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2011-01-12up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.163

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沈む日本を愛せますか?

内田樹・高橋源一郎/ロッキング・オン

 本書はロッキング・オン社が発行する季刊誌『SIGHT』に連載された内田樹・高橋源一郎両氏の対談を編集・加筆したものである。麻生内閣が末期的症状を見せていた2009年4月から、鳩山政権を経て、菅直人と小沢一郎による民主党代表戦直前まで。6回にわたる対談ならびに総括対談の進行役は『SIGHT』編集長の渋谷陽一氏だ。渋谷氏は第6回目の対談「我々は、『たそがれよ日本』を提唱する」で、次のように語っている。

 「……『消費税10%、いいよ』って言ったわけじゃん、国民のほとんどは。(略)でも、菅が『消費税10%』って言ったら『ふざけんな』って言った、そこの温度差だよね。(略)おまえわかってないじゃん、俺たちが『消費税10%、いいよ』って言っている理由が。おまえ、ただアンケート見て、『あ、10%、大丈夫なんだ』って思って言ってるだけじゃん。頭悪すぎだよっていうね。……」

 長い間続いた自民党政権に「ノー」を突きつけ、政権交代を実現させた有権者はかくも成熟しつつあるのに、肝心の政党、そしてマスメディアは旧態依然としている。内田氏は、鳩山政権が米軍の普天間基地を巡って迷走を続けたときのマスメディアの報道振りを例にこう語る。

 「『米軍と政権与党と沖縄県民、みんなが満足する解を』ってさ、あるわけないじゃないの、そんなの。あるはずのない解決を求めて、できなかったら文句を言うっていうのはさ、批評性でもなんでもないよ」

 私たち国民の多くは、沖縄の基地問題解決が隘路に陥ってしまった原因を鳩山氏個人の資質に矮小化してしまった。しかし、日本は本当に独立国家なのか(アメリカの傀儡国家ではないのか)という根本的な問いかけをすることなく、米軍基地問題は語れないはずであった。ところが、マスメディアは(意図的にか、無意識にか)それを隠蔽した。

 本書のタイトルには、人口が減少し、経済規模も縮小せざるをえない日本がダウンサイジングに向かうという現実から目を逸らさず、自らのあり方を見直そうという意味が込められている。

 世界に先駆けて少子高齢化社会に突入する日本は、将来、同じような事態を迎える先進国のお手本になるかもしれない。高度成長期という、特異な一時期をモデルとしてしか考えられないマスメディアに変わって、内田氏と高橋氏は政治、経済、文化、歴史を俎上に乗せて、日本という国の在り方について語り合う。随所に「小沢一郎はナロードニキ(19世紀後半のロシアで、都市の知識人階級が起こした社会運動)」といった、思いもよらない表現や指摘を散りばめながら。

 現実を見据えることなく、希望は生まれない。自分たちが置かれた状況を認識できれば、悲観主義から脱することができる。

 私たちの脳みそをほぐしてくれる、読むと癖になる対談である。

(芳地隆之)

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