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2013-01-16up

マガ9スポーツコラム

No.038

学校はフロントの役割を果たせ
―高校バスケットボール部体罰事件について―

 息子の所属する中学校のサッカー部で、部員が顧問教諭との約束を破ったペナルティとして数日間、部活動が休止されたことがあった。それを聞いた保護者の一人が「ならば『グラウンドを何週か走らせる』といったことを課してもらえないか」と言った。サッカー部を強化するためという、熱心な気持ちからの提案だったが、顧問教諭は「それでは体罰になってしまいます」と断ったという。サッカーの練習ができないことで、生徒にこのスポーツといま一度向き合ってほしいというのが顧問教諭の気持ちだった。

 ○○をしたから○○をやれ──こういう命令が「体罰」だと私も思う。大阪の市立高校でバスケットボール部の顧問教諭がキャプテンである生徒に恒常的に振るっていた行為は「暴力」と呼ぶべきではないか。「うまくプレーができない」、あるいは「気合が入っていない(ように見える)」はペナルティの対象ではないからである。

 指導者に度重なる暴力を受け、自殺した生徒は、その高校が設けた体育科の生徒だった。同校のバスケットボール部は、当該教諭が顧問に就任して以降、府内での実績を上げたというから、体育科で名声を上げ、生徒を集めるという学校の意向に合致したのだろう。ゆえに学校側は顧問教諭に指導のフリーハンドを与えてしまった。チームを勝利に導く顧問教諭の暴力に目をつむらざるをえなかった。スポーツが学校の宣伝に使われたことによって生じた事件ともいえる。

 体罰が精神論とセットで語られることは多い。

 かつて同志社大学、神戸製鋼、そして日本代表のラグビー選手として活躍し、代表監督も務めた平尾誠二氏が、「ラグビー選手に必要なものは何か?」と問われ、「根性です(笑)」と答えたという文章を読んだ記憶がある。その真意は「根性がなければ、前後半80分間、楕円形のボールの動きに集中することはできない」という平尾氏流の言い回しである。プレー中に指導者の目などを気にしていたら、根性=集中力=本当の意味での精神力は損なわれてしまうだろう。

 たとえば子供には、いままでうまくできなかったプレーが突然できる時がくる。練習を積んできた身体があるときそれを体得するのだ。しかし「それ」がいつくるかは誰も予測できない。指導者はそれを辛抱して待つしかない。ところが「自分の想像力など限られている」という自覚のない指導者は、自分の想定可能な枠に選手をはめ込もうとする。そして思惑通りに動かない選手には我慢がならなくなる。部活の強化を学校側から託された指導者は、自分の生活がかかっているから、なおさら目先の勝敗にこだわり、生徒の選手としての将来性は軽視されがちになるだろう。

 そうした指導者の暴走を止めるのは学校の責務だ。

 プロ野球選手を引退後、指導者経験なく監督に就任し、初年度にパリーグ優勝を果たした、北海道日本ハムファイターズの監督、栗山英樹氏は、朝日新聞(2012年12月29日)のインタビューで、

 「日本のプロ野球では、監督に与えられる権限というものはものすごく大きいですよね。だから、間違いが起こるんです」と語っている。監督が代われば強化方針もがらりと変わってしまうようでは、チームの中長期ビジョンも立てられないからだ。そして栗山氏はこう続ける。

 「監督の権限を奪うんです。新人獲得やトレード、育成システムなどに関してフロントが権限を持ち、ビジョンを描いて前に進める。大リーグは役割分担がはっきりしている。チームをつくるのはフロントの作業。監督の仕事は与えられた戦力で勝つこと。逆に言えば、成績不振の責任はフロントが取るべきケースもある」

 この文章の「監督」を「顧問教諭」に、「フロント」を「学校」に置き換えてみたらどうだろう?

 私は、学校の部活動はあくまで本業(学業)以外の課外活動と位置づけて、本格的なスポーツは地域のクラブで行うべきだと思っているが、日本ではまだ地域クラブの文化は浸透しておらず、子供をクラブに通わせる保護者の金銭的・物理的負担も少なくない。それゆえスポーツが学校の部活動中心にならざるをえないのは承知している。

 ならば体育科、あるいはスポーツ推薦入学制度を導入する学校には、それなりの覚悟をもってほしい。学校=フロントにスポーツ指導の確固たる理念とそのためのマネージメント能力がなければ、スポーツに特化する制度は導入すべきでないと思うのである。

 コートやグラウンドが指導者のための治外法権の場と化してしまうなど、スポーツにとっても、教育にとっても極めて不幸なことだ。

(芳地隆之)

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