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2013-04-03up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.214

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マネー資本主義
暴走から崩壊への真相

(NHKスペシャル取材班著/新潮文庫)

 1990年代末に起こった米国のITバブルは、冷戦終了後の軍事予算の縮小によって余剰となったエンジニアたちの転身が生んだ面もあった。2008年秋のリーマンショックをもたらしたのは、マサチューセッツ工科大学などで高等数学を学んだ人々である。金融機関がリスクを負わないで済む究極の金融商品の発明に、米国屈指の頭脳をもつ人々が引き寄せられていった。

 そのひとつサブプライムローンは、人々にマイホームをもつ夢を実現するものとして宣伝されたが、「サブプライム」=「優良ではない借り手」に住宅購入資金を貸し付け、そのリスクは債権化して、他の金融商品に混ぜ合わせて売るというのが商品の実態である。

 金融機関はレバレッジ(「てこ」の意味)を利かせて、自己資金の何倍もの借り入れをして投資した。土地と住宅の価格が上がり続けているうちは「濡れ手に粟」のビジネスモデルである。しかし値が下がり始めた途端に崩壊は始まった。ライバルとのなりふり構わぬシェア獲得競争に狂奔した世界最大手の投資銀行、リーマンブラザースは経営破たんし、不良債権は世界中に散らばった。

 日本では現在アベノミクスのおかげか、土地や株価が上昇し、「バブルよ、もう一度」と言わんばかりの風潮が生まれている。デフレの克服を目指した金融緩和が、回り回って庶民の懐を潤すのだろうか。だぶついたカネは投機に流れるだけではないのか。

 カネがカネを生むというのはゼロサムゲームである。誰かが得をすれば、どこかで必ず損する者がいる。

 実業を支えるのが金融機関の使命である、といえば、いまもウォール街では鼻で笑われるのかもしれない。世界を見渡せば、先進各国が「世界の超金余りによって引き起こされた住宅バブルとその崩壊による未曽有の金融危機。その傷跡を世界に更なるマネーをばらまくことで乗り越えよう」としている。

 資本主義システムが崩壊に向かう足音が聞こえてくる。それをどうやって食い止めるか。本書における識者へのインタビュー、元西ドイツ首相のヘルムート・シュミット氏(「政府の怠慢が危機を招いた」)、ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・スティグリッツ氏(「規制緩和を推し進めた政治の腐敗」)、社会的共通資本の大切さを説く東京大学名誉教授の宇沢弘文氏(「人間の心をもった社会に立ち返る」)らの提言にしかと耳を傾けたい。

(芳地隆之)

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