鈴木邦男の愛国問答

 月に1冊も本を読まない大学生が4割以上もいる。そんなショッキングなアンケート結果が出ていた。本を読まないで、スマホなどから「情報」を得るのだという。そういえば電車の中でも、大学生に限らず大人も本を読んでない。皆、スマホか携帯を見ている。それにしても、こんなに本を読まない大学生が多いとは驚きだ。大学生の仕事は「本を読むこと」ではないのか。本を読まない大学生など、やめさせてしまえ。と思ってしまう。
 こりゃ、世も末だと思っていたら、もう一つ、ショッキングなアンケート結果が発表されていた。「産経新聞」(4月4日)を見て、ビックリした。〈男の子「警察官」、女の子「芸能人」〉と出ていた。「過去最高」だという。「新小学1年生、なりたい職業」だ。
 〈クラレは3日、小学校に今春入学する新1年生に就きたい職業を尋ねたアンケートの結果を発表した。男の子は「警察官」が10.9%、女の子は「芸能人・タレント・歌手」が13.1%と、ともに過去最高の回答比率で2位となった〉
 過去最高というから両方とも1位かと思ったら、2位なんだ。2位ではあるが、急成長でその伸び率が「過去最高」だ。2位ではあるが、これは驚きだ。ということらしい。僕もこの記事には驚いた。2位でも3位でも、ともかく上位に「警察官」が来たことだけでショックだった。昔、学生運動が盛んだった時なら、警察官は「権力の犬」と馬鹿にされ、大学生にとっては最低・最悪の職業だったはずだ。小学生だって、アンケートをしたら、「なりたくない職業」のトップだっただろう。かわりに「なりたい職業」は「革命家」「活動家」だったりして。これはないか。たぶん、クラレは毎年のアンケートを持ってるのだろう。ぜひ公表してほしい。〈日本の100年。子供の「就きたい職業」の移り変わり〉だ。何なら、マガ9がクラレを訪ねて、聞いてきてほしい。産経に載ったこの調査はどうやって行われたのか。産経の記事には、こう出ていた。
 〈調査はクラレの素材を使ったランドセルの購入者に実施。4000通の回答を集計した〉
 だったら、いっそのこと、小学1年生全員に実施したらいい。この調査結果に気をよくして文科省がやるかもしれない。「ほら見ろ。自民党政権を支持し、この国の治安を守ることに命をかけたいと言う小学生がこんなにいるんだ!」と、「愛国心教育」にもなる。
 クラレの調査結果に戻るが、男の子が「警察官」、女の子が「芸能人」が過去最高だ、急上昇だ。でも2位だ。じゃ、1位は何なんだろう、と思ってみたら…。
 〈1位は、男の子が「スポーツ選手」で22.6%、女の子が「パン・ケーキ・菓子店員」で29.0%だった。ともに調査を開始した平成11年以来、16年連続で1位となった〉
 1位は昔から変わらないんだ。2位だけが急に増えたんで騒いでいるんだ。ここでは、調査を開始したのが平成11年と出ている。じゃ、その前の記録はないのか。いや、あるはずだ。本当はあるんだが、どこかの政治団体や市民運動に利用されたら困ると思って、やってないと言ってるのかもしれない。
 でも、世論調査もアンケート調査も、いろんな人々に利用される。「警察官」になりたい男の子が「過去最高」だが、これをどう読むべきか。皆、自分なりに考え、判断する。「子供の目から見るとお巡りさんは格好よく見えるのかな」とか。「子供も安定を求めているのか」「制服の魅力だろう」「ピストルをいじりたいのだろう」…と。僕なんかは、ひねくれてるから、こう邪推した。「これは権力の謀略だ。テレビを使って、体制的な人間を作っているんだ」…と。
 まあ、少しは本気もある。だって、テレビでは刑事ドラマばっかりじゃないか。ドラマといえば、ほとんどが刑事ドラマだ。あとは、お笑いタレントのバラエティばかりだ。真面目に仕事をし、闘っているのは警察官しかいない。子供はそう思っちゃうだろう。でも調査を実施したクラレでは、そんなことは言わない。「刑事ドラマを使って国民を洗脳しようとしている」「小学生から“右傾化”が始まっている」…などとは言わない。客観的に、こう分析している。
 〈広報担当者は男の子の警察官人気について「東日本大震災などで人の役に立ちたいという気持ちが高まったのではないか」と指摘。女の子はAKB48などのアイドルグループの活躍が影響したとみている〉
 たしかに大震災の影響はあっただろう。それなら、むしろ「自衛官」が増えていい。でも自衛官は「就きたい職業」に入ってない。10位にも入ってない。小学1年生だから、日本に自衛隊があることを知らないのか(僕も知らなかった)。あるいは、素直に日本国憲法を信じているから、自衛隊の存在など思いつかないのか。あるいは、「政治的判断」「政治的利用」になるからと思って、クラレが取ったのか。取ったといっても、「自衛官」と書いた子供のアンケートを外したわけではない。このアンケートは、もしかしたら、「記述式」ではなく、書かれている選択肢の中から○をつけるものだったのかもしれない。だったら、はじめから「自衛官」や「革命家」は入ってないだろう。
 でも、どっちにしろ「警察官」になりたい子供が急増したのは事実のようだ。だが、不思議だ。新聞を見ると、警察官の不祥事が目につく。袴田事件でも、無実の人を逮捕し、証拠を捏造した。ストーカーの相談をされたのに何もしないで、殺されてしまった。そんな事件が多い。警察は頼りにならない、何をしてるんだ、という声が多くあがっている。そんな中でも、子供が「正義の為に戦おう」と思ったら、警察官しかないのか。寂しい話だ。
 いやいや、だからこそ、テレビ局と手を組んで、刑事ドラマを増やして、「洗脳」しているのかもしれない。そういう僕だって、「相棒」は全部見てるし、上野松坂屋でやってる「相棒展」も見に行っちゃった。
 最後にお知らせです。4月14日(月)、阿佐ヶ谷ロフトに出ます。最近書いた僕の本、『連合赤軍は新選組だ!』(彩流社)の出版記念トークイベントです。当日は、連合赤軍事件を描いた映画『光の雨』の上映と、監督の高橋伴明さんとのトークもあります。又、連合赤軍事件に参加した植垣康博さんたちも登場します。午後6時45分から『光の雨』の上映。8時半からトークです。途中からでも入れます。考えてみたら、この事件からかもしれません。「悪い人たち」と闘う警察官のイメージが急に大きくなったのは。人質をとって「あさま山荘」に立てこもる凶悪な過激派。彼らの銃で警察官は何人も殺されます。でも、じっと耐えます。そして、突入。犯人を逮捕します。人質も救助しました。この後、犯人たちの「恐ろしい犯罪」が次々と暴露されます。あさま山荘に立てこもる前に、何と、仲間うちで殺し合いをして、死体を埋めていたのです。この1972年の事件以降、革命家、左翼はただの「悪」になりました。警察官は「正義」になりました。そして今では子供の就きたい職業になったのです。

