この人に聞きたい

 安倍首相は来年夏の参院選で、憲法改正を公約に掲げると明言しました。現政権はかねてから、反対の多い9条ではなく「合意を得やすい」ところから改憲論議を進めていくという方針を明らかにしており、環境権や「緊急事態条項の創設」などが具体的なテーマになるのではないかといわれています。
 緊急事態条項とは、自然災害や戦争などの緊急事態に、憲法秩序を一時停止して非常措置を行う権限、すなわち「国家緊急権」を政府に与えるというもの。「素早い対応が可能になる」などの声がある一方、その強大な権限が濫用される危険性も指摘されています。「本丸」の9条改憲を実現させるための「お試し改憲」とも揶揄されますが、そんなに軽く片付けてしまっていいものなのでしょうか?
 緊急事態条項が憲法に定められるとは、どういうことなのか。実現すれば、何がどう変わるのか。東日本大震災で被災地支援に携わった経験を持つ小口幸人弁護士にお話を伺いました。

小口幸人(おぐち・ゆきひと) 1978年生まれ、東京都町田市出身。中央大学卒業後、電機メーカーのトップセールスマンとなるも、弁護士を志し退社。2008年に弁護士登録、1年4カ月の東京勤務を経て、司法過疎地である岩手県宮古市の「宮古ひまわり基金法律事務所」三代目所長として就任。3年7カ月の間に1000件以上の相談に対応。同地で東日本大震災に遭い、全国初の弁護士による避難所相談を実施。被災者支援・立法提言活動に奔走するとともに、困難な刑事弁護事件も多数扱う。
憲法レベルで国家危急権を定めるということ

編集部
 前回、日本には憲法上の「国家緊急権」はないけれど、それに相当する定めがさまざまな法律の中にすでにある、だから新たに災害対策として憲法に緊急事態条項を加える必要性はない──というお話をお聞きしました。
 ただ逆に、法律ですでに決まっているのなら、それを憲法に書き込んでも特に問題はないのでは? とも思ってしまいそうです。仮に、自民党の改憲草案にあるような形で緊急事態条項が定められたら、何が変わるのでしょうか? 

小口
 まず、災害に対する備えは、法律や条令、政令や通達の中にたくさんあって、それを前提として緊急時の準備もある程度行われています。そんな中、突然内閣が緊急事態を宣言させて権限を集中させた場合、逆に現場は混乱する可能性が高いということです。現場の人が自分たちで判断して動こうとしても、「総理が緊急事態を宣言した」となれば、「これから内閣がどんどん政令をつくって指示を出すから待機せよ」ということになりかねない。でも、国のトップに現場の情報が渡って判断が降りてくるのには時間がかかりますし、どんな天才が出す指示でも、事前の備えやマニュアルにはかないません。だからこそみんな、災害に備えてマニュアルをつくろうとするわけですよね。災害直後、通信状態もよくない中で「緊急事態宣言」なんて出されたら、混乱を拡大するだけではないでしょうか。
 それから、自民党草案の条文では、何人も「国その他公の機関の指示に従わなければならない」とあります。現行の災害救助法や災害対策基本法では、指示の内容によって「命じられる」「協力を要請できる」と言葉が使い分けられていますし、指示できることも限定されていますが、ここではそれもありません。普通の読み方をすれば、緊急事態には一定程度人権を制限されてもしょうがない、ということになります。
 もちろん、今の法律でも一定の人権制限はできますが、それが過度にならないように、必要十分なことは何か、不当に制限しないためにはどこまでか、ということがしっかり考えられてバランスを取ってある。あくまで法律なので、憲法の範囲内に収まるよう、不当に人権を制限しないよう調整した上でつくられているわけです。ところが、憲法上に「従わなければならない」ということが書かれると、同じ憲法レベルということで、「こっちの必要性が上がったからこっちの権利は制限する」という乱暴なことが可能になり、不当に人権が制限される恐れがあります。緊急時に、その場で慌てて判断したら、広く、過剰に制限される可能性は大でしょう。

編集部
 憲法レベルの定めになることで、過度な人権制限が行われる危険性が増大するということですね。

小口
 そうです。そしてもう一つ、私が「憲法で国家緊急権を定めること」の弊害だと思っているのは、それが「伝家の宝刀」になってしまうということです。

編集部
 伝家の宝刀、ですか?

