戻る<<

071114up

沖縄・やんばるの森でUAがうたう「東村高江 ヘリパット建設反対ライブ」

西村リユ

沖縄本島北部に広がる、豊かな亜熱帯の森林地域「やんばる」。
手つかずの貴重な自然が残るこの地で今、
新たな米軍施設の建設が進められようとしています。
地元・東村高江の住民たちが抗議の座り込み行動を続ける現場を、
人気ミュージシャンのUAが訪れ、ミニライブを行う。
そんな話を聞いて、高江へと足を運びました。

集落を取り囲む「ヘリパッド建設予定地」

北部訓練所は沖縄県最大の演習所であり、やんばるの森の大部分を占めている。米軍唯一のジャングル戦闘訓練センターもある。 今回の取材先は、そのゲートのすぐ近くにある、「東村高江」。

座り込みの受付テントのあるN−4ゲート前には、かけられた支援者手作りの看板。

24時間この工事用ゲートの前で座り込みを続けている。この日も降りしきる雨の中、30人ほどの人が座りつづけていた。

 那覇から北へ車で約3時間。沖縄本島北部の東岸側に位置する国頭郡東村・高江は、「やんばる(山原)」と呼ばれる豊かな森と青い海とに抱かれた、住民約150人が暮らす小さな集落だ。

 その中を走る幹線道路・70号線から東へ折れ、細い細い山道をさらに森の奥へとひた走る。静かな深い森に囲まれて佇むカフェ「山甌」を舞台に、10月31日、ミュージシャン・UAのライブが行われた。

 ヤンバルクイナなど絶滅寸前ともいわれる希少な動物が暮らし、その自然環境や生態系は世界的にも貴重だといわれるやんばるの森。しかし、実はそこには、沖縄県内最大の米軍事演習場である、アメリカ海兵隊基地の「北部訓練場」が設置されている。別名をジャングル戦闘訓練センター。1957年から使用が開始され、ベトナム戦争の際には基地内で枯れ葉剤の散布実験が行われていたとの報道もある場所だ。

 1996年、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)での合意により、この北部訓練場は、総面積の約半分が返還されることになった。そして、その際の「交換条件」となったのが、ヘリコプターの離着陸施設である「ヘリパッド(※)」を、新たに6カ所にわたって建設すること。普天間飛行場の「代替」として、名護市の辺野古沖に海上ヘリポートが建設されようとしているのと同じ構図である。  しかも、ヘリパッドの建設予定地は、民家や学校などがある高江の集落の周囲を、まるで取り囲むように位置しており、やんばるの豊かな自然が破壊されるだけではなく、人々の生活環境にも大きな影響があるだろうことは明らかだ。近くにはダムがあり、飲料水への影響も指摘されている。

 にもかかわらず、高江の住民たちにこの建設計画が政府や県から直接知らされることは、なかった。彼らは、新聞などの報道によって初めて、その計画がすでに「決定事項」となっていることを知ったのだという。

 工事開始が発表された今年の7月以来、建設に反対する住民たちは、工事用ゲート前での抗議の座り込みを24時間体制で続けてきた。それが功を奏し、現時点では工事の進行は一応、ストップした状態にあるそうだ。

 しかし、そうした状況がメディアで報道されることは、沖縄県外はもとより県内でさえ、それほど多くはないという。地元の人によれば、「那覇の人でも、高江ってどこ?くらいが一般的な反応」なのだ。恥ずかしながら私自身、辺野古での抗議運動の話は知っていても、「高江」の地名も北部訓練場の名称も、耳にしたのは今回が初めてだった。

 UAは今年の夏、知人に会うために初めてやんばるを訪問。その際に、高江の置かれた現状について知り、帰った後も地元の人たちと交流を続けてきたことが、今回のライブ開催につながったのだという。会場となったカフェ「山甌」オーナーの「現さん」こと安次嶺現達さんは、 “「ヘリパッドいらない」住民の会”の共同代表のひとりでもある。

※ヘリパッド…「ヘリコプター着陸帯」と説明されることが多いが、「ヘリポート」との違いは必ずしも明確ではない。沖縄大学学長の桜井国俊さんは、沖縄県環境影響評価条例施行規則で滑走路の長さが30メートル以上のヘリポートがアセスメントの対象となっていることに触れ、那覇防衛施設局が「(高江に建設されるのは)ヘリパッドであってヘリポートではないので法的にはアセスの対象にはならない」という「訳の分からない」主張をしていたことなどを指摘している。(参考:JANJAN記事

