今週の「マガジン9」

 これを書いている時点で、訪米中の安倍首相が連邦議会でどのような演説をしたのかはわかっていませんが、それに先立つ4月27日、岸田外相、ケリー米国務長官らは、日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)において日米同盟の抑止力強化で一致し、米軍普天間飛行場移設に関しては、名護市辺野古への移設が「唯一の解決策」で合意したことなどをニューヨークでの共同記者会見で発表しました。

 専守防衛という国是がいとも簡単に変えられてしまうことに唖然としますが、そもそもアメリカは本当に「唯一の解決策」と思っているのでしょうか。

 歴史社会学者の小熊英二さんは、2015年4月14日付『朝日新聞』の「(思想の地層)米軍基地の辺野古移設 日米安保条約、誤解あり」で、「(中略)沖縄の海兵隊主力戦闘部隊はアジア全域で活動しており、1年の約半分は沖縄にいない。つまり沖縄のみならず、日本に基地がある必然性もない。(中略)米軍にとって日本は最前線ではなく、アジア全域に展開する後方基地だったことである。在日米軍の中心は海軍と空軍であり、最重要なのは空母の母港となっている横須賀だ」として、「日米安保条約」は「防衛条約」ではなく、日本が米軍に基地を提供するための条約であることを指摘しています。

 今月17日、沖縄を訪問した安倍首相は、昨年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院選挙で示された辺野古新基地反対という民意を訴えた翁長知事に対して、「辺野古への移転が唯一の解決策」という従来と変わらぬ姿勢を示しました。それに対して知事はこう述べたといいます。

「われわれ県民から見たら、米軍基地の運用について日本政府がほとんど口を挟めないことをよく知っていますから、辺野古の問題についても、県民からは実感として、県民と米軍、県民とアメリカ政府との問題だとも思えます。ですから、私も近いうち訪米をして県民の思いを米国政府、シンクタンク等さまざまな方々に訴えようと思っています」

 日本政府にしてみれば、「貴殿は辺野古の基地問題の解決に対する当事者能力をおもちでないので、当事者である私たちが直接、アメリカと交渉します」と言われたに等しい。

 表向きはどうあれ、訪米する翁長知事が伝える沖縄県民の思いをオバマ政権やアメリカ議会は理解すると思います。それが辺野古基地建設の必要性を疑問視する見解にいたることはないでしょうが、誰だって地元の人々が反対している土地に駐留したいとは思わないはず。

 「これが唯一」あるいは「それしか道はない」という言説が現政権からはよく聞かれますが、それらは「余計なことは考えるな(想像力を働かせるな)」というメッセージに聞こえます。「それじゃ仕方がないか……」と相手に諦めを強いるようなレトリックこそ、いまの日本を覆う閉塞感の一因になっているのではないでしょうか。

(芳地隆之)

※次回の更新は5月13日(水)です。

 

  

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