小口
 例えば、国家緊急権が憲法で定められたとしますよね。その後、国会でこんな質疑が行われたとします。「1万年に一度、こういう大災害が来ると言われていますが、それに対する備えはしないんですか」。私が総理なら、こう答弁しますね。「わが国の憲法には緊急事態条項が定められております。もしものときにはそれで対応できますから大丈夫です」。…なんとなく大丈夫そうに聞こえませんか?

編集部
 だから具体的な備えはしなくても大丈夫、という…。

小口
 それがあるだけでとなんとなく安心、のような気にさせられてしまう。これが「伝家の宝刀」だと思うんです。でも、実際はこの伝家の宝刀、抜いても全然役に立たないんです。災害が起きた直後、とっさに次から次と内閣が決めていく、そのときに何を決めるかはわからない、そんなことでは、うまくいくはずがないでしょう。
 たしかに法律に必要な定めはある、でも憲法にも何か置いておいたほうがより安心じゃないか、という気持ちはわからなくはありませんが、実際には、災害対策としては全然役に立ちません。「準備していないことはできない」、これが災害対策の原則です。憲法だから準備していないこともできる、なんていう魔法はありませんよ。

本当の目的は
災害ではなくて戦争にある

編集部
 ちなみに、「緊急事態条項が必要だ」という人から、具体的に「こういうときにないと困る」という指摘は出ていないんですか?

小口
 ほぼ一つだけですね。国会議員の任期延長についてです。東日本大震災のときは、翌月に予定されていた地方統一選挙が特例法で延期されましたが、国会議員については憲法で任期が決められていて、法律で例外を定めることができない、という指摘です。たとえ大災害の直後であっても、議員の任期が切れたらそこで選挙をしないといけないということになる。それができないと困るから、緊急事態条項の中に国会議員の任期延長規定をつくっておくべきだ、というんですね(※)。

※自民党の改憲草案第99条の4では〈緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。〉とされている。

編集部
 うーん、それはそれで重要なのかもしれませんが、それだけのために憲法を変えないといけないの? とも正直なところ思ってしまいます。

小口
 研究者の方に意見を求めたところ、現行憲法の解釈の範囲内で対応できるという声がありましたし、私もそう思います。それこそ、憲法9条があるのに自衛隊をもてるということに比べたら、よほど穏当な解釈です(笑)。もちろん、ちゃんと憲法に明記すべきだという方もいますし、それはわからなくもないのかな、と思いますが、ただ、血税を使って国民投票をやるまでの必要はなく、公職選挙法を改正して、災害が起きても選挙ができる方策を練った方がいいと思います。早めに投票権を配るとか、インターネット投票等を可能にするとか、移動投票車みたいな制度を設けて避難所を巡廻するとか、いくらでもやりようはあると思います。

編集部
 そうなると、たとえ「伝家の宝刀」とはいえ、それほど必要性が高いとは思えない条項を、なぜそんなにつくりたいの? と思ってしまうのですが……。

小口
 それは簡単です。災害は国民から賛成を得るための単なる口実、ダシにすぎなくて、本当の目論見は「戦争」にある。戦争が起きたときに備えるためのものなんだと思います。最近の一連の流れを見ていれば明らかです。
 自民党の改憲草案では、緊急事態を〈我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他〉として、戦争も自然災害も同じように扱っていますが、一緒にするなと言いたいですね。
 実際にはこの二つが起こったときに必要なことはまったく違います。戦争は事前に外交交渉があって、それらが決裂して軍隊を出動させるわけですから、国のトップに権限を集中させる必要があるのかもしれません。しかし、災害はすでにお話ししたようにまったく逆です。国のトップに突然権限を集中すると、かえって混乱してしまう。必要なのは市町村長など現場のトップへの権限委譲です。
 実際、緊急事態条項がある諸外国の憲法も、多くは軍事関係と災害の場合を分けて定めているんですよ。

編集部
 そこをあえて一緒くたにしている……。

小口
 災害対応を目的として押し出せば賛成される、という読みでしょう。実際、メディア報道などでも批判は少ないですよね。「災害対応のためだ」と言われれば批判しづらいですから。批判が少ないので野党さえ騙されかねない状況です。その意味では、「こう言っておけば通るだろう」と、メディアも国民も舐められているんだと思います。

災害自体が
「なかったこと」にされるかもしれない

編集部
 仮に、国家緊急権が制定され、災害の際に発動されたとすると、どんなことが起こる恐れがあるのでしょうか?

