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どーなってるの?!米軍再編:バックナンバーへ

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どうなってるの?!米軍再編その5

日米同盟の強化、自衛隊との一体化が進むと言われている「米軍再編」。
自衛隊の移転なども、それに合わせるような形で行われる計画があります。
それによって、自衛隊の機能は、どのように変化するのでしょうか?
また、現場の自衛隊はどのようにこれらのことを感じているのでしょうか?
前回に引き続き、半田さんに伺いました。

半田滋 半田滋(はんだ・しげる)1955年栃木生まれ。東京新聞編集局社会部勤務。1992年より現在にいたるまで防衛庁/防衛省の取材を担当。業界においても異例なほどの長期にわたり、自衛隊を見続けてきた。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど海外における自衛隊の活動も、現地にて豊富に取材。昨年、自衛隊の海外活動を描いた東京新聞紙上の連載「新防人考」で「第13回平和・協同ジャーナリスト基金大賞」を受賞。著書に『自衛隊VS北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊』(講談社+α新書)がある。

前回は米軍再編費用と日本側の負担について伺ってきました。今回は米軍再編により自衛隊はどう変わっていくのか、自衛隊の活動や現場を取材してきた目線で米軍再編の本質と現状を教えていただきたいと思います。もともと米軍再編は、米軍と自衛隊の一体化、自衛隊を米軍の軍事戦略に組み込むことが、第一の目的であるという言われ方もされていますが・・・。現状はどうなっているのでしょうか?

 日米のトップによる米軍再編の議論の際、互いに理念を確立しようと共通戦略目標を決めました。それによって、米軍再編は米軍が単に右から左に移動するというだけでなく、日米が連携し一体化することで世界平和に国際的に貢献していこうというスタンスになりました。具体的にはそれで米軍基地の中に自衛隊が一部入ることになったわけですが、何せ議論しているのが互いに背広組なので、軍の運用が分かっていない。計画が生煮えになっているのが現状です。
 例えば横田基地は日本の航空自衛隊の総司令部である航空総隊が移転することになっていますが、一方で横田基地には在日米軍司令部、在日米空軍司令部、第五空軍司令部の3つの司令部機能があります。では航空総隊はそのどこと連携するのかと考えると、第五空軍と思うわけですが、すっきり一致しないのです。というのは、航空総隊は空自の総本山で、いわば国そのもの。第五空軍は米空軍の下の太平洋空軍の指揮下にあり、いわば国があって、県があって、その下の町役場のようなもの。航空総隊の国と第五空軍の町役場ではどんな協力関係ができるのか、問題を残しますよね。日米一体化が大事だと言って、運用面でなくイメージを先行して進めているから、どのようにうまく機能させていくかは二の次、三の次になっているのです。

現場を見ていないボタンの掛け違いのような状況は、米陸軍の第一軍団前線司令部が来る座間に、陸上自衛隊の中央即応集団や対テロ特殊部隊が来るということも同じですか?

 同じでしょう。例えば座間に来る陸自の中央即応集団というのは役割としては海外活動が中心。師団・旅団のように国内の警備区を持っていません。一方、米陸軍の第一軍団の活動はアジア・太平洋地域の治安維持が任務です。つまり中央即応集団は師団・旅団と違って日本有事で主役にならない部隊なので、日本防衛も役割のひとつになっている第一軍団とは活動が合わない。第一軍団が日本以外のアジア太平洋に出て活動するなら議論の窓口も合うかもしれませんが、本来は日本防衛のためにいる第一軍団なのだから海外に出て役に立つというのはどうなのでしょうか。イメージ先行による日米一体化なので、実際の運用となるとまだまだ調整が必要です。ただ、両者が近くにいれば会話もするだろうし、気心も知れるので、米側からみれば、自衛隊に何ができて何ができないということもいずれ分かってくると思います。中央即応集団が海外活動ならば、外征軍である米陸軍の要求で、戦争の際に物資を運んだり、補給したりという動きもすばやくなる。つまりは自衛隊が米軍のようになるということです。

自衛隊が米軍の駒になる、ということでしょうか? それはものすごく危険なことですね。そうなった時は、アメリカ兵同様、自衛隊の戦死者がどんどん出るということですよね? また、憲法や法の縛りがあるので、海外で武力行使はできないけれど、アメリカの戦争に日本が計画段階から参加するということも、一部では言われていますが・・・。

 戦場には行かないけれど、日本国内の基地で、自衛隊が米軍の計画に参加する、という将来の可能性はあります。ただ日本がアメリカの戦争に参加できるというのは本来おかしいですよね。集団的自衛権の行使はできないわけですから。国連決議がないと自衛隊を出せないので、米軍が意図しているようにすばやく立ち上がれるとは思えません。

しかし、国連決議があっても、議会の承認を受けずに海外派遣できるようにする恒久法の制定には、非常に懸念を感じています。ところで、ミサイル防衛は日米一体化の象徴として組み込まれているのですか?

 ミサイル防衛については日米共同運用の拠点になる「共同統合運用調整所」(横田基地)でやろうということになっていますが、アメリカがやっているミサイル防衛システムがまだシステムとして完成していないので、今のところ連携できません。日米とも弾道ミサイルを迎撃するイージス艦搭載のSM3と地上発射型のPAC3という単体の武器は持っているのですが、それを宇宙にある早期警戒衛星とつなぐネットワーク機能ができていない。情報のやり取りは、やりましょう、ということになっていますが、ネットワークができないと日米が連携しようがない。まだそんな段階にあります。

そのように背広組同士の議論で決まった米軍再編や日米一体化への動きを自衛隊制服組はどう受け止めているのでしょうか?

 やれと言われればやるけど、そもそも本来は外征軍としての能力を持つ米軍と、国防のための自衛隊では武器も組織も役割も違うので、そこを一体化させるというのはどこか無理があると感じていると思います。例えれば異種格闘技のようなものです。プロレスをしようとアメリカがタッグを組む相手は日本のお相撲さんで、相撲は手が床に付いたら負けだから戦えないというのでは、そもそも試合がうまくいくのかという面が多々ありますよね。

なるほど。では最後に米軍再編について、半田さんが一番問題視していることは何でしょうか?

 やはり費用の面ですね。米軍再編は、抑止力の維持と基地負担の軽減という日本にとっても大切なことを表看板にしているけれど、結局はアメリカが日本を出先基地として、もしくは司令部機能の補完基地として便利に使うための仕掛けだと思います。そこに日本がお金を出して米軍の便利のために防衛費を使うというのは、ふんだんにお金があっても問題ですが、防衛費が抑制されている現状では自衛隊が自分の手足を食うことになる。自衛隊がやせ細ってしまって、例えば国内災害に対処できず、国際緊急援助隊としても活動できなくなってしまうのなら本末転倒です。日本の防衛費が米軍のための防衛費になるのではないかということを一番心配しています。
 実を言うなら・・・(その1)でも述べましたが、今でさえ自衛隊の活動費は困窮しています。来年度以降、年間4000億円ほどの米軍再編費が、日本の防衛費を圧迫していくことになるのなら、自衛隊として基本的な部分で、この武器は、この部隊は必要か?というところから切り込んでいかないと、この組織は、ほんとうに破綻してしまうのではないかと思っています。

大きな影響力を持ち続ける、米軍基地。
そしてアメリカの戦略に巻き込まれる自衛隊。
膨大な費用負担と基地のある住民たちの負担と引き換えに、
国は何を得ようとしているのでしょうか?
今もなお、納得のいく説明が何一つないですが、
引き続き、考えていきたいと思います。。

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