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2010-09-15up

マガ9スポーツコラム

No.027

2019年ラグビーW杯日本開催に向けて

 9月3日、日本ラグビーの最高峰であるジャパンラグビートップリーグの開幕戦に先立ち、秩父宮ラグビー場で日本ラグビーフットボール協会(JRFU)主催のレセプションが行われた。JRFU会長・森喜朗氏の挨拶の後、日本代表監督、ジョン・カーワン氏がマイクを握り、こう切り出した。

 「いまから20年前、日本人のベースボールプレーヤーが大リーグで活躍することを予想できただろうか?」

 すなわち世界のラグビー界で日本人選手が活躍することも不可能ではない。そうカーワン氏は言いたかったのである。子供の頃からニュージーランドのナショナルチーム「オールブラックス」の一員になることを目指し、それを実現した彼は「夢から現実への道筋をつけることの大切さ」を強調した。

 来年ニュージーランドで開催されるラグビー・ワールドカップ(W杯)で、一次リーグAグループに属する日本は、ニュージーランド、フランス、トンガ、カナダと対戦する。同グループで2位までに入れば、決勝トーナメントへ進出できるが、強豪国ぞろいのグループを勝ち抜くのは難しいだろう。しかし、JRFUは、2019年に日本で開催されるW杯でベスト4を目指している。

 開幕戦はリーグ3連覇をめざす東芝ブレイブルーパスと前シーズン準優勝の三洋電機ワイルドナイツの試合だった。結果は、ワイルドナイツのスリークォーターバック、田邉淳選手が4つのペナルティキックをすべてゴールにつなげて、ワイルドナイツが12対7でブレイブルーパスに勝った。開幕戦の緊張感や夜になっても30度近い暑さのせいか、小さなミスが目立ったが、激しい肉弾戦は迫力があった。

 1995年ラグビーW杯南アフリカ大会で南アチームが優勝するまでを描いた映画『インビクタス』で、ネルソン・マンデラ大統領を警護することになった白人SPが黒人SPに、ラグビーについて説明するシーンがある。

 紳士が野蛮人のようにふるまうスポーツがラグビー、野蛮人が紳士のようにふるまうスポーツがサッカー――。

 南アでポピュラーなスポーツは、白人ならラグビー、黒人ならサッカーだ。白人SPのセリフには黒人への差別意識も見え隠れするが、私は久しぶりの秩父宮ラグビー場で「ラグビーが紳士のスポーツであること」を改めて実感した。

 Jリーグのスタジアムのような派手な鳴り物の応援はない。サポーターが応援歌を歌い続けることもなければ、相手プレーヤーや審判のジャッジに対するブーイングも稀だ。観客はじっと戦況を見つめ、味方のチャンスになると一気にボルテージを上げる。そのメリハリは心地よかった。一方、スタジアムに家族連れの少ないことが気になった。

 ラグビーはサッカーに比べるとルールが複雑である。ラグビー部をもつ学校も限られているので、子供たちにとっては馴染みの薄いスポーツだろう。それに加えて、トップリーグの試合はどうしても企業間の戦いに見えてしまう。ブレイブルーパス対ワイルドナイツというよりも、東芝対三洋電気という印象が強いのである。そのため観客が目の肥えたファンに限定されているように思えた。

 プロスポーツチームが複数のスポンサーから運営費を募る難しさは承知している。大企業が所有していた方が選手も安心してプレーに集中できるだろう。しかし、たとえばJリーグの浦和レッズが筆頭株主の名前を冠して「三菱自動車レッドダイヤモンズ」を名乗っていたら、はたしてサポーターはスタジアムで「ウィーアーレッズ!」と連呼できただろうかとも自問せざるをえない。

 2019年のラグビーW杯日本大会で日本がベスト4を目指すのであれば、ラグビーをより広い層に浸透させ、多くの観客をトップリーグへと足を運んでもらう工夫が必要だろう。黒人や白人の区別なく、「南ア国民」の目をラグビーW杯に向けさせたネルソン・マンデラのような人物に、日本ラグビーフットボール協会のトップを務めてもらいたいというのは無いものねだりだとしても。

(芳地隆之)

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