小口
 いままで話した現場の混乱が一つですが、もっと怖いのは情報統制だと思います。
 実は、第二次世界大戦末期の1944年12月には東南海地震、1945年の1月には三河地震と、それぞれ震度7クラスの地震が起きているのですが、みなさんご存知ないですよね? 実は、戦争に悪影響を与えるということで情報統制されて、当時もほぼ「なかったこと」にされたのです。十分な復旧復興活動も行われませんでした。
 東日本大震災を経験した者からすると、一番怖いのは、原発事故を隠されることです。自民党の改憲案なら、それが可能です。内閣が緊急事態を宣言して、「災害復旧活動の混乱を招くような報道やデマに繋がる通信は規制する」ということで、報道については事前規制を、インターネットについては通信規制をして、違反者への罰則を定めてしまえば、原発事故は簡単に「なかった」ことにできると思います。なんせ放射能は見えないんですから、ガイガーカウンターで測定でもしない限りはわからない。東日本のときも、原発事故に関する情報は、みんな国と東電の記者会見に依存していましたよね。例外はツイッターぐらいでした。あのときのことを思い出していただければ、絵空事ではないことがお分かりいただけると思います。

編集部
 誰かがガイガーカウンターで測定したとしても、その情報を拡散する術がないですね。

小口
 そうなんです。情報を伝達する方法がなくなる、というのは本当に恐ろしいものです。自分が見聞きしたもの以外は知ることができないんですから。
 災害直後という、ただでさえ通信が不十分になり混乱しているときは、どうしても政府からの情報に依存しがちです。4年前の原発事故のときだって、みんな、固唾を呑んでテレビで東電や枝野官房長官の記者会見を見ていたじゃないですか。緊急事態条項がなくてもあんな状態だったんです。更に国が情報を規制できる権限を憲法に定めたら、災害直後は、国が見せたいものしか見られなくなっても全然不思議ではありません。

編集部
 あのときは、事故の状況や放射能の広がりについて政府がなかなか情報を出さず、避難も指示されなかったために、被曝してしまった人たちが大勢いました。

小口
 それが、緊急事態宣言が出されて国家緊急権が発動される、なんていうことになったら…。いわゆる「御用学者」以外の学者やメディアは一切情報発信できなくなるし、移転の自由を制限して、住民の避難を止めることだってできてしまいます。国道は物資の輸送のために使用するから他の車両や人は一切通さないとか、いくらでも名目は立てられますから。

編集部
 逆に、避難していた住民を強制的に帰還させることもできてしまいますね。

小口
 さらに、今は特定秘密保護法もあるので、そうして隠された情報はおそらく二度と出てこなくなります。「原発事故が起こった」こと自体が、あとあとまで隠されたままになる可能性まであるんです。

編集部
 「本丸」の9条改憲に向けた「お試し」のようにも言われる緊急事態条項ですが、実際には9条改憲に匹敵するくらいの大きな意味を持ってしまうものなんですね。

小口
 もちろんです。そもそも日本国憲法の制定時には、国家緊急権の規定を設けるべきだというGHQ(連合国軍総司令部)の意見があったと聞いています。GHQは軍隊ですから、緊急事態に関することへの配慮はバッチリだったわけです。でも、当時の国会で審議の末に、濫用の恐れへの懸念もあって緊急事態の規定は置かれなかったという経緯があります。国家緊急権というのは、あまりにも強力な権限を政府に集中させることになるから、濫用されると非常に恐ろしいということが認識されていたんですね。
 第二次世界大戦前のドイツで、世界でもっとも民主的ともいわれたワイマール憲法がありながら、ナチスドイツの独裁が実現してしまったのも、そのワイマール憲法に規定されていた国家緊急権を解釈によって濫用され、ついには全権委任法の制定につながっていったからだと言われています。国家緊急権を導入する改正なんていうのは、憲法を学んだ者からすると、最もとんでもない改正です。歴史的に見ても、もっとも危険性の高い条文といえるかもしれません。
 それでも、政府が国家緊急権の規定をどうしてもつくりたいというのなら、まずは「戦争の備えである」ことを堂々と掲げてからにしてほしいと思います。それをせず、実際には何の役にも立たないのに「災害対応のため」と言い続けるのは、あまりにも被災者をバカにしている。災害を、そして被災者をダシに使うのはやめてくれ、と言いたいですね。

 

  

