私は子供のころから大人になっても、しばらくの間、夕方が嫌いでした。1日が終わってしまうことの寂しさ、とりわけ日曜日は「これで週末も終わったな」と思いながら、『笑点』を憂鬱な気分で笑っていた(?)ものです(世間では、『サザエさん』を見ながら、体調不良や倦怠感を感じる『サザエさん症候群』というものがあるそうですが)。
それが変わったのは、かつて子どもたちを保育園に迎えにいったときのこと。商店街を通って家路に向かう途中、息子と娘が夕焼けのなか、はしゃぎながら歩く後ろ姿を眺めていたら、夕方の町の風景がとても心地よく感じたのです。周りを見れば、部活の後らしき中高校生もいて、「今日も一日ご苦労さま、楽しかったかい?」と心の中で彼、彼女らに声をかけました。自分は夕方が嫌いな少年だったくせにと苦笑いしながら。
こんな思い出を大学時代の同級生に話したことがあります。そのとき彼女から「夕方が好きになったのは君が幸せだからだよ」と言われ、自分にとっての幸せは夕方が好きになれるかどうか、そんなささやかなものなんだなと得心した次第です。
と、自分のことをつらつら語ってきたのは、9月に菅義偉官房長官が歌手・俳優の福山雅治さんと俳優の吹石一恵さんの結婚について、「結婚を機に、やはりママさんたちが、一緒に子供を産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれればいいなと思っています」と発言したから。
当然ながら、子どもは「ママさん」だけの責任で産み育てるものではないし、そもそも国家が「産んでほしい」などと口を挟む問題でもない。子どもを持たない結婚も当然ある。それに加えて、どうしても気になることがあります。
この国では子育ての環境がどんどん悪化しています。2014年に厚生労働省が発表した「子供の(相対的)貧困率」は過去最悪の16.3%に上り、6人に1人、約325万人が「貧困」に該当するという、先進20カ国のうち4番目の高さにあることが明らかになりました。
企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法が採決されたのも同じ月です。多様化する労働者の「働き方」のニーズに対応するとのことですが、子どもたちは毎日同じように朝起きて幼稚園や保育園、小学校に通い、夕方には家に帰らなければならない。その生活リズムに合わせられない大人が増えれば、子どもが少なくなるのは当たり前です。
こうした状況を放置しながら「子どもを生んで国家に貢献してほしい」という。現実が見えていないのでしょうか。
12月1日にマガ9学校番外編「~女性が社会を変える。怒れる女子会2015」が行われます。「オッサン政治」がはびこった結果、女性にも男性にも様々な面で生きにくいこの国をどう変えていくか。おしどりマコ・ケンさんも交えて、大いに語り合える場になる予定です。こうしたムーブメントが盛り上がり、夕方が好きな人がもっと増えれば、もっと平和な世の中になるのに、などと思う私であります。
(芳地隆之)