雨宮処凛がゆく!

karin070912_1

9月9日、渋谷ブックファーストで初めてのサイン会。
誰も来なかったらどうしようと緊張しましたが、
たくさんの方に来て頂き、感激でした!

611ZEARCBVL

雨宮処凛の「オールニートニッポン」

(祥伝社新書 86)¥ 798 (税込)
※アマゾンにリンクしています。

  9月7日は作家・見沢知廉氏の三回忌だった。見沢さんについてはこの連載の19回目の「『人生を変えた言葉』と高遠さん」で書いたのでそちらを参照して欲しい。当日、中目黒で行われた三回忌に出席した後、「劇団再生」による「天皇ごっこ 母と息子の囚人狂時代」という演劇を見た。見沢さんの生涯が、そして小説が演劇になったのだ。
 演劇前の追悼の会で、見沢さんのお母さんが「この舞台に見沢は来ると思います。これから見沢に会えるのが楽しみです」と語った。演劇のチラシには「獄中の彼が『見沢知廉』を裁く 執筆をする彼が『見沢知廉』を描く 右翼活動をする彼が『見沢知廉』をアジる」とある。三人の見沢知廉が登場し、舞台は進められていくという。そこに見沢知廉が復活する。2年前のこの日、彼はマンション8階からダイヴした。
 

 演劇を見ている間中、何度も苦しくなった。舞台の片隅に再現された見沢さんの本に埋もれた部屋。天皇恩赦に取り付かれ、恩赦がないと知ると暴走を始める意識。獄中でのハンスト。法務大臣に書かれた「天誅を下す」という手紙。「革命」。「ここから出せ! 」という叫び。獄中で膨大な量の小説を書き続け、それを清書して新人賞に送り続けるお母さん。「死にたい」という見沢さんの手紙と、「死ぬなら死になさい!」というお母さんの手紙。それでもどこまでも見沢さんの面倒を見ると最後には言うお母さん。そして獄中受賞。「原稿用紙の上に咲いた小さな花」。出所。その後の作家生活。まるで本人が降臨したかのように、見沢さんの、みんなに言いたくても言えない本音が舞台上で吐露される。みんなに迷惑をかけている、みんなに恩返しをしなくては。最後の方はそればかり。全然そんなこと思う必要ないのに。気にすることないのに。そして舞台終盤、劇場に真っ赤な血しぶきが飛んだ。赤い羽毛が、客席を埋め尽くす。見沢さんの血しぶきは私たちの上に舞い落ちる。

karin070912_2

死刑囚の人の描いた絵。
(「償うとは何か」の交流会会場にて)

 あの日から2年。見沢さんは確かに舞台の上に「再生」した。
 その前日、森達也さんと一緒に出るイベントがあったのだが、そこではからずも見沢さんのことを話していた。テーマは「死刑」。イベントのタイトルは「償うとは何か」。今まで死刑は微妙に避けてきた分野だが、死刑囚の人を意識したきっかけは見沢さんだったことを思い出した。今から十年近く前、彼は永山則夫と文通していて、その手紙を見せてもらったことがあるのだ。地獄の12年を経験した彼は、常に獄中者のことを気にしていた。そして私が永山則夫の手紙を見せてもらってからすぐ、永山則夫の死刑が執行された。その時の見沢さんの怒りと落ち込みはよく覚えている。見沢さんの書いたものの中には、獄死した人を獄中で偶然目にするシーンがある。白い布をかぶせられて運ばれる遺体の上に載せられた手錠。獄死すると、遺体の上に手錠が置かれるという。死んでも罪から逃れられないということなのだろう。

 「償うとは何か」。森達也さんと話しながら、見沢さんの記憶ばかりがフラッシュバックした。
 人を殺した見沢さんは、12年の刑を満期で終えた。それは「償った」ことになるのだろうか? 当り前だが、どれほど重い罰を与えても、死刑にしたって死んだ人は戻らない。「償うとは何か」。見沢さんこそが、そのことを考えに考え抜いたのではないだろうか。そしてそのことと彼は、文学という形で必死に向き合おうとしていたことを知っている。苦しんでいたことも知っている。だけど、私は、そして彼の周りの多くの人も、そんな彼にかける言葉を見つけられなかったように思うのだ。「償うとは何か」というテーマで話して、初めて気づいた。私は「人を殺してしまった人に、なんて言っていいのかわからなかった」のだ。かけるべき言葉がどうしても見つからなかったのだ。だって、なんて言えばいいのだろう。

 あれほどの原罪を背負って「書く」という地平にたった一人、放り出されていた作家を、私は他に知らない。
 見沢さんが死んでから2年目を迎える日、舞台の上に再生した彼と、そんな対話をした。答えはもちろん、いまだに出ない。

※9月14日、午後7時よりロフトプラスワンにて「オールニートニッポンSUPER」を開催します。出演・月乃光司(こわれ者の祭典)、松本哉(素人の乱)、梶屋大輔(グッドウィルユニオン)、湯浅誠(もやい)、杉田俊介(フリーターズフリー)、今野晴貴(POSSE)、雨宮処凛ほか。詳細はこちら

※9月21日午後7時より、新宿紀伊国屋ホールで「生きさせろ! 集会」を開催します。出演は小熊英二(慶應大学教授)、松本哉(素人の乱)、大平正巳(フリーター労組)、河添誠(首都圏青年ユニオン)、関根秀一郎(派遣ユニオン)、池田一慶(ガテン系連帯)、今野晴貴(POSSE)、冨樫匡孝(もやい)、雨宮処凛。詳細はこちら。開演前の特別上映もあります!

karin070912_3

死刑囚の人の俳句。
(「償うとは何か」の交流会会場にて)<

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

最新10title : 雨宮処凛がゆく!

Featuring Top 10/277 of 雨宮処凛がゆく!

マガ9のコンテンツ

カテゴリー