※コメントは承認制です。
小口幸人さんに聞いた(その2)
緊急事態条項の導入は
「災害」を名目にした「戦争への準備」
」 に10件のコメント

  1. magazine9 より:

    これまでにも、マガ9に登場いただいた何人もの方が緊急事態条項について触れられていますが(青井未帆さん井口秀作さん辻元清美さんなど)、「災害対応のために必要なのは、改憲ではなくて事前の備え」だという指摘は共通しています。やはり「災害対応」は批判を封じるための名目にすぎないのではないか、と思わざるを得ません。
    「災害対応のために必要」といいながら、具体的で説得力のある「必要な場面」はいっこうに提示されない。そのやり方は「国民の安全のために安保法制が必要」との言説が繰り返された記憶とも重なります。それがなんのために、本当に必要なものなのか。思考停止に陥らず、考え、そして発信していきたいと思います。
    ☆「緊急事態条項」の問題点について小口弁護士のレクチャーが聞ける「マガ9学校」が11月21日に開催されます。詳しくはこちら

  2. なると より:

    ひとつ質問があります。国会議員の任期についてです。
     
    念のため質問の前に書いておきますが、現在の自民党の改憲案にある緊急事態条項について、私自身は反対の立場です。ただ、現在の日本国憲法下でどのように緊急事態に対応できるかはそれとはまた別の問題でありましょう。
     
    > 研究者の方に意見を求めたところ、現行憲法の解釈の範囲内で対応できるという声がありましたし、私もそう思います。
     
    どのように現行憲法を解釈すれば、対応が可能になるのでしょうか。
     
    前回のお話で出てきた災害対策基本法の例でいえば、これは人権の制限なので、「公共の福祉」を言い訳にすることが可能かもしれません。(これが健全だとは思えませんが、そういった解釈の余地があることは認めます。) しかし、国会議員の任期についてその理屈を持ち出すことはできないでしょう。45条も46条も付け入る隙がないほどシンプルです。
     
    国会議員の任期を延長することは不可能であると私は考えます。となると、国会議員でない人間を国会議員と同等に扱う、あるいは国会の機能を別の組織が代替するなどといった対応しか残されていません。これらについては論外でしょう。
     
    緊急事態になってから泥縄式に憲法の解釈をいじるよりも、どう解釈してどう対応するかを平時から定めておくことが「事前の備え」として必要なのではと思います。

  3. 小口幸人 より:

    インタビューを受けた小口です。質問ありがとうございます、質問に回答させていただきます。

    「国会議員の任期」というと、任期自体を記載した45条や46条の問題だと思われがちですが、論点は国会閉会中、あるいは国会議員の一定数が存在しないとき、災害等が発生し、緊急で立法行為をする必要があるときに、どうやってこれを実現するか、という問題になります。つまり、憲法54条(特に2項と3項)の問題です。

    【第五十四条】
    1 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
    2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
    3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

    もともと日本国憲法は、衆議院解散中などに、災害など緊急の必要が起きることを想定して、緊急集会という制度をおいています。この参議院の緊急集会と、参議院の半数改選制度により、特段の解釈を施すまでもなく、

    1 衆議院が解散したとき
    2 参議院の任期満了による半数改選のとき
    3 参議院の半数解散&同時に衆議院解散のとき
    のいずれの場合でも、必ず参議院の半数が残っているので、内閣は緊急集会を求め、そこで立法行為を行い法律を制定させることができる、というつくりになっています。

    日本国憲法が二院制をとり、参議院を半数改選にしているのは、このときのためといっても過言ではありません。この点で日本国憲法は、非常時のことをよく想定してつくられた憲法、ということができると思います。

    さて、残るケースは、衆議院が「解散」ではなく「任期満了」のときにどうなるのか、という問題だけです。ちなみに、衆議院が任期満了を迎えたのは、実は戦後1回しかありません。つまりその1回以外、衆議院は必ず任期中に解散しているということです。

    よって、解釈が必要となるケースというのは、
    ・この戦後70年で1回しかないような珍しい衆議院が任期満了となったときに
    ・選挙を困難にするような大災害が発生し
    ・なおかつ、従前の法律では対応できず、是非とも新たな立法行為をしなければならないとき

    という極めて限られたケースだけです。
    (個人的には、こんな可能性の低い事象のためだけに、大金使って憲法改正するのはいかがなものか、と思います。)

