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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.16
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夕凪の街 桜の国

こうの史代/双葉社

 ひとコマひとコマが静かに、そして丁寧に読者に語りかけてくれます。

 靴の底が磨り減らないよう、仕事帰りは途中で裸足になって帰る平野皆実、彼女のかつての友人を訪ねるため、家族に内緒で東京から長距離バスに乗りこむ石川旭、その旭を親友と一緒に尾行する娘の七波、親友は七波の弟、凪生の恋人だった利根東子……。

 過去と現在、死と生、そして未来へのまなざしが交錯する物語に、広島へ落とされた原子爆弾が深い影を落としていることを読者は知ります。

 喜び、悲しみ、悔しさ、怒りなど、人にはいろいろな感情があります。けれども、普段の生活で、それらを同時に抱くことはめったにありません。うれしいはうれしいで、悲しいは悲しい――。

 この作品を読んでいると、人間の愛おしさ、世の不条理さへの怒り、生きることの悲しみや希望など、様々な感情が同時に胸からこみ上げてくるのです。
 私はページをめくる手を何度か止めて、目頭を押さえざるをえませんでした。

 戦争とは、戦闘が行われているときだけを指すのではない。本当に辛い日々はその後に待っている。

 作者の、こうの史代さんは1968年、広島生まれ。彼女の細やかなペンの動きから描き出される人と風景を見て、過去を語り継ぐことの意味を考えさせられました。

 映画『夕凪の街 桜の国』は7月下旬に公開予定だそうです。
 スクリーンをご覧になる前に、ぜひ原作を手にとってみてください。

(芳地隆之)

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