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2011-03-09up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.166

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黒船前夜
ロシア・アイヌ・日本の三国志

渡辺京二/洋泉社

 本書は、日本が開国を迫られたペリー率いる黒船来航(1853年)よりもさらに半世紀以上遡る、蝦夷地(北海道)における日本人とロシア人、そしてアイヌの接触を中心に描いた物語である。昨年、第37回大佛次郎賞を受賞した。

 なぜロシア(ソ連)は第2次大戦時に千島列島を占領したのか。ロシアは日本の西方に位置するのだから、日本海を渡って日本列島に侵攻するのが普通なのではないか――。無学な私はかつてそう思っていたのだが、1792年に遣日使節のラクスマンが、1804年に外交官のレザノフが、日本との通商や国交を求めたころ、日本海側にロシアが自由に使える港はなかった。大陸のアムール川流域は清国の領土であったから、ロシアの船の多くはカムチャッカを発ち、オホーツク海を南下し、千島列島に沿って蝦夷地に向かったのである。樺太(サハリン)はまだ「大陸と陸続きの半島」だと思われていた。

 ロシア人が到着した蝦夷地を実質的に統轄していたのは松前藩だった。そこには先住民族アイヌが住んでおり、松前藩は蝦夷地を平定する能力のあることを江戸幕府にアピールするため、アイヌに対して不干渉を原則とし、余計な衝突は避けようとした(ただし、アイヌとの公益を欲深い商人に請け負わせたことに問題があった)。

 しかし、ロシアの存在が江戸幕府の北方への目を変える。蝦夷地を対ロ国防の最前線とするためアイヌを取り込む=日本国民にすることを考えたのである。日本のナショナリズムの萌芽だった。

 本書は歴史の大きなうねりを背景に、当時の人々の態度や物腰なども丁寧に描いていく。基本的にロシア人は日本人に敬意をもって接し、日本人はホスピタリティをもってロシア人を迎え入れていた。

 そして日ロ双方から取り込まれそうになりながら、自立心を忘れないアイヌの人々のしたたかさ。本書のエピローグに次のような一節がある。

 「アイヌには国家形成の能力がなかったのではなく、その意志がなかったのだ。この点において、アイヌは今日なお類いない光芒を放つ。忘れてはならぬが、初めてアイヌ社会を実見した本土の日本人たちは、国家をもたぬアイヌのあり方に羨望と郷愁をおぼえた」

 なんとも含蓄のある表現だ。

(芳地隆之)

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