    なぜ解釈が必要になるかといえば、
    54条2項は「解散されたときは」と定めており、「任期満了」を一義的には含んでいないと解されるからです(解散等されたときは、になっていれば問題ないのですが)。
    つまり、「解散」ではなく「任期満了」のときも、54条2項により、あるいはその準用等により、緊急集会を求め立法行為を行うことが憲法上できるか、という問題がおき、解釈が必要となります。
    (なお、この解釈の是非に結論がでるのは、この立法行為により具体的な損害等を受けた人が裁判を提起したときで、立法行為の有効無効を判断しないと、その損害の有無等が判断できないとき、だけですので、結果が出るのは数年後(最高裁までいくでしょうし)、というケースがほとんどだと思われます。)

    そして、衆議院の解散時に緊急集会を認めている54条2項の趣旨を踏まえれば、任期満了時であっても解散のときと問題状況は全く同じであり、特に別に解する相当な理由も見当たらないし、元々参議院の半数で一時的に法律を制定させる制度として緊急集会があるのだから、そのように一時的に法律を制定させても問題はないはずだ、と解釈し、緊急集会を開催できるとすれば、このケースも乗り越えることができます。

    確かに、解釈ですから賛否はあるでしょう。しかし、憲法9条の下で自衛隊をもったり、安保法案を合憲だというのに比べれば、圧倒的に常識的かつ穏当で無理の少ない解釈だということについては、誰も異論はないはずです。
    また、そもそも任期満了の時期は予めわかっているので、公職選挙法を改正することで、任期満了と選挙の時点を可能な限り近づける、あるいは同時にするなどの工夫をすることで、憲法に触れることなくこの問題を解決することができます。
    何より、事前に災害対策に関する法律をしっかりつくっておいて、災害後慌てて立法しなければならない状態をつくらない、というのが最優先です。

    ちなみに、この論点については、従前の国会議員の任期を延長することを前提とする議論ばかりを目にします(特に国会議員の方からはこういう意見ばかりを耳にします)。

    しかし、東日本大震災を経験し、すぐ近くの町(大槌町)で町長選が開かれた経験がある私は、異なる意見をもっています。当時大槌町では、恐らく災害がなければ現職がそのまま当選していたでしょう。しかし災害があったからこそ、複数の立候補が出て、選挙機の際に「あるべき復興」について住民への説明と議論が活発になされました。

    私は、大災害が起きたならばなおのこと、ぜひ選挙をして、復興について議論し、素晴らしい復興を公約とした政党が与党となり、復興を進めてほしいと考えています。
    災害が起きる4年前も前に全く異なる公約で選ばれが国会議員の任期を原則を曲げてわざわざ伸ばして、その人達に決めてもらうより、よほど主権者の意思を尊重できますし、何より描かれる復興に期待がもてます。
    確かに災害直後に選挙をするのは大変です。しかし、仮にそれに1ヶ月、2ヶ月かかったとしても、復興は1年、3年、5年、あるいはそれ以上という月日がかかる大作業です。
    本当の意味での復旧復興を考えるならば、大いに復興について語り、国民の多数の賛成を得た議員が復興にあたるべきだと思います。

  4. なると より:

    質問いたしましたなるとです。小口さま、回答有り難うございました。
     
    54条2項の解釈を広げることで対応できるという考えであることは納得できました。条文の趣旨や精神といった明文化されていないものを根拠にしてしまうことについて抵抗がなくはないのですが、その点を除けば穏当で無理のない話であること、同意いたします。
     
    憲法に改善の余地があることを認めたうえで、あとは解釈改憲してしまうコストと改憲にかかるコストを比較する話になるのでしょう。今回の件については一旦棚上げできると思います。
     
    繰り返しになりますが、ご回答有り難うございました。

  5. 明智 小五郎 より:

    埼玉県上尾市にある聖学院大学政治経済学部の石川裕一郎教授は、安倍首相が創設を目指す「緊急事態条項」について
    ●フランスの事例を挙げて、これまで6回の非常事態宣言の発令では自然災害での適用が1回もないのです。・・・と言っています。

    そうでしょうか? 考えてみてください。
     非常事態のうち、(テロ等)によるものは(人間社会)で引き起こされたものです。
           しかし、(自然災害)はその名のとおり(自然発生)の現象なのです。
     非常事態宣言を発令した6回の間に、自然災害が無くて幸いであっただけのことである。
     ですから、(テロ等)の回数と比較する意味が全くないのです。