 

  

※コメントは承認制です。
第148回 男の子の憧れの職業が「警察官」!」 に8件のコメント

  1. magazine9 より:

    たしかにけっこう世相を反映している気はする「子供の就きたい職業」。調査によってかなり違いはあるようなので、「警察官になりたい」子供が本当のところどれほど増えてるのかはわかりませんが、興味深い結果ではあります(たしかに、警察官の不祥事はよく報道されてるし)。さて皆さんは、そして鈴木さんは、子供のころ何になりたかったのでしょう?

  2. ひとみ より:

    非常に不快な記事です。不祥事を起こす警察官と、まじめに市民の安全を守るために日夜がんばっている警察官と、どちらが多いとお考えなのでしょう。
    ひねくれた考え方しかできない大人たちより、子どもたちの方が物事の本質を見抜いていると思いました。

  3. ピースメーカー より:

    >たぶん、クラレは毎年のアンケートを持ってるのだろう。ぜひ公表してほしい。

    フツ~に公表しておりますが……(汗)
    http://www.kuraray.co.jp/enquete/occupation/2013/
    これによりますと、2001年から2013年まで、警察官は人気ランキング2位~5位を保っていることがわかります。
    ところで、ネットで調べればすぐに出てくるこのような情報を、鈴木邦男さんはなぜ見落されているのでしょうか?
    先にコメントされたひとみさんがおっしゃるように、読む人をカチンとさせる記事や発言が鈴木さんには最近多いと思いますが、同時に記事や発言に心の余裕が失われていて、視野狭窄に陥っているように感じられます。
    第一、将来就きたい職業の3位にTV・アニメキャラクターと答えるようなメンタリティの小学1年生の男の子が「洗脳」されているとユーモア0で「邪推」しても、そんな発言を聞かされる立場の人々の方が「痛く」てたまりません。
    鈴木さんにとって、前後不覚になるほど今の安倍政権がそんなに恐ろしいのでしょうか?
    鈴木さんがマガジン9で連載を開始された当初は、もっと文章に余裕と艶とユーモアがあったように思えます。
    鈴木さんはご自身が昔書かれた文章を読み返され、ご自身のスタイルを問い直された方がよいと諫言します。

