風塵だより

 福島県知事選では、自民・民主・公明・社民の相乗り候補が圧倒的票差で勝利した。結局、自民党のなりふり構わぬ野党への「抱きつき戦略」が功を奏したわけだ。
 福島県内の首長選挙では、自民党候補の敗北が相次いでいたし、11月16日投開票の沖縄県知事選でも、自民が推す仲井真現知事の劣勢が伝えられている。自民党としては、これ以上の連敗は許されない。
 そこで、自民党福島県連がすでに推薦を決定していた候補を、自民党中央が強引に引きずりおろし、民主党系と見られていた内堀副知事にむりやり相乗りした。陰りが見え始めた安倍政権の維持のためには、どんな手だって使うというところが、さすが自民党だ。
 自民党としては、原発問題には触れたくない。
 特に福島で「原発推進」とは、口が裂けても言えるはずがない。そこで相乗りの内堀氏は「福島県内の原発はすべて廃炉」を掲げたものの、他県の原発に関しては一切触れない、という姑息な手段に出た。その上で「福島の災害復興こそが最重要な課題」と訴えた。
 こんなロコツな「争点隠し」に県民も呆れたのか、投票率はたったの45.8%という低さ。
 民主党も社民党も、中央では安倍内閣との対決姿勢を強調しているけれど、福島県という最も重要な「原発争点」の県で自民党と相乗りなどという不様を晒すようでは、とても期待できない。

 こんな状況の中で、原発への逆風が少し弱まったとでも思ったか、またも原子力ムラのムラビトたちが表舞台へしゃしゃり出てきた。
 10月28日、鹿児島県の川内原発(九州電力)の立地自治体の薩摩川内市の市議会が、ついに再稼働を求める陳情を可決してしまった。それを受け、同市の岩切秀雄市長も容認を表明。一歩前へ踏み出した。市役所前や傍聴席では、反対する住民たちが叫び声をあげていたが、そんなものを気にかけるようなヤワな議員サンたちじゃない。
 この後、鹿児島県議会や伊藤祐一郎知事の承認も必要だが、どちらも再稼働容認の姿勢を示していることから、再稼働へのハードルは地元レベルでは越えられてしまった。
 噴火対策も、事故時に必要なフィルター付きベントも、免震重要棟も、避難計画の策定も、避難施設の指定も、輸送手段も…何もかもまだきちんと整備されていないのに再稼働への道筋だけは作り上げた。これが「世界一厳しい規制基準」にのっとったものと言えようか。

 しかし、なぜこんなにまでして強引に再稼働に突っ走るのだろうか?

アベノミクスの頼みの綱
財界からの強い要請
他の電源と比較して安価
化石燃料の輸入費での経営圧迫
出力安定のベースロード電源
復活した原子力ムラからの圧力
立地自治体からのカネの要求
電力会社の地域独占の存続

 まあ、理由はいろいろあるだろう。しかし、どれをとっても国民の命との引き換えにしていい話じゃない。
 「安定したベースロード電源」とは言うけれど、それは再生可能エネルギー(自然エネ)の普及に待ったをかけるための理由に使われているとしか思えない。電力供給が不安定な再生可能エネのバックアップに、どうしても安定的な原発電源が必要だというのだが、本当にそうなのか?
 今年の夏は原発ゼロで、ほぼ問題なく乗り切れた。この冬も、原発ゼロ状態でも供給には問題ないと、各電力会社でさえ試算している。火力(と他の電源)で“安定的に”供給できるということだ。
 燃料費の高騰が、電力会社の経営を圧迫しているというが、このところ原油価格はどんどん下落している。世界経済の低迷や、アメリカを筆頭とするシェールガス革命によって、原油の需要が落ち込んでいるからだ。それよりも、アベノミクスによる円安誘導で原油の輸入価格が高騰したことのほうが罪が重い。つまり、今まで90円台で輸入できたものが110円近くになってしまったのだから、輸入費が増加するのは当然だ。電力会社の負担増は、アベノミクスの失敗によるものでもある。