やんばるの森に歌声が響いた

巨大なヘゴの木で覆われた手作りのステージ。オゾンをたっぷりと含む、森の空気がおいしい。

 さて、当日。午後6時半のライブ開始を前に、うっそうと木々が生い茂る「山甌」の中庭に設けられた仮設ステージを、300人ほどの観客が取り囲んだ。周りには、食べ物や飲み物、雑貨を売る屋台がいくつも出され、ちょっとしたお祭りの雰囲気である。

 ライブに先駆けて、ステージ上のスクリーンで、ヘリパッド建設問題のこれまでの経緯をまとめたドキュメンタリー映像が流された。撮影者は、「マーティ」の愛称で親しまれる比嘉真人さん。東京出身だが、友人を訪ねて高江を訪れたときにこの問題を知り、地元に住み込んで撮影を続けているという。

 スクリーンには、住民と那覇防衛施設局(今年8月以降は沖縄防衛局に組織変更)員との工事ゲート前でのやりとりが生々しく映し出される。住民たちがじっと見つめる中、その視線を無視するようにゲートに「立ち入り禁止」の看板を掛けていく局員たち。住民のひとりが「これまで沖縄で、ヘリコプターが何度墜落しましたか?夜は飛行しないという約束は、これまでだって守られていましたか?」と詰め寄るけれど、局員はただうなずくばかりで返答しようとしない。その後ろには、「座り込みがあれば、警察に通報します」の看板。一切のコミュニケーションを拒絶するかのような光景に、うっすらと背筋が冷たくなった。

 そして、すさまじい音を立てながら飛行していくヘリコプターの映像。高江では現在でもすでに毎日のようにヘリの訓練飛行による爆音に悩まされていると聞いてはいたが、想像していた以上の低空飛行だ。さらに、今後はV−22、通称「オスプレイ」という新型ヘリの配備も決定されているのだが、これは開発段階から墜落事故が多発し、その安全性に疑問が投げかけられているシロモノなのだという。

あたりが暗闇に包まれた頃、UAが登場。2時間半を超すステージとなった。

 そして、すっかり陽が落ちて、あたりの森が灯り一つない闇に沈むころ、いよいよUAがステージに登場。客席に向かっての「めんそーれ!」の声が、その第一声となった。

 一曲目は、UAの母親の出身地だという奄美諸島に伝わる「古い古い歌」。そして、今年6月に発売されたばかりのアルバム「Golden green」からも何曲も。

 「今年の夏に、初めてやんばるに来ました。こんなに”水がきれい“と実感できる場所はほかにないと思ったし、子どもたちが川で遊んでいるその自然な姿に、癒されるというよりももっと、”治される”気がしたんです」と、高江との出合いを語るUA。もしかしたらマイクなんかいらないんじゃないだろうか、とさえ思える歌声が、ギターの音と絡み合いながら夜空と木々の間に溶けていく。

 どんとの名曲をカバーした「トンネルぬけて」や「波」では、地元ミュージシャンやフラの踊り手による「飛び入り」も。ゆったりと時間の流れるあったかいライブは、名曲「水色」、そしてふたたび奄美の歌で締めくくられた。

風雨の座り込み現場でミニライブ

今回の反対アピールライブを計画した、地元友人と握手をするUA。

地元メディアらで混み合うテントの中、UAは、とても気持よさそうにうたっていた。この声が、沖縄から世界へ届きますように。

東村・高江に家族と暮らす森岡さん。「自然な暮らしを求めてやってきたこの土地が、壊されていくことに、声をあげないわけにはいかない」

山甕のオーナー「現さん」もテントの中で即興ライブに参加。

 一夜明けて、翌日。UAが工事ゲート前で住民と一緒に座り込みに参加し、そこで再びミニライブを行うと聞き、その現場へと向かった。

 なんとか晴れてほしいという思いもむなしく、前日のライブ終了直後から降り始めた雨は、朝になって横なぐりの風と相まってさらに激しくなっている。それでも全部で4カ所ある座り込み現場のうちの一つ、「山甌」から数百メートル南にある「N-4ゲート」に到着するころには、ゲート前の仮設テントの中やその周りに、すでに数十人が集まっていた。

