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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.105
寺島実郎の発言≪2≫経済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか

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寺島実郎の発言≪Ⅱ≫
経済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか

寺島実郎/東洋経済新報社

 2005年5月、町村外相(当時)は世界各国に赴任している約120人の大使を外務省に招集し、赴任先の政府要人に「日本の国連安全保障理事会常任理事国入り」への支持を取り付けるよう檄を飛ばした。日本はドイツ、インド、ブラジルとともに国連改革に関するG4案を出していたのである。しかし、同案に賛成したアジアの国はモルディブ共和国とブータンのみだった。しかも、この2国はインドに配慮して賛成を表明したので、日本が集めたアジア票はゼロである。

 日本が置かれた内外の情勢をみれば、この結果は当然ともいえた。中国で小泉首相(当時)の靖国神社参拝に端を発する反日デモが激しさを増しているなか、日本政府は中国または中国の機嫌を損ねたくない隣国に具体的なアプローチをとることはなかった。しかも、常任理事国入りが果たせなかったことの検証がなされぬまま、その後は郵政選挙の躁状態に入ってしまったのである。

 本書は三井物産戦略研究所や日本総合研究所の会長を務める寺島実郎氏が、2003~2006年にかけて新聞・雑誌に寄稿したコラムや論文、彼へのインタビュー、故加藤周一氏との対談などを収録したものである。その数々を読むと、熱病に浮かされたような日本で、世界における日本のありかたを深く考える経済人の姿が浮き上がってくる。

 9・11を「これは戦争だ」とアフガニスタン、イラクへの攻撃を開始した逆上するアメリカに引きずられ、イラクへの自衛隊派遣を決定した日本政府を支配したのは、アメリカについていくしかないという「仕方がない症候群」だった。小泉首相は「日米関係がうまくいっていれば、日韓・日中の関係も全てうまくいく」と言ったが、中国はアメリカのイラク攻撃に反対しながら、かつアメリカとの関係を悪化させないしたたかな外交を展開し、経済面で見れば、世界の港湾ランキング(コンテナ取扱ベース、2002年)の上位を香港、シンガポール、釜山、上海、高雄が占めるようになった(一方、東京は18位、横浜は24位、神戸は27位)。北方では、豊富なエネルギー資源をバックにロシアが再び大国として台頭している。

 世界が大きく変わっていくなか、日本のアンテナはあまりに鈍くないか。

 本書は著者が様々なメディアで発表した文章を載せているので、同じ論考が散見される。パッチワーク的な編集の感は否めないが、逆に著者の強調したい点が十二分に伝わってくる。

 「アメリカとの関係を大事にしながらも、アジアとの深い相互信頼関係を作っていくゲームをこの国(日本)ができるのか」

 決して容易なことではない。これをやりがいのある課題とみるか、みないかで、21世紀の日本の行方が占えると思う。

(芳地隆之)

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