グリーン・ウイメンズ・ネットワークとのコラボ企画でお送りする《女性が動けば変わる!》シリーズは、「エネルギー×地域×食と農×女性」をキーワードに、「ジェンダー平等」実現のためのコンテンツをお送りしていきます。具体的には、自然エネルギー、食、農そして子育てなど命の問題に直結する現場などで、女性がリーダーシップをとり、活き活きと取り組んでいる具体的な事例を中心に紹介していく予定です。企画意図についてはこちら。
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今回は、「足元からの政治参加編」として、愛知県の女性グループ「るくぶ」代表の国府田さとみさんの活動を、インタビューで紹介します。選挙のときに、見て、聞いて、自分の意思で候補者を選ぶための会として発足したこの会は、「みる」「きく」「えらぶ」から1文字ずつ取って「るくぶ」と名付けられました。メンバーは30代~50代の女性12人(当時)。2013年夏の参議院選挙では、公開討論会(*)を主催しましたが、「主婦たちが公開討論会を開いた」と話題になり、地元のメディアにも取り上げられました。当時のことや現在の活動について、お聞きしました。
(*)公開討論会とは、選挙の前に、立候補予定者が一堂に会し、オープンの場で政策や問題意識を述べて、有権者からの質問に答え、ほかの候補者と意見を戦わせる場。有権者は、それを見て聞いて、投票の判断の一助にすることができる。日本では公職選挙法の関係で、告示後には行うことができない。
――2013年夏の参議院選挙の際に、国府田さんが知人たちに呼びかけて〈参議院選公開討論会を開く会「るくぶ」〉というグループを作り、実際に公開討論会を企画・開催されましたが、かなり盛況だったそうですね。
当日は7陣営の候補予定者が出席し、女性を中心に150人が集まりました。今回、初めて公開討論会がどんなものか知ったという人も多かったようです。子どもを連れて駆けつけてくれた人もいました。
――開催の準備は大変だったのではないでしょうか?
立候補予定者の事務所に電話をかけ、ちらしを作り、告知をする。事前の準備はほとんどが初めての作業で、手探り状態でした。でも、公開討論会の開催を支援するNGO「リンカーン・フォーラム」の後援を得ましたから、マニュアルを頼りになんとか自分たちだけで準備できました。私たちはごく普通の主婦の集まりということもあり、最初のうち、候補予定者は様子見をしているようでした。でも、女性が主催者だからこそ来てくれた候補予定者もいたようにも思えます。今回の公開討論会は「女性票」を多少は意識させることにもなったかもしれません。
――確かに、日本において女性票は、「サイレントマジョリティ」とも言われていますからね。そもそも「公開討論会」を開こうと思ったきっかけは、なんですか?
私の知っている人の中に、「選挙は主人に任せている」「夫に聞いて投票先を決める」と言う女性が少なくありませんでした。あるいは、候補者本人の政策や主張よりも、その政党が勝てそうかどうかで決めている、と言う人もいました。だけど、政治家を選ぶということは、本当は私たちの生活に密着している話ですよね。私自身の考えとしては、難しく考えるのではなく、シンプルに自分が望む社会を実現してくれる可能性がある人を選んで、政党はあとから「ここだったんだ」でいいと思いました。
いずれにしても、まず私たち自身が立候補者について、よく知ることが欠かせません。でも選挙期間中、候補者の政策を詳しく知ろうにも、街宣車は名前の連呼ばかりで、街頭演説ではよいことしか言わない。テレビの政見放送は時間が短すぎて、情報収集は簡単ではありません。それで、「公開討論会」を開こうと思ったのです。
――どのような質問を、候補予定者たちに投げかけたのですか?
これまで開催されていた公開討論会は、主催者も参加者も男性が多く、経済に関する質問が中心だったようです。どこか “男性目線”で、女性の聞きたいことではないように感じました。私たちは、教育や子育て支援、食の安全、エネルギー問題など、日々の生活にかかわりの深い問題を中心に質問しました。各候補予定者の回答は、○×形式にまとめてウェブサイトにアップしています。
――実際に開催してみて、手応えはいかがでしたか。
候補予定者が一堂に会することで、それぞれの人物像がよくわかりました。質問に対し、真摯に答える人か、漠然とした一般論に終始する人かが、すぐに見えてきます。参加した女性からは、「今まで政党名のイメージから投票を避けていた候補予定者が、意外と自分の意見に近かった」という声も聞こえました。今回の公開討論会が、自分の目で見て、耳で聞いて、ちゃんと候補者を選ぶきっかけになったんじゃないかな、と思っています。
――選挙が終わった後も、「るくぶ」の活動は継続しているのですね。
「るくぶ」は、もともとは、昨年の参院選の公開討論会のために立ち上げた会でした。しかし、「公開討論会」は手ごたえは感じたものの、選挙の結果自体は残念ながら私たちの声が届いたとは言い難いものでした。選挙で生活者の声を形にするには、日々の積み重ねが大切なんだとつくづく考えさせられました。そこで当初は長期的な組織としては考えていなかったのですが、今年の1月に改めて「るくぶ/見る・聞く・選ぶ~未来を育む女性のネットワーク」として発足させました。
最初のステップとして、女性たちが物事を考える「くせ」をつけて自分の意見を持つことが大切だと考え、今年から月1回のペースで「はぐくミーティング」を開いています。10人くらい参加するお話会で、自分の意見をアナウンスする場です。誰かから情報を聞くだけでなく、自分がどう考えたかを発する力を育みたくて、会に「はぐく」という名前を付けました。
――物事を深く理解するには、インプットだけでなくアウトプットも必要なのですね。具体的にどんな活動ですか。
第1回の講師には、国際環境NGOグリーンピースのプロジェクトのひとつである「グリーン・ウィメンズ・ネットワーク」の、金繁典子さんを招いて、ジェンダー問題に関する講演をお願いしました。
第2回目は映画『パンドラの約束』の鑑賞と感想を話し合う会を持ちました。この映画は、反原発運動をしていた人が原発推進側に変わるドキュメンタリー作品です。私は原発には反対ですが、自分が信じていることだって、もしかしたら違う見方があるかもしれない。反対側の意見もフラットに捉えたうえで、答えを選びたいのです。第3回は、「政治の中の女性を知ろう!」というタイトルで共産党愛知県支部原発ゼロ対策部長の、もとむら伸子さんを招いての勉強会。第4回は、「政治の中の女性を知ろう!第二弾」として、山尾しおりさん(前衆議院議員/愛知県民主党第7区総支部長)を招いての勉強会を予定。第5回目は、映画『カンタ! ティモール』の自主上映会を予定。その後は、来春の統一地方選に向けての公開討論会の実施へと活動を予定しています。
――そもそも国府田さんは、昔から政治や社会問題に関心があったのでしょうか? 「るくぶ」を立ち上げたのは、どんないきさつでしたか?