 テントの中に入っていても、風と一緒になって冷たい雨が吹き込んでくる。カメラやノートを濡れないように守るので精一杯で、「南国に来た」とはとても思えない肌寒さ。誰からともなく回ってきた熱いコーヒーが、じんわり身体に染み渡る美味しさだった。

 やがて姿を現したUAも、もちろん全身をすっぽりと覆うレインコート姿。この日は報道陣も多く、テントの片隅で急ごしらえの「記者会見」になった。

 今夏、UAは、東京・日比谷の野音で開かれた自身のライブに『六ヶ所村ラプソディ』の鎌仲ひとみ監督をゲストとして招き、ステージで環境や平和の問題について語ったと聞いている。高江の問題についても「夏に初めてここに来たときに、また行きたい、暮らしてみたいという気持ちになって。でも、ここへ来るのならヘリパットの問題と向き合うことは避けられない。そこで自分に何ができるかと考えたときに、私は歌手なので歌うしかない、と思ったんですね。今日のこういった(座り込みの)行動は、正直に言えば心からやりたいわけではないし怖いと思う部分もあるけれど、(自分が参加することで)ニュースにしたい」と話してくれた。

 また、「Golden Green」の中の1曲「黄金の緑」には、「直に沈んでしまうTUBALUという名前の島のことを考えて」という一節がある。その曲を書いたことがきっかけで、のちに実際にツバルを訪れる機会を得たUAは、まさに沈んでいこうとしている島の姿を目の当たりにした。それまで「完全にリアルに受け止めていたとはいえない」地球温暖化の問題が、「ただただ“自分”へと向かってくる」気がしたのは、そのときだったという。

 「高江のこの問題も、私にとっては実際に“見た”ことが大きな引き金になっています。でも、興味はあってもなかなか現地には行けなかったりする人もいるし、私は実際に“行けた”ひとりとして、自分のやれること、“伝える”ことをしていきたい。みんなに“こうしてほしい”と強く言えることはないけれど、このままだと、この土地も日本も、アメリカを含めた世界も、本当に取り返しのつかないことになってしまう。『Golden green』には、“船を繋ぐ”という意味の『Moor』というタイトルの曲がありますが、今、65億あまりの人が乗っている地球という船が、滝壺に落ちようとしているのに、人はそれに気づかず殺し合ったり、奪い合ったりしているんだと思います。そのことに気づいてほしいし、やんばるという“強い”土地は、そういうことを発信するのにも最適な場所なんじゃないかな、と思っています」

 テントの中での即興ライブは、前夜もステージに登場した、地元の人たちとの「共演」で行われた。山甌オーナーの「現さん」も、ギターを手に参加する。マイクも音響も何もない、演奏者の前に座った観客の背中が譜面台代わり。そんな手作りの、けれどこれ以上ないほど贅沢なライブに、参加者たちは吹き込む雨にびしょぬれになりながら聞き入った。

 長引く抗議運動とそこにかかる圧力に、さまざまな意見の行き違いや断絶も生まれているのが、東村、そして高江が置かれている現状だ。選挙では「ヘリパット反対」を明言していた現在の東村村長は、就任直後に突如受け入れ姿勢に転じた(補助金をめぐっての国からの圧力があったともいわれている)。

 集落内でも、「誰も対立は望まない。近所づきあいもあるし、はっきり反対とは言えないという人も多いんです」と住民のひとりが説明するとおり、現在座り込みに参加しているのは5~6家族のみ。「山甌」でのライブへの招待状は、それ以外の人たちにももちろん配られたが、やってきた人はいなかったという。

 高江の空に、ヘリの爆音ではなくてUAの歌声が再び響いて、それにすべての人が一緒に耳を傾けることができる日は、いつか来るだろうか。激しい雨の音と、それにかぶさって響き渡る歌声とを聞きながら、そんなことを考えた。

****************

 「(こういった問題は)最近始まったことでは決してないし、ものすごいものに向かってモノを言っているのかなと、正直すごく怖いです。でも、たとえ自分の生きてる間には何も変わらないとしても、1ミリでも2ミリでも、いい方向に行くことによって次につながっていくんだと思うので」。ライブの後、UAはそう話してくれた。

 1ミリでも2ミリでも。その「1ミリ」だともいえる、高江での座り込みは、今日、この瞬間も続いている。その状況、座り込み支援などについては、ブログ「やんばる東村高江の現状」で。

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条