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2011-12-21up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.185

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羊の木1

(原作:山上たつひこ 作画:いがらしみきお/講談社コミックプラス)

 地域を担ってきた産業が衰退し、商店街はシャッター通りと化して、町を歩いている人はお年寄りばかり――日本の多くの地方都市で見られる風景。この物語の架空の舞台である魚深市も例外ではない。

 そこに刑期を終えた凶悪・悪質な犯罪者が、法務省から送りこまれる。全国各地の刑務所はどこも受刑者で一杯だ。彼らを矯正する仕事も「官から民へ」。刑期を終えて出所した者をきちんとした「市民」にすることも、市民の使命である――それを実現するための試験場として、魚深市が選ばれたのだった。財政状況の厳しい同市向けの新しいかたちの公共事業である。

 出所してきたのは11人。運送会社の社員を装って初老の女性宅に入り、彼女を馬乗りになって絞殺した男、勤務先の社長の愛人となり、後に捨てられた腹いせに社長の娘を誘拐、少女の身体をナイフで傷つけた女、妻に対する激しいDVを彼女の父親にまで向けた男など、その犯罪歴を聞かされただけで身震いする。が同時に、犯罪に対する裁きは一定のルールにおいて行われるが、犯してしまった者の動機やその行為は一人ひとり違うことを改めて知らされる。

 この事業を知るのは、市長の鳥原、彼の友人の仏壇店店主・地元商工会役員である月末(つきすえ)、老舗和菓子店を営む町の名士的存在の大塚の3人だけだ。月末と大塚が手分けして出所者を町へ連れてくる。住民には知らされない(元受刑者同士もお互いを知らない)。何か起こっても、誰も責任をとらない(とれない)「公共事業」はこうして始まる。

 どう考えても不穏な行く末を予想せざるをえない物語だが、緊張感を強いられる展開のなか、絶妙なタイミングで挿入されるギャグが冴える。読者はときおり吹き出しながら、人間の抱える闇のなかへと入っていく。

 1巻では、のろろ祭りという「奇祭中の奇祭」が魚深市で行われるまでが描かれる。第2巻は来年夏の発売予定とか。 巻末の山上たつひこ氏といがらしみきお氏の対談によると、原作は完結しているという。それが漫画としてどうやって消化されるのか、そして、この物語はいったいどこに着地するのか。

 おそるおそる次号を待っている。

(芳地隆之)

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