 「他の電源に比較して原発電力は安い」と、いまだに思い込んでいる人も多い。けれど、これは壮大なウソだった。
 大島堅一立命館大教授の研究で、そのウソは完膚なきまでに論破されているのだが、それでもなお政府や経産省、そして電力会社はこの虚構の上に砂の城を築き続けている。
 大島教授だけではない。イギリスで現地調査をしてきた富士通総研の高橋洋主任研究員が東京新聞(10月26日付)で次のように述べている。日本政府が公式に示しているコストは「少なくとも1キロワット時8.9円」だが、「英国で原発を新設する発電会社の収入を保証する制度を導入し、原発がビジネスとして成り立つ価格を決めたところ15.7円(1ポンド=170円換算)。日本の1.7倍だった」というのだ。 この他にも「原発電力安価論」には大きな疑問がつく。毎日新聞(10月10日付)に以下のような記事があった。

 イギリス南西部ヒンクリーポイントというところに原発2基の建設が認められているが、なんと「安全対策費などが膨らんで、建設費は2基で約245億ポンド(約4兆2630億円)と巨額になり、電気料金が下がると、建設費を回収できなくなる」(なお、前掲の東京新聞では、ヒンクリーポイント原発の建設費は1基あたり1兆円超と記述されている)。
 日本の原発の建設費は4000億円前後と言われているが、その数倍に達する。ではなぜこんなにも建設費が違うのか。それは「安全対策費」のかけ方が違うからだ。
 これでも「原発電力は安価だ」「日本の原発は安全だ」などと言い張れるだろうか。

 廃炉費用も当然のことながら電気料金に跳ね返ってくる。
 イギリスでは廃炉ビジネスが定着しているが、無事故で廃炉に至った原発でさえ、廃炉完了までには90年もの年月が必要だという。
 イギリス・ウェールズのトロースフィニッド原発(出力23.5万キロワット)。1993年に作業開始、すでに20年が過ぎたが、施設の完全解体までにはなお70年かかるという。これが現実。
 日本では東海原発(日本原電、出力が16.6万キロワット時)など3基が廃炉作業に入っているが、東海原発(1998年作業開始)の工程表では一応の処理が終わるまでに23年間(2020年終了)を予定していて、その費用を885億円と見積もっているという(毎日新聞2013年8月19日付)。
 廃炉先進国イギリスが90年としている作業工程を、なんと日本では23年でやっつけちゃおうというのだから恐れ入る。多分、そうとうの期間延長ということになるだろう。そうなれば、885億円などという見積りは机上の空論。どれほどの金額が我々の電気料金に上乗せされるか分からない。
 原発電力が安価なわけはないことが、ご理解いただけたろうか。

 日本の原発は54基だったが、福島第一原発の6基の廃炉が決まったため現在は48基。そのうち7基は2016年で運転開始から40年を超える。
 「40年ルール」というものがある。一応は、40年超の原発は廃炉にするという原則だ。むろん、ここにも逃げ道が用意されており、1回だけは20年間の運転延長申請ができるという。何にでも姑息な逃げ道を作っておくのが、官僚たちの常套手段。
 だがルールはルール。来年の7月時点で延長申請をしなければ、この7基は自動的に廃炉ということになる。7基のうち4基が関西電力。関西電力が再稼働へ最も熱心なのは、こんな事情もあるのだ。
 原子力規制委員会が政府寄りに傾きつつあるとはいっても、審査にある程度の時間をかけなければ疑われる。タイムリミットが近づきつつある。各電力会社が再稼働に前のめりになる理由のひとつがこれだ。

 国会前で、毎週金曜日のデモが行われている。その一角で、いつも元気なシュプレヒコールをあげている女性がいる。
 <原発なくても、電気は足りてるぅぅーーー!!>
 そうなのだ。電気は足りているし、原発電力が安価ではないことも確かだ。

 あらためて主張しよう。
 原発は、いらない!

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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