    つづく

  6. 明智 小五郎 より:

    つづき

    ●また 石川裕一郎教授は、憲法54条の(参議院の緊急集会)を根拠に、緊急事態条項の必要性を否定しています。

     参議院議員の半数だけで、緊急事態を乗り切れるのでしょうか? 自然災害のみ発生したのであれば、それでも乗り切れるでしょう。 しかし実際には、あらゆる場合を想定した緊急時の対応が必要となります。
    仮に自然災害が発生したとして、それに乗じて(テロや他国による侵略)が引き起こされた場合は憲法54条の(参議院の緊急集会)で乗り切ることは現実的に無理があり、安全保障への対応ができず、国家の危機に陥ります。
    GHQ草案に基づく現行憲法は、そこまで想定して作られていません。 ですから、国の存立危機事態に備えるために 「緊急事態条項」 の創設が求められるのです。 日本国の尊厳を大切にする自民党の 「日本国憲法改正草案」 は しっかりと、「緊急事態条項」の創設を提案しています。

  7. 小口幸人 より:

    理解に苦しみますが、一応返信させていただきます。
    まず、災害大国日本と、災害が多くないフランスを、自然災害に関連する物事の回数で比較しても何の意味もないと思われます。

    さて、「参議院議員の半数だけで、緊急事態を乗り切れるのでしょうか?」という問いが、具体的に何を想定されているのかよくわかりません。

    まず、仮にこの問いを真に受けるのであれば、参議院の半数しかいなくなる事態、つまり、参議院議員の任期満了のタイミングで衆議院を解散すること自体が問題、ということになります。安倍総理はこれをやろうとしていると報じられていますが、明智さまの前提に立つと国の危険を悪戯に高めようとしている、ということになります。

    さて本題です。
    「参議院議員の半数だけで、緊急事態を乗り切れるのでしょうか?」というのは、何を指していらっしゃるのでしょうか?

    平時は衆議院議員と参議院議員で丁寧な審議をして法律を制定させ、内閣を代表とする行政機関がこれを執行しています。

    参議院議員の任期満了時に衆議院が解散されたときは、参議院の半分だけになりますが、参議院の半分で緊急集会において審議をし、臨時の措置を決定し、内閣を代表とする行政機関がこれを執行することになります。

    主な違いは国会で議論する国会議員の人数だけです。

    そうすると、国会で議論する議員の人数が少ないと「乗り切れない」「国家の危機に陥る」「安全保障への対応ができない」ということになりますが、それは一体どういった事態を想定して話をされているのでしょうか。

    なお、自民党の日本国憲法改正草案に書かれている、百地教授をして行き過ぎていると言わざるを得ない「緊急事態条項」は、内閣だけで臨時の措置をとっていく内容となっています。

    国会で議論する国会議員の人数は、緊急集会の場合より少ない、ある意味ゼロということです。

    仮に、国会で議論する議員の人数が少ないと「乗り切れない」「国家の危機に陥る」「安全保障への対応ができない」事態があるとすると、こちらの規定の方が、現行規定よりも問題がある、ということになりそうです。

    おそらく明智さまのお話は、衆議院が解散されたり任期満了になったりすると、同時大臣もいなくなってしまう、という誤解に基づいているのではないかと存じます。そうではありませんので、ご安心ください。

  8. […] ・注7 緊急事態条項の導入は「災害」を名目にした「戦争への準備」マガジン9 知っておこう 「お試し改憲」の突破口 憲法緊急事態条項はなぜ危ないか […]

  9. 軍備を保有装備し他国を攻撃する改憲が、自由民主党の結党目標なのです。政治政党としての選択肢は、目標政策の推進実現か、解党か、いずれかです。自民党は、解党しない限り、人類滅亡、国家転覆壊滅趣旨である政策目標を推進し続けます。結党目標を実現する段に至った時点で、結党当初から解党が宿命づいている政党であることを、自民党自身が理解する必要があります。

  10. 谷 健一郎 より:

    未だに熊本に大臣クラスも誰も行っていないことが現政府の本音を語っていると思う。あれだけ推進している原発が怖いのかと勘繰りたくなる。自民党の改憲案はどう読んでも戦前の専制国家に戻そうとするものだ。しかし、マスメディアはほとんど触れていない。熊本の群発地震さえもサミット前に過少評価しようとするのか?天の声は為政者には届かないようだ。

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