今週の「マガジン9」

 南スーダンPKOに派遣されている自衛隊の任務に、来春にも「駆けつけ警護」が追加される見通し──との報道。現場の自衛隊員のリスクがさらに高まる、と懸念の声があがっています。

 この変化が、安保法制の成立を受けてのものであることはたしか。しかし一方で、PKOの現場を知る伊勢崎賢治さんは、そもそも駆けつけ警護以前に「現在のPKOに参加すること自体が、国際社会から見れば中立の立場ではなく『紛争当事国』になるということにほかならない」と指摘しています。

 現在、南スーダンPKOにおける最大のミッションは「住民保護」であり、その任務を果たすためには、自分たちが攻撃されていなくても住民が攻撃を受けていれば武力で反撃するしかない。しかも、結果として民間人の命を奪ってしまった場合、現在の日本の法体系では、それは自衛官個人の犯罪として刑法で裁くしかないのが現状だ、というのです(詳しくはこちらを)。

 安保法制成立に至る過程において、こうした現場の状況が国会で十分に議論され、一般に周知されてきたとは思えません。今月18日、安保法制成立の前夜に永田町の憲政記念館で開かれた「激論! 戦場のリアル」と題するイベントで、伊勢崎さんはこうも言っていました。

 「今後、PKOの現場で(自衛隊員が殺されるなどの)不都合があれば、政権はそれをすべて『9条のせい』にして、改憲に結びつけようとするでしょう。そうさせないために、私たちはもっと『戦争』に対するリテラシーを高める必要がある。戦争に反対するなら、そして安保法制が成立しても戦争をさせないようにしようとするなら、まずはその『戦争』の実態を知るべきです」

 「なんだか危なそうだから」という雰囲気だけの「反対」は、「自衛官の命を守るために9条改正は必要だ」というもっともらしい主張に、あっさりと流されてしまいかねない。いまの世界で起こっている「戦争」とはどういうものなのか。国会でつくられる法律によって海外に送り出される自衛隊が、どんな状況に置かれることになるのか。そうしたことを、私たちはもっとリアルに考える必要があるのかもしれません。

 この日、伊勢崎さんとともに登壇した元自衛官の井筒高雄さんは、こんな言葉でお話を締めくくりました。

 「自衛隊員の〈服務の宣誓〉には、〈国民の負託にこたえる〉との一文があります。自衛隊員の置かれた状況をしっかりと理解して、それでも今の形での海外派遣をよしとするのかどうか。それは安倍首相ではなく、私たち国民が決めることです」

 日本が、どんな国際貢献の形を目指すのか。そのために、自衛隊員にどんな「負託」をするのか。それは安保法制が、そして政権が今後どうなるのであっても、常に考え続けておくべきことなのだと思います。

(西村リユ)

 

  

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