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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.136

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サブウェイ123 激突

2009年米国/トニー・スコット監督

 1974年に劇場公開された『サブウェイ・パニック』のリメイクである。地下鉄公安官役はウォルター・マッソーからデンゼル・ワシントンに、地下鉄ジャックの犯人一味の首領役はロバート・ショウからジョン・トラボルタに引き継がれた。舞台となるニューヨーク・マンハッタンもずいぶんと変わった。

 私はオリジナル作品が大好きだったので、正直、『サブウェイ123』には期待していなかった。リメイクは、それを熱望した監督や俳優の思いが空回りすることが多く、オリジナルの印象が強く残っている人を満足させるのは難しいだろう。そう思いながら見始めたのだが、結論からいえば、この映画は成功したと思う。

 あらすじはオリジナルとほぼ同じ。身代金目的の4人グループが地下鉄を乗っ取り、たまたまこの時間帯に地下鉄運行指令室で勤務していた公安官を交渉相手にする。両者の間で緊迫したやり取りが交わされる。

 リメイクのデンゼル・ワシントンにはウォルター・マッソーのとぼけた風情はない。主犯格のジョン・トラボルタは、正統的悪役を演じたロバート・ショウの重厚さに欠ける。だが、正義の側にいるはずのワシントンを、首に刺青を入れたサイコのトラボルタが追い込んでいく神経戦は、オリジナルにはない見応えだ。

 現在のニューヨークは、オリジナルが描いた35年前と比べると、すっかり清潔になった感がある。70年代のこの町には、もっと陰影があったのではないかと想像する。都市の浄化運動や9・11テロなどが、町の表情を変えたのだろう。

 しかし、表向きが綺麗になった代償として、この映画は、ウォールストリートでの不正な先物取引の罪を問われたことを逆恨みする凶悪犯を生んだ。

 イカれた役のトラボルタは本当に怖い。

 オリジナルは粋なラストシーンを用意していた。リメイクの方はマンハッタンに架かる橋の上でワシントンとトラボルタが対峙する。仰々しい設定だが、トニー・スコット監督は両者の内面に踏み込む一歩手前で留まったような気がする。派手なアクションの後での、抑制の効いた幕引きが好ましかった。

(芳地隆之)

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