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2012-08-29up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.202

ルート・アイリッシュ

(2010年英・仏・ベルギー・伊・スペイン製作/ケン・ローチ監督)

 葬儀の場でいくら「名誉の戦死」「わが国の英雄」などと称えられても、棺にユニオンジャックの旗がかけられるわけではない。おざなりな儀式で終わるのは、死者が国軍兵士ではなく、軍隊の下請けをする民間会社に雇われた身ゆえである。

 英国リバプールに住むファーガスは、長年来の親友、フランキーを戦火のイラクに誘った。報酬は月1万ポンド・税抜。2人は現地へ赴くが、彼らは軍隊の後方支援だけではなく、実際の戦闘にも加わる。嫌気のさしたファーガスは先に帰国。残ったフランキーは、安全区域(グリーンゾーン)とバグダッドの空港を結ぶ、イラクで最も危険な道路といわれる「ルート・アイリッシュ」を何度も往復したあげく、テロリストの攻撃に遭い命を落とした。

 会社の経営陣は遺族やファーガスの死をこう伝えた。しかし、その説明には腑に落ちない部分が多い。フランキーが知人を通して秘密裏にファーガスへ送った携帯電話には、タクシーに乗ったイラク人の母と娘がフランキーの仲間による誤射で殺害される映像が残されていた。それを目撃した少年たちも口封じで射殺されている。ファーガスはその映像と携帯電話に残されたアラビア語のメッセージを手掛かりに、フランキーの死の真相究明に乗り出す。

 その過程で明らかになるのは、金儲けのためには人命など眼中にない戦争ビジネスの実態だ。戦争さえも民営化された世界で、少女は銃撃を受けて血だるまになり、爆撃に遭った少年は瀕死の状態で大人たちに運ばれる。占領軍はテロリストが潜んでいるとみなした家であれば、夜間だろうが土足で踏み込み、住民に銃口を突きつける。口を割らすためには過酷な拷問も辞さない。

 戦場仕込みの技術と腕力で真犯人を捜すファーガスにしても、ヒーローからはほど遠い。携帯電話に残されたアラビア語の翻訳を頼んだ在英イラク人歌手から彼はこう問われる。

 あなたは(事件の真相には関心があっても)、被害者(イラク人家族)には関心がないのか?

 これまで数多くの作品で国家や社会の不正や欺瞞を告発してきたケン・ローチ監督の演出には凄味が増している。腐った現実を白日の下にさらすだけでなく、彼はリバプールにまでイラクの戦場を持ち込むのだ。

 映画としての落とし前をつけるかのようなラストは、ベテラン監督の闘争心がいささかも衰えていないことを証明している。見終わった後、しばし言葉を失った。

(芳地隆之)

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