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2011-07-06up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.175

100,000年後の安全

(2009年デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア/マイケル・マドセン監督)

 放射性物質は無色透明で匂いがしないので、人間の五感で感知することはできません。しかし、それが人体に入り込むとDNAは破壊され、吐き気や嘔吐を催し、数日後には死んでしまうこともあるのです――この映画に登場する女性の専門家の言葉がじわじわと効いてくる。

 フィンランドでは、原子力発電所から発生する放射性廃棄物の最終処理場(通称「オンカロ」=「隠れ場所」)建設プロジェクトが進んでいる。それを映像化したドキュメンタリーが本作品だ。

 オルキルオトというトナカイの生息する森の地下500メートルのところに全長5キロメートルのトンネルを掘り、放射性物質を恒久的に埋蔵する計画である。地上では何が起こるかわからない(地震でスーパーの棚から商品が落ちるシーン、橋が崩れ落ちているシーンが挿入される。なんとも暗示的だ)。その点、地下では大きな変化が起こらないので安全という発想だ。ただし、放射性物質が生物に無害なものになるには、10万年という時を要するけれども。

 マドセン監督は、プロジェクトに関わっている技術者、原子力の専門家へのインタビューを重ねる。彼らが懸念しているのは、トンネルの奥に封じ込めた放射性廃棄物を、未来の人類が掘り起こしてしまわないかということだ。人間は好奇心の塊である。地中に「お宝が隠されている」と思って、掘削を始めないとは限らない。世界の主要言語で危険を警告しても無駄だろう。いまの私たちは1万年前の人類が書いた文字を解読できない。

 登場人物は饒舌さとは遠く、カメラの前で訥々と語る。まるで同国出身の映画監督、アキ・カウリスマキの作品に描かれる人々のようだ。

 冒頭、カメラがオルキルオトのトンネルにゆっくりと近づいていくところから目を奪われる。処理場施設の作業員のスローモーションなど、映像はスタイリッシュだ。中間処理施設で燃料プールに入った使用済み燃料集合体、移設内の白い壁とリノリウムの床の眩しさは、そこでは何物も生きられないことを表している。

 現在、世界には行き場のない放射性廃棄物が25万トンあるという。

 ちなみに私がこの映画を見た川越スカラ座では、上映最終日に哲学者の内山節氏を呼んでトークショーを行う。自然と人間と仕事の関係について深い思索を続け、かつ実践している氏はどんなことを語るのだろうか。

(芳地隆之)

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