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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.135

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中朝国境をゆく
─全長1300キロの魔境─

裴淵弘/中公新書ラクレ

 中国と北朝鮮を隔てているのは鴨緑江と豆満江の二つの川である。両国国境をまたいで聳える白頭山を水源とし、鴨緑江は西に流れて黄海に注ぎ、豆満江は東に流れて日本海に注ぐ。前者の長さは803キロ、後者は547キロ、ロ朝国境となる豆満江河口までの40キロを差し引くと全長約1300キロの国境の川となる。

 本書はここ10年間の中朝国境の変化を語り、同地域の歴史を振り返りながら、将来を展望する。それらを読んで痛感するのは、同じ分断国家であった東西ドイツの置かれた状況と、朝鮮半島のそれとのあまりに大きな違いである。

 場所によっては腰くらいまでの深さしかない、狭い川幅を北朝鮮の住民が渡って、中国へ逃げる。そんな人々は「脱北者」と呼ばれる。かつて韓国は、北朝鮮を脱出し、第三国経由で亡命してくる人々を「帰順者」として歓迎していた。「帰順者」は北朝鮮に対する韓国の優位性の証明だからだ。ところが1990年代半ば以降、北朝鮮難民が急増すると、韓国政府は彼らを敬遠し始めた。そして、いつからか「帰順者」は「脱北者」になった。

 中国は「脱北者」に対して厳しい姿勢で臨んでいる。北朝鮮が軍事同盟を結ぶ唯一の国である中国にとって、北朝鮮の現体制の崩壊は、大量の難民が川を越えて自国に押し寄せることを意味する。しかも、北朝鮮と国境を接する延辺朝鮮族自治州には多くの朝鮮族が住んでいるため、北朝鮮体制の崩壊、朝鮮半島の統一が、中国側に住む朝鮮族の独立気運を高めることになるのではないかと中国政府は警戒しているのである。

 隣国は本音のところで、北朝鮮の民主化を望んでいないのではないか。日本にしても、経済制裁を声高に叫んではいても、北朝鮮の政治改革に対する関心は低い。

 北朝鮮の体制転換をソフトランディングさせるには、人とモノの交流を活発にさせることしかないのかもしれない。

 先日、朝鮮族自治州の州都、延吉市で貿易会社を経営している日本人と会った。延吉市を拠点に、北朝鮮やロシア極東との新しい商流を探る彼の話から、北朝鮮の人々の意外な商売っ気について教えられた。

 朝鮮族自治州と北朝鮮北部、そしてロシア極東。これまで各国の辺境に過ぎなかった地域が新たな物流ルートになるにはもう少し時間がかかるだろう。しかし、東アジアの冷戦体制に幕を引くのは、中朝国境地域の経済発展ではないかと私は思っている。

(芳地隆之)

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