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2010-09-29up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.154

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それでも、日本人は「戦争」を選んだ

加藤陽子/朝日出版社

 ベストセラーとなっている本書であるから、すでにお読みの方も多いと思う。日本の近現代史、なかでも満洲事変、二・二六事件、日中戦争勃発と、「下り坂に向かっていく時代」を専門とする歴史学者が、神奈川県の栄光学園の高校生および中学生に向けて行った講義をまとめたものだ。

 加藤先生は、日清戦争から太平洋戦争まで、日本が行ってきた戦争を世界史のなかに位置づけて語っていく。相手が中高生だからといって、必要以上に噛み砕いたりしない。彼らに向ける質問もなかなか難しく、読者は生徒たちと一緒に頭を絞って、答えを探し、その後の先生の説明に目からうろこを落としていく。

 そのひとつに、日中戦争が勃発したとき、当時の多くの日本人が両国の軍事衝突を、資本主義と共産主義が支配する世界における日本など「東亜」の国々の起こした革命と思っていたとの指摘がある。

 一方の中国はどうだったのか? 国民党政府の駐米大使、胡適は、戦闘に負け続けても日本との戦争を続けることで米ソを引き込み、最終的に日本が切腹せざるをえなくなったら、中国が介錯するという「日本切腹、中国介錯論」を展開していた。また、南京に成立した日本の傀儡政権のトップ、汪兆銘は、3~4年も対日戦争を続けていれば、中国は弱体化し、いずれソビエト化されると警告を発していた。2人の立場は違っていたにもかかわらず、双方とも予測を的中させている。

 片や日本はといえば、当時の国際社会の現実を冷徹に見ることなく、中国大陸での戦闘をずるずると続け、連合国とも戦火を交えることになった。しかも、どういうかたちで戦争を終えるか(何をもって勝利とするか)の明確な意思統一もせずに、である。

 私たちの国の近現代史を振り返った上で、加藤先生は昭和の初めに平和思想を説いた海軍の軍人、水野廣徳の名を挙げる。水野は1929年に発表した「無産階級と国防問題」で、島国日本の安全を脅かすものは経済的不安であるとし、「外国との通商関係の維持が日本の国家としての生命であるはず、ならば、それは他国に対して日本が『国際的非理不法』を行わなければ保障される」と述べたという。資源をもたない国が総力戦、持久戦に勝利しえないことを認識し、現実的な考えをもつ軍人が当時の日本にいたことに驚かされる。

 以上は本書のほんの一部を紹介したに過ぎない。日本が世界のなかで、これからどう生きていくか? そうした問いについて考えるためのヒントも、本書にはたくさん詰まっている。

(芳地隆之)

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