシリアの内戦では、400万人を超える人々が難民となって国外に逃れたといわれています。そうした状況を受け、人道的な観点から難民を受け入れようとする国がある一方で、一部の国では「テロの危険性」を理由にそれに抵抗する動きも。国家安全保障と人道主義は、相容れることのない「ジレンマ」なのでしょうか。
 その問いと向き合い、さまざまな試行錯誤を続ける世界各国の取り組みをもとに、日本がこれから進むべき方向について、そして私たち一人ひとりが何をすべきかについて、東京外国語大学教授の伊勢崎賢治さんとそのゼミ生たち、ジャーナリストの堀潤さんとともに考えました。

伊勢崎賢治(いせざき・けんじ)1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『紛争屋の外交論―ニッポンの出口戦略』(NHK出版新書)、『本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社)、『新国防論 9条もアメリカも日本を守れない』(毎日新聞出版)などがある。

東京外国語大学伊勢崎ゼミ生伊勢崎先生のもとで平和構築について学ぶ東京外国語大学3年生。大学で専攻する言語や分野はさまざま。

堀潤(ほり・じゅん)ジャーナリスト・キャスター。1977年生まれ。元NHKアナウンサー。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画『変身-Metamorphosis』を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーターを務め、毎日新聞、「anan」など多数連載中。2014年4月より淑徳大学客員教授。

 

第一部

 第一部は、伊勢崎賢治さんのもとで平和構築を学ぶ東京外大の学生たちによるケーススタディの報告。語学力を生かして現地の報道などから調査・分析した、世界各国の難民・移民に関する政策やテロ対策の状況について、6つのグループに分けて解説してくれました。
 積極的に難民保護を続けてきたものの、最近では一部で排外感情の高まりが見えるドイツ、民主主義の名の下で受け入れを続けてきた一方、近年はテロ対策重視の方向に進む英米、「難民受け入れ」と「テロ対策」を二者択一的にとらえず、現在も積極的な難民受け入れ姿勢を示すカナダ、ヨーロッパで続く大規模なテロ事件の影響を強く受けるフランス・ベルギー、国内の安定を重視して排他的な政策を貫く「閉鎖的国家」グループ(ロシア、チェコ、ポーランド、マレーシア)、地理的な条件などから、否応もなく難民とかかわらざるを得ない国々(トルコ、レバノン、ヨルダン、パキスタン、インドネシア)…どのグループにも、「これが正しい」とは言い切れないジレンマがあり、向き合い続けなくてはならない問題点があることが分かります。「『テロ』に強硬姿勢で臨むことは、逆に新たな『テロ』を生む可能性がある」「国内の外国人に同化を強要することも、また逆にあまりに極端な多文化主義を取ることも、どちらも大きな不満を生み出す」といった共通項も見えてきました。

 続いて、これまで見てきた国々と比較しながらの、日本の現状についての報告も。難民受け入れに対してきわめて消極的とされる日本では、多くの人が、そもそも難民・移民といった「マイノリティ」の包摂について真剣に考えたことがなく、シリア難民の問題などについても、どこか他人事としてとらえているのではないかという厳しい指摘がありました。
 また、最後の「日本社会への提言」では、今後難民や移民といった形で日本社会に暮らす外国人が増え続けた場合に、国民がそれに対してどんな反応を示すかが政府の政策にも大きな影響を与える、とした上で、以下のユネスコ憲章前文が引用されました。
「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。/相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった」
 この言葉にあるように、私たち日本人がやるべきことは、これから増えていく外国人に対して、まず風習や習慣を知って疑惑と不信を生まないよう努力をすること。そして、それでも疑惑や不審が生まれてしまう場合にも、それらと自らが闘う姿勢をもつことではないか──。そんな言葉で、ゼミ生たちの発表は締めくくられました。

第二部

 第二部は、第一部での発表内容を受けて、伊勢崎賢治さんとゲストの堀潤さんによる対談。「(第一部で見えてきた)教訓を得て、私たちは何をしていけばいいのか」という伊勢崎さんの問いかけに、堀さんはまず、ご自身が立ち上げた市民メディアの活動を通じて知ったという、あるNPOの活動について話してくれました。
 東京・福生市で活動するそのNPOでは、外国にルーツをもつ地元の子どもたちに、日本語学習を含めた学習支援を続けているのだそう。日本語がわからず学校の勉強についていけなくなると、社会のどこにも居場所を見つけられなくなって孤立してしまいがち。また、アイデンティティを確立するという点でも、一つの言語をしっかりと身につけることには、大きな意味があるといいます。
 「こうした草の根的な地域の活動なしに、いきなり『難民を大量に受け入れる』とだけいってもうまくはいかないのではないでしょうか。難民問題に『ウルトラC』の解決策はないのだと思います」(堀さん)
 また、「文化や習慣の違うところから来た人たちを、どう社会に受け入れていくか」という問題は、何も私たちに最近突然降りかかってきたわけではない、とも堀さんは指摘しました。これまでにも、日本社会の中には帰国した中国残留孤児の人たちやインドシナ難民の人たちの存在があり、彼らと日本社会の架け橋になろうと奮闘してきた人たちもたくさんいた。にもかかわらず、その経験がいまひとつ社会の中で共有されていないのが問題なのではないか──。

