今週の「マガジン9」

 先日、『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)という、アメリカのビジネススクールの教授が書いた本を読みました。世の中の人を3つのタイプ、ギバー(与える人)、テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)、マッチャー(損得のバランスを考える人)に分けるとすれば、いちばん得るものの多いのはギバーであることを論じたものです。
 こういう考えは、日本の経営者の多くに違和感はなく、特段新しいものではないでしょう。ただ、昨今の日本の経済界ではテイカーやマッチャーが増えているように見受けられ、そもそも弱肉強食の風潮を日本のビジネス界に広めたアメリカで、こういう本が売れているのはいいことだと思いました。
 著者は「ギバー」にも2つのタイプがあるとして、自分の思いや欲求を抑え込んで、すべてを相手に捧げてしまうような「自己犠牲」型と、相手の立場に立って考え行動する「他者志向」型があるとして、成功するのは後者だと言います。自分のプライドとか、財産とか、人間関係のしがらみなどを捨てると見えてくるものがある――そんな風にも解釈できる指摘でした。
 私には「自分一人の想像力なんて限られている」という意識が常にあります。だから、他人の考えや感じ方、あるいは人生を知りたい。若いころの私は、「なんだか暇だなあ。面白いことねえかなあ」と退屈をもてあますことがありました。でも、そう思っている間は、面白いことは現れないのです。むしろ退屈だと思っている「自分」を捨てて、「他者志向」になってみると、面白いことは(自分で探さなくても)向こうからやってくる。
 ギバーの、一見損をするような行為が、巡り巡ってリターンとなる。これはビジネスに限ったことではなく、国同士の付き合いにも当てはまるのではないでしょうか。いわば「他国志向」型。相手国の立場に立つなんていうと、「弱腰外交だ」などと非難を浴びるかもしれませんが、長いスパンで見れば、テイカーやマッチャーによる交渉よりも、得るものが大きいこともある。
 そもそも「自分」にこだわらない思考は、仏教に慣れ親しんだ私たち日本人には受入やすい。「俺は損ばっかりしている」と日々フラストレーションを溜めている方にも、『GIVE&TAKE』はお勧めです。

(芳地隆之)

 

  

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