  4. うまれつきおうな より:

    <警察官=正義>と同じくらい<警察官=悪>はムチャクチャな見方ではないですか。学生運動をひきあいに出して「権力の犬」などと言っておられるが、当時の若い警察官は国家への忠節からではなく家庭の経済事情から高卒で警察に入った人が大半でしょう。(学費が安くても稼ぎを期待されていれば進学は無理です)これでは貧乏人差別です。確かに国家は横暴で恐ろしく警戒すべきものですが、だからといってそれ以外のものが国家と同じふるまいをしないというわけではないでしょう。関東大震災の時や、ネットやメディアでの勝手な正義で行われるリンチ、学校や職場でのひどいイジメを見れば、(抵抗できなければ権力の大きさは関係ない)現代の警察官のほうがまがりなりにも法に基づいているだけマシに見えたとしても不思議はないと思います。確かに望ましいことではないですが警察官をおとしめて解決する話ではないのではないでしょうか。

  5. 多賀恭一 より:

    警察官の不祥事は30年前より確実に減っていると思うが・・・。
    それより、民間企業の労働条件の悪化こそ、追求すべきだと思う。
    特に消費税増税は、最大の労働人口を抱える零細企業に極めて厳しいため、
    失業率と労働条件の悪化を引き起こす。
    その結果としての警察官希望の増加だろうから、日本経済の未来を憂うべきだ。

  6. KR より:

    職革になることを夢想したことがあります。まわりにも同じような夢(使命感)を持つ若者がかなりいました。
    さすがに小学生のころには、革命家になりたいとは思いませんでしたが。警察官もありかなと思った事があったかもしれません。勧善懲悪の思想が、マンガ本に溢れていた時代の子供でしたからね。
    ただ、今の小学生はどうなんでしょうか。社会の秩序維持などという大人びた考えはないと思いますけどね。
    選別を本旨とする学校教育のなかで、いろいろなことにぶつかり、そして守るべき社会のありようにも気が付くでしょうから。

  7. 松蔵 より:

    誤認逮捕で一時的に留置所に入れられた友人の世話をしたことが有り、弁護士さんの話などからも、警察にも裏の顔と表の顔が有るということを知りました。

    また、その友人の弟さんが昔駅前のビルに事務所を置くようなわりと大きな右翼グループに属していたそうで、「家賃が大変だろうね。」と言うと、「知ってる?右翼の資金源は警察だということ。」と小声で教えてくれた時には、益々警察のイメージが複雑に。

    反原発デモでいつも見張っているのも、権力のやることに反対するのは犯罪者扱いみたいで嫌ですよね。
    犯罪者は東電や政府なのにあっちを守るのかと。正義で動いてないのが見え見え。
    ヘイトデモのガードなどの仕事も、そりゃ必用なのでしょうけれど、人権侵害を煽っている人間達を守っているように見えますし。
    更に最近知ったのは関東大震災の際にデマを言って朝鮮人の虐殺を煽った首謀者は官憲だったということ。
    慰安婦を集めることにも加担している。そうした体質が一掃されているなら良いけど、なんだか繋がるな~。と、
    納得してしまいました。

    でも、現場の警官達は複雑な思いでやってるはず・・・と思いたい。
    ただ、市民の安全の為に一生懸命働く方が殆ど(特に交番のお巡りさんは)だとは思いますが、裏の顔も有り、いつそれが自分に牙を剥くか解らない怖さも有るのだなと思います。

  8. 松蔵 より:

    本日、通勤途中で通った交番前の掲示板に「正義を仕事にする!」とのコピーのポスターが貼られているのを見つけました。
    なんだか萎えてしまいましたよ。子供はこういったストレートな表現にすぐ騙されますから。

    いや、交番のお巡りさん達は騙されたままの子供のような純粋な人達なのかもしれません。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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