雨宮処凛がゆく!

 テントは買った。ブルーシートとかチャッカマンとか、キャンプ用のものはいろいろ用意した。あと数時間で、私の荷物を載せた車は私より一足先に北海道入りする。フェリーで。ということは、早くこの原稿を書き上げなければならない。まだ毛布とか非常食とか、積んでない! 早く書き上げろ、私!

 ということで、とうとうG8だ。地下鉄なんかでは「洞爺湖サミットにより」とかアナウンスが流れて、ものすごい数の警官が配備されている。

 そんな中、東京では6月29日に「貧困と環境破壊のG8」に対しての直前行動としてサウンドデモが行われ、私も行ってきた(当日のデモの映像はこちらで)。土砂降りの雨の中、集まったのは500人。海外から来た人たちも多く、無駄にテンションが上がる。外国人の人々のプラカードとかシュプレヒコールとかがやたら新鮮。ブッシュの写真に「WANTED」と書かれたプラカードとか、G8の8人の顔の骸骨パペットとか、なんかやたらとカッコいいのだ。G8に疑問を持ついろんな国の人たちと、新宿の街をサウンドデモする。街頭からデモ隊に加わる人たち。沿道から「ジーハチってなに? 」と訪ねてくる若い男の子。午後3時に出発したデモは、午後5時頃、解散。その後反貧困たすけあいネットワークのパーティーに15分だけ立ち寄って話し、その後は「自由と生存のメーデー」のアフターイベントへ。全国各地のメーデーの映像をみんなで観ながら話す。そこでもやはり、G8が話題になった。

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「地球に対する罪」で指名手配されるブッシュ。

 あと少しで始まるG8。いろいろな問題が繋がっていることは頭ではわかるけれど、ひりひりするような「実感」としては感じない。例えば95年の日経連の「新時代の日本的経営」(勝手に働く人を3つに分類して使い捨て労働力を増やした提言)を知った時には、ものすごい勢いでムカついた。そんな提言がなされた95年、私はまさに日経連が定めた「雇用柔軟型」のフリーターで、そんな背景があるともまったく知らず、やたらと自分を責めていたからだ。過労死しそうな友人とか、本当に過労自殺してしまった人の問題だとか、フリーター時代の寄る辺なさとかどうしようもない不安とか、いろんなことが一本の線で繋がった。

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顔パペット。無気味です。

 だけど、やっぱりG8についての疑問はそんな「実感に基づいた」ものとは少し、違う。でも、私は札幌でデモに参加し、キャンプにも行く。それは世界中でG8に抗議している人たちが、どんな問題意識に基づいて、どんな世界を求めているのかに興味があるからだ。G8への抗議行動のスローガンには「もうひとつの世界は可能だ」というものがある。そしてキャンプは、その「もうひとつの世界」を実現する試みの場でもあるという。みんなで米とか味噌とかを持ち寄って御飯を作る共同炊事。キャンプでは映画祭も行われる予定で、サッカー大会も開かれるそうだ。この間、キャンプ説明会に行ったのだが、そのサッカー大会、勝ち負けとか技術を競うのではなく、みんなでルールをきめるとこから始めるという。例えば、場合によってはボールがふたつとか、ゴールが3つとか。そんな話を聞くと、目からウロコというか、自分の脳がいかに凝り固まっているかに気づかされる。「もうひとつの世界」は、そういうところから作られていくのかもしれない、なんてワクワクする。そういう場に、居合わせたい。

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新宿に翻るゲバラ。

 「素人の乱」の松本哉さんは、いつも大騒ぎを起こす時、「革命後の世界を先に作るぞ!」とアジる。それで高円寺を解放区にしたり「家賃をタダにしろデモ」でいきなり神輿が登場してみんな馬鹿騒ぎになったりする時、本当にそこは「革命後の世界」になっている。 フリーター全般労働組合の機関紙「地球公論」08号には、こうあった。

 「秋葉原で事件が起きた。/人を轢くより工場の門を封鎖する方がリアリティがある。/人を刺すより仲間と会社を詰める方がリアリティがある。/そういう世界を少しでも広げたい。たとえば、ストライキの自由な夜をそこら中に出現させることで。仲間が奪われた自尊心といくらかの金を取り戻すのを手伝うことで」(トラックの使い方 清水直子)

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「反爺八」。一体何者? 素敵すぎる。

 そういう「やり方」があると知ることも、「もうひとつの世界」の入り口のような気がする。うまく言えないけど、転倒したリアリティを取り戻すことからしか始まらないことがある。例えば、「デモをやっても意味がない」なんてよく言われる。「意味」ってなんだろうか?
 もちろん、デモで具体的に何かが変わればそれに越したことはない。だけど、そういう「自由」や「手段」があると街頭でデモという形で表現すること、そのこと自体があまりにも意味がありすぎる。そしてそれを実際に知っていたり目撃していたり参加したりという経験は、時に転倒しそうなリアリティを取り戻すのに絶対に無駄ではないと思うのだ。

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「バイオ燃料でお金もうけしないで」と訴える
とうもろこし。

 現在、2ちゃんねるでは非正規労働者の全国一斉ストライキを計画している人たちがいるという。人を刺すより、自殺するより、非正規労働者全国一斉ストライキの方がリアリティがある世界。そっちの方が全然いい。そっちの世界の方がずっと生きやすい。私はそんな人たちを、勝手に心から応援したい。本当に、心から。

 さて、そろそろ荷物をまとめよう。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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