 そこから、政策レベルでの取り組みについても堀さんは一つのアイデアを示してくれました。全国で一気に難民を受け入れるのではなく、ある「特区」のような場所をつくり、そこで少しずつ受け入れを進めていきながら、そこで積み重ねたノウハウを他の地域でも共有していくというものです。
 伊勢崎さんは、このプランに賛同を示すとともに「その場合、その特区のように『多様性を受け入れる』ことが『経済的にも得をする』ことになるんだ、と他の地域に対しても示すべきだと思います」とコメントしました。そうであってこそ、受け入れへのモチベーションが広く生まれてくるのではないか、という視点です。
 「経済」は、この日のトーク全体の重要なキーワードでもありました。世界各地での、いわゆる「テロ組織」の勢力拡大に貧困が深く関係していることは、すでに多くの人が指摘しているところ。ヨーロッパなどで見られる排外感情の高まりの背景にも、経済的な不安が存在しているといわれます。日本でもしばしば「難民を受け入れたら日本人の仕事が奪われるのではないか」といった声が聞かれるのは、やはり経済力の低下が影響しているのでは、と堀さんは指摘していました。
 「だから、一人あたりのGDPを上げられる政策をきちんと進めるとともに、『それによって、これから難民を受け入れていくための土壌をつくりたいんだ』というメッセージを打ち出していくことが大切だと思います」と堀さん。伊勢崎さんも、「(経済的な不安に押しつぶされることによる)『経済的アイデンティティクライシス』は、地球レベルの安全保障を考える上でも重要なポイントになっています」と語りました。もちろん、経済のために個々人の人権がおろそかにされることがあってはならないけれど、人権を守るためにも経済力が重要という一面もまた、たしかに存在するのです。

 さらに、経済的な余裕があるかないかは、個々人の行動にも大きな影響をもたらすことがあります。明日の生活もままならない状態では、難民問題をはじめとする社会のこと、政治のことなどに関心を持つ余力もなくなるケースが多い──。思い当たる人も多いのではないでしょうか。
 堀さんは「今日ここに、難民問題やテロについて考えたい、と集まってきた皆さんは、その意味ですでに『余力のある』人です」と告げ、こう続けました。「そして、その『余力のある』人のことを『エリート』と呼ぶんだと思います。経済力だけではなく、時間、体力、創造力…なんでもいいから、自分には今『余力があるな』と思ったら、責任を感じて行動してほしい。そして、みんなでそのバトンを次々につないでいけばいいんだと思います」
 堀さんの前向きな言葉に、伊勢崎さんは「今日は堀さんと話していて、勇気をもらいました。この問題をどうしたらいいのか、結論は出ないけれど、とにかく身近なところから行動するしかないですね」とコメント。続く質疑応答や、終了後の参加者アンケートでも、「自分に何ができるか改めて考える機会になった」「行動しなければと思った」という声が目立ちました。

koe

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

今、最も重いテーマでありながら、一般の報道では理解できずにいた国ごとの背景などがわかりました。難民とテロが皆無になることはないと思いますが、地球規模での平和のために、日本は何ができるのか自分はどう関われるのかを考えるきっかけにしたいと思います。(小橋由江)

難民問題の解決策として、ただ難民をとにかく多く受け入れれば良いと思ってました。この講演で、個人個人の意識や自治体による政策などから考えていかないといけない、と思いました。(匿名希望)

レポートはよく出来ていたのですが、世界のテロ対策と難民政策をもっと詳しく二人から聞きたかったです。学生さんたちからのリアルな声も聞きたかったです。(匿名希望)

ゼミ生さん方の発表・情報の整理にも、新しい知識としても大変興味深かったです。皆さんの言語能力を活かした情報収集力を目の当たりにして、将来が楽しみだと思いました。堀潤さんと伊勢崎さんのトークは、期待以上のおもしろさで満足、多くのインスピレーションを得ました。明日からの活動に活かそうと思います。(匿名希望)

堀氏のように理想を掲げてその達成に向けて何をすべきかを考えて行動する方、伊勢崎氏のように現実をまずは受け止めてその解決に障害となるものを検証して、そこから解決策を導く方、問題に向かう方法や姿勢も多様であるべきだと思いました。(笹原香織)

初めてこのようなセミナーに参加しました。いろいろ考えなければならないこと、今まで考えてきたことの甘さを含め、これから更に考えていきたい。(匿名希望)

第一部の発表がたいへん勉強になりました。言葉のしっかりした定義から始めていただき、私として信頼感を持って発表を聴かせていただきました。ただ「異質なものの恐怖」の「恐怖」の表現が気になったので、質問をしました。回答をいただき、分析的に把握されていることがわかりました。単に「恐怖」ととらえると、そこで思考停止しがちではと思いましたので。(匿名希望)

世界各国の対応をカテゴリーに分けてわかりやすく整理されていて、今後の情報収集、学習にとても役に立つと思う。堀さんの「やるだけでなく発信が大事、その際、オピニオンよりファクトの方が良い」は、大変参考になりました。(黒江晶子)

堀さんの「やってみなければ、エラーはでない。エラーしたことによって問題が見えてくる。そのエラーをみんなで支えていく必要がある」と言ったことが印象的でした。(永瀬園子)

学生のプレゼンは有意義ではありましたが、スピーチの方法など、きちんとトレーニングをして欲しいと思いました。またトークセッションも、話がいろいろな方向に行ってまとまりがなかったので、司会役がいた方が良いかと思いました。(柴本弥生)

第一部は研究発表で終わった感が残念。最後の提言をもっと厚く、個人としてどう行動したいか? が聴きたかったです。また第二部は、様々なキーワードを含んでおり、多くの刺激を得ました。ただ少し話が飛びすぎていて、迷う部分もありましたが、クロストークをフリーでやりたかったからだと思いますので、そういうスタンスであれば、それでいいと思います。(匿名希望)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : マガ9学校やりました。

Featuring Top 10/46 of マガ9学校やりました。

マガ9のコンテンツ

カテゴリー