料理教室を主宰しているので、食の問題には以前より関心が高く、地元の生協の活動には関わっていましたが、やはりターニングポイントは、3・11です。福島第一原発事故は、私にとって、母性を傷つけられるような大きな出来事でした。人間が自分で直すことができないものに手をつけて、世界の頂点にいるかのようにふるまってきたおごりに、誰かから「いいかげんにしなさい」と叱られたような気持ちになったのです。
それで、あちこちで開催される脱原発のイベントに参加したのですが、最終的に目指すゴールは「原発がない社会」で一致しているのに、それぞれの主義主張で「自分たちが絶対正しい」と反目し合っている様子を目にすると、「う〜ん、ちょっとまって。そんなことやっている場合なの?」と言いたくなりました。もっとフラットに、生活者目線で原発問題を考えることが必要だと思いました。
――いろんな意見を出し合って、自分の目で吟味することが大事なわけですね。
そうなんです。原発をどうするかは、「どう生きるか」に直接つながる重大なテーマです。私は長く「食」の仕事に携わり、生活クラブ生協の組合員でもありました。「食」を考えることも、どう生きるかにつながります。3・11を機に、生活クラブ生協で立ち上げた「脱原発プロジェクト」に参加し、映画の上映会や、出前学習会「どこでもトーク」を開いてきました。メンバーは女性中心で、20人くらいです。「どこでもトーク」では、私たちがどんな本を読んで情報を得てきたか、原発をめぐる現状はどうかをシェアして、一緒に考えてきました。参加者は多くても20人ぐらいですが、どんなに少なくても開催します。個人宅や生活クラブの会議室に出向いて、お話ししています。
――「るくぶ」や生活クラブ生協のプロジェクトを続けてきて、自分や周囲に変化は感じられますか?
はぐくミーティングに参加した学生さんは「(原発について)混乱していたけれど、考えが整理されました」と言っていました。ほかに、私のお料理教室の生徒さんで、「るくぶ」やはぐくミーティングに参加している女性を見ていると、やはり変わったなあと思うことがあります。以前は、「政治のこと=よくわからない」で済ませていた様子もありましたが、今はしっかり考えて、自分の言葉で話すようになりました。30~40代くらいの子育て世代は伸びしろがあるように感じますね。
――今後、もっと女性の意見を取り入れる社会にするには、なにが必要だと思いますか?
男女それぞれ、得意分野を生かしていくことではないでしょうか。女性が得意とするコミュニティ作りを、どんどん広げて行って欲しいですね。「るくぶ」は女性を中心としたグループですが、間違えてはいけないのは、女性が正しくて男性が悪いわけではないということです。確かに、今の社会は男性優位ですが、それは女性が政治について発言してこなかったせいでもあります。女性も、自分の意見に責任を持つことで初めて、男女が歩み寄ってたどり着く中心点が見えてくるはずです。
――女性が政治について関心を持ち、女性たちが社会問題や政治問題について発言することで、政治家たちは「女性票」が、何を求めているのか? を察知し、それを公約に入れるようになると思います。それも有効な「世の中を変える」方法の一つではないでしょうか?
私たちが目指すのは、どういう社会がいいのか、みんなで考え、自分たちで選び決めることのできる環境です。そのために、「るくぶ」や生活クラブ生協の活動が、一石を投じることになればいいな、と思っています。来年は、愛知県知事選がありますから、また公開討論会を開きたいですね。
――「女性票」を可視化する一つの有効な方法が、女性グループ主催で女性が質問する、「公開討論会」かもしれませんね。期待しています。
国府田さとみ(こうだ・さとみ)
ケ・アロハクッキング主宰、「るくぶの会」代表。1963年生まれ。名古屋市内の中華、イタリアン、フレンチの有名店で料理を学ぶ。ニューヨーク大学留学中、さまざまな国の料理に触れ、多くのインスピレーションを受ける。2001年より自宅にて料理教室「ケ・アロハクッキング」を開き、ミックスカルチャーな創作料理を中心にレクチャーしている。
国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、
「女性たちのネットワークをつなげ広げることが、
原発など環境問題の解決への大きなパワーとなる」とし、
「グリーン・ウイメンズ・ネットワーク」をスタートさせました。
<今はしっかり考えて、自分の言葉で話すようになりました。>
素晴らしい取り組みですね!
男も新聞やTVの論説そのままを自分の意見のように言ったり、大物政治家や財界人が言っている事をそのまま言うのでは無く、「自分の言葉」で話したいものです。
自分の言葉で書けたか自信ありませんが、パブコメ書きました。→「パブコメ出そう、川内原発とまるほど」
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/blog/49903/