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2012-05-16up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.197

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フクシマと沖縄
「国策の被害者」生み出す構造を問う

(前田哲男/高文研)

 戦争が起こらずして、深刻な核の脅威にさらされている事実に、私たちは狼狽えている。これまで、「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ」を叫びながら、「原発の平和利用」を信じてきたこと、「日本の安全保障」のためにと、自国民にとって危険な外国軍基地の存続を容認してきたことの代償だ。

 しかも、そのツケを払わされているのは、原子力発電所の重大事故に見舞われたフクシマ(著者はこの地を「ヒロシマ」「ナガサキ」と同じ意味でカタカナ表記する)、戦時中、本土防衛の目的で多くの民間人が犠牲となり、戦後は在日米軍基地の70%以上を押し付けられている沖縄である。本書を読むと、この2つの地が「国策の被害者」という点で一致していることがわかる。

 しかも3・11以降、私たちは危険で厄介なものを周縁に押し付けて事足る、というわけはいかないことを知らしめられた。

 著者がかつて長崎放送の記者として、佐世保に寄港するアメリカの原子力艦船を取材していた1960年代、原潜が潜航中に沈没する事故があったという。2005年以来、横須賀を母港としているアメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」には、熱出力60万キロワットの原子炉が2基、発電炉に換算すると40万キロワットの「核プラント」が備わっている。これは「海に浮かぶ原発」だ。もしそこで事故が起これば、最大110キロ範囲に放射性生成物が飛散し、ガンなどの後遺的影響により7万7000人の死者が出ると推測されている(2008年に発表された米環境研究所「デイビス・リポート」)。東京湾は放射性物質が沈殿した死の海になるだろう。

 本書は、軍事ジャーナリストとして、長年に渡り核問題を追い続けてきた著者が自分史を語ることによって、私たちが日常的に「核」と隣り合わせで暮らしていることを明らかにしていく。

 歴史という縦軸から浮かび上がるのは、日本政府の、そして東京など大都市に生活する私たちの差別意識だ。先日、沖縄が日本に返還されてから40年を迎えたが、長い年月の間、私たちはかの島に面倒を押し付ける愚を改めようとしてきただろうか。そうした問いとともに、核の実験場とされ住民がいなくなったマーシャル諸島の現実を見せつけられると、無力感から立ち尽くすしかない気持ちにさせられる。

 しかし同時に、そこを出発点にしない限り前には進めない、という思いも深めるのである。

(芳地隆之)

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