雨宮処凛がゆく!

 私は今、北海道にいる。G8に対する反対運動のためだ。この原稿を書いている7月5日、目の前で信じられないことが起きた。

 普通にデモしていただけで、私の目の前だけでも二人がメチャクチャなやり方で逮捕されたのだ。

 今日「チャレンジザG8サミット 一万人のピースウォーク」が開催された。午後一時から集会で、アフリカやアジアの農民団体の人など各国の人がスピーチをし、午後三時、デモに出発ということになった。一時から三時まで集会の様子をネットTVで中継していた私ももちろんデモに加わった。

 私が参加したのはサウンドカーのすぐ後ろ。みんなが踊りまくるとこだ。近くには海外からの参加者も多く、天気はいいし外国の人たちはデモの盛り上げ方が上手いしで、途中までみんなテンション高くノリノリでデモしていた。集まったのは5000人。みんなでそれぞれの立場からG8に異議申し立てをした。私も『反貧困』の旗を持って叫びながら進んだ。 

 そうして全然普通にサウンドデモをしていたら、サウンドカーにいきなり警察が乗ってきた。え、と思う間もなく辺りは怒号に満ち、何もしてないDJが警察数人がかりでひきずりおろされ、そのままはがいじめにされて連行。目の前の警察による圧倒的な暴力にただただ打ちのめされ、泣きそうになった。そしてデモ隊が進んでいくと、いきなりサウンドトラックとデモ隊の間に機動隊が割り込んできて、わけもわからないうちにサウンドカーの窓ガラスを叩き割り、運転手をひきずりおろそうとする。抵抗する運転手と、ものすごい力でひっぱり続ける警察。数分後、運転手は車からひきずり降ろされ、あたりを数十人の警官が囲む形で連行されていった。追いかけていくと、なぜか叫びながら何度も体当たりされ、警察に何度も突き飛ばされた。

 デモが終わると、逮捕者は四人だったことが判明した。デモ終了後、みんなで逮捕された人が拘留されている札幌中央署に行って抗議した。

 と、今日の出来事を書きながらも、ただただ疲れ果てている。圧倒的な暴力。その前で、死ぬほどの無力さと、そして悔しさばかりが募る。

 ある新聞では、逮捕された理由は四人がデモ隊を扇動したなどと書いている。その新聞はまったく取材をしていないのだろう。現場にもいなかったのではないだろうか。いたら、そして目撃者の話を聞いていれば、こんな間違った記事は書けない。記者として猛省すべきだし、誤った情報を発信した責任をとってほしい。DJはそのとき、普通に座ってたはずだ。そしてもう一人は運転手。車の運転をしながらどうやってデモ隊を煽れるのだろう、みんなは車の後ろにいるのだ。他の二人も「煽る」とかそういう状態ではない、まったく。そして逮捕の瞬間に居合わせたマスコミ。嬉しそうな顔で「今連行されていきます!」とか興奮気味に伝えてる。「いい絵がとれた」のだろう、逮捕後はすっごい喜んでたマスコミの人もいた。あまりにも嬉しそうに伝えてるから、「マスコミだったら自分の目の前で起こった警察のめちゃくちゃなやり方をちゃんと伝えろよ!」と抗議すると、その怒った私の顔を撮り続ける。そうして「危険人物」として報道されるのだろう。

 今日の逮捕の瞬間が繰り返し報道され、「G8に反対する人は危険」なんてイメージが作られていく。

 今回のサミットには、北海道に二万人以上の警察が動員されているという。五日のデモの前日には「国際民衆連帯」のデモが行われ、そこには大阪府警が動員されていた。そして何もしてないデモ参加者に対し、「このヤクザ」「チンピラ野郎!」と罵声を浴びせ続ける。全国から警察が動員され、交通費や宿泊費などで一体どれくらいの予算が使われるのだろう。そしてそれくらい警察が来てるわけだから、「逮捕しないとメンツが立たない」のだろう。だって、「二万人警察が動員されたけど、デモ隊は全員法律を守って無事デモは終わりました」なんてことになったら警察のメンツは丸つぶれだ。どんだけ税金使って北海道旅行してるんだ?と突っ込まれて、役立たずと言われる。そんなことのために、少なくとも私が見た、まったく何もしてない二人は逮捕された。メンツのためなら、デモ隊の車の窓ガラスをたたき割り、無抵抗の人をはがいじめにして逮捕することができるのだ。目の前の現実に、言葉をなくした。

 明日、私はキャンプに行く。まだサミットは始まっていないのに、疲れ果てている。

 今回のデモや逮捕などについては、信用できる「G8メディアネットワークTV」で見てほしい。

 ああ、なんかもうため息ばかりだ。またひとつ、この世界が嫌いになった。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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