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マガ9スポーツコラム No.017

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  みんなが大好きなスポーツ!「マガ9」スタッフだってそうです。
だから時々、メディアで報じられているスポーツネタのあれこれに、
突っ込みを入れたくなったり、持論を展開したくなったり・・・。
ということで、「マガ9スポーツコラム」を不定期連載でお届けします。

箱根駅伝・人気の秘密

 今年の箱根駅伝は東洋大学の2連覇で幕を閉じた。前年同様、山登り5区での柏原竜二選手の快走が強く印象づけられた大会だった。

 私はこれまで箱根駅伝にさほど関心がなかった。2日間にわたる時間の長さ、たすきを渡した選手がしばしばその場で倒れこんでしまう悲壮感、そして国際大会のないドメスティックな競技といったところが主な理由なのだが、駅伝が注目されるのは、むしろそうしたことにあるらしい。

 スポーツライターの生島淳氏は、週刊『エコノミスト』誌(2010年1月5日号)に寄稿した「大学全入時代がもたらした箱根駅伝の『経済戦争』」で、往復で12時間もテレビ中継がある長丁場は、参加校にとって大きな宣伝効果をもつことを指摘している。そして「箱根駅伝の結果が、大学受験料収入に密接につながっている」というのである。

 大学入試の出願は、箱根駅伝の余韻覚めやらぬ1月10日頃から始まる。昨年優勝した東洋大学は、入試志願者数が前年比で1万200人も増加した。1人あたりの受験料を仮に2万円としても、2億円以上の増収である。生島氏は「東洋大学のケースはまさに、箱根での学生の走りが大学経営に直結していることを物語っている」と書く。

 駅伝弱小大学が箱根駅伝の出場権を獲得するまでを描く三浦しをんの小説を映画化した『風が強く吹いている』が昨年秋に公開された。友情、涙、根性など、駅伝には物語の要素が詰まっている。

 箱根駅伝でふらふらになりながら走る選手の姿を見ることがある。朦朧とした意識のなかでも「たすきを次走者に」との気持ちだけは消えないのだろう。走るのを止めさせようとコーチが近づくと、彼は千鳥足でコーチから離れようとする。その姿を見て、ゴールを目指す選手の気持ちに心を動かされるか、早くやめさせてくれと懇願したくなるか。人によって分かれるところだが、サイドストーリーが生まれやすい団体競技だ。

 いまや「正月の風物詩」となった箱根駅伝。しかし、この競技がオリンピック公式種目として、認知されるかを考えると私には疑問だ。日本での人気――長丁場であることやドラマ性の高さに加えて、駅伝人気を支えているもうひとつの要素=母校愛が、逆にネックになると思うのである。

 私の知人は「○○大学駅伝を勝たせる会」のメンバーとして、毎年、箱根のホテルを予約して、仲間ととともに沿道に立ち、後輩に声援を送っている。現場に行かなくとも、正月は「駅伝の応援」と決めている人も多い。彼(女)らの多くは普段あまりスポーツを見ない人たちだ。駅伝に熱を上げるのは、この競技が母校に対する誇りを満たしてくれるからではないかと私には思える。

 駅伝を重視する大学は、授業料の免除や栄養費の支給などの制度で走力の優れた高校生の獲得を目指している。「夏の風物詩」といわれる全国高校野球でも、学校の知名度を上げるには甲子園出場と、優れた中学生を学費免除などの特典を与えて入学させる特待生制度が問題とされているが、学校とは本来、勉強をする場である。スポーツなどの課外活動は有志の集まりに過ぎない。ところが日本では、「文武両道」という言葉があるように、スポーツが人間形成のための教育手段とみなされてきた。そしていま、「文武両道」は、知名度を上げるための学校経営によって形骸化されている。

 高校時代からアメリカンフットボールで活躍し、大学も、就職も、アメフト推薦で決めた知人がいる。彼は実業団時代にけがをして引退を余儀なくされた後、会社にいづらくなり、辞めてしまった。

 先日、全国高校サッカー選手権の決勝を見て、若い彼らの素晴らしい技術に魅了された。と同時に、大会に出場している(スポーツ推薦入学とは無縁の)3年生の多くが大学受験を間近に控えているこの時期、テレビが過剰な演出で取り上げることの罪を考えざるをえなかった。

 箱根駅伝が大学対抗のかたちをとらなくなったら、その人気は急落するだろう。しかし、学校単位で行なうスポーツから脱皮しないかぎり、少なくとも駅伝がオリンピック競技になることは難しいと思う。

(